漢方医学について

さて、今回の話題は漢方医学に触れてみました。

現代の医学には、西洋医学を前提として、東洋医学などを組み合わせて心身を診る「総合医療」という考え方があります。
高齢社会を背景に「人生100年時代」といわれるようになり、病的状態からの完全な回復を意味する「キュア」から、「看護と介護」という癒やしを中心とする「ケア」へと医療の考え方も変化し、「総合医療」の重要さが増加しています。

最近の大きな変化としては、疾病の治癒と生命維持を主目的にするキュアから、慢性疾患や一定の支障を抱えてもQOL(生活の質)を維持・向上させ、身体的のみならず精神的・社会的な意味も含めた健康を保つことを目指すケアへ舵が切られています。

漢方医学では、2千年前から人間の体のピークは女性は28歳、男性は32歳とされ、それ以降は緩やかに低下していくと考えられています。そうであれば高齢者だけではなく、ピークの年齢を過ぎた方全てに対してケアの視点は大切になってきます。
身体機能の低下を悲観せずに、加齢に過剰に抗する(抗齢)ことなく、身体と心のバランスのとれた前向きな生き方をすることで、落ち込むペースの低下を緩やかにしながら生きる「ポジティブ・エイジング」という考え方が重要な要素となっています。

現代医学に「予防医学」という分野がありますが、漢方医学には「未病医学」という思想があります。
未病とは、「発症する前に食い止める」という意味で、現代医学の予防医学が感染症の予防を中心として発展してきたのに対して、未病医学は、生活習慣病(成人病)や現代の難病に相当する疾患の予防を対象としてきました。
未病医学こそプライマリ・ヘルス・ケア(すべての人にとって健康を基本的な人権として認め、その達成の過程において住民の主体的な参加や自己決定権を保障する理念)ということもできるでしょう。
すなわち、発病前に出現した証で発病を予測し、証にあった漢方薬を投与することによって証が消失し、「未病段階で治し、発症させないようにすることができる。」これもまた、現代医学と漢方医学の大きな違いといえるのではないでしょうか。

「漢方」とは鍼灸や食養生も含めた医学を意味しており、「漢方薬」は、漢方医学の理論に基づいて処方される医薬品のことです。
漢方の基本は、“人間の体も自然の一部”という考え方です。
“病気ではなく病人をみる”、という考え方で、体の一部分だけにスポットをあてるのではなく、体全体の状態のバランスを総合的に見直すといった特徴があります。
また、体質や生活習慣などから見直し、整えていくことも行います。
なお、漢方は、病名がついていない不調(未病※)にもアプローチできるのも大きなポイントです。

人の健康状態は、ここまでは健康、ここからは病気と明確に区分できるわけではなく、健康と病気の間を変化しています。「未病」とは発病には至らないものの軽い症状がある状態をいいます。
漢方医学は、長い伝統と豊富な経験から作られてきたもので、体本来のもつはたらきを高めるように作用して、体自身の力で正常な状態に戻そうとするものです。
局所的に現れた症状だけを見るのではなく、病気の人全体を見て、心身全体のひずみを治していくという総合治療だと言えます。
自覚症状を重視して、その人ごとに違う個人差を大切にします。
そのため、具合が悪く病院で検査をしたが、数値は悪くないといった症例にも対応していくことができます。

漢方医学はその考え方にQOL(生命の質)の向上につながるものを多分に持っていると言えます。
総合医療は現代医学と異なった切り口から、人の健康を維持・改善していく漢方医学を取り込むことで、QOL(生命の質)の向上に一役も二役も買っているといえるのではないでしょうか。