バイアスとは?

さて、今回の話題は「バイアス」についてのお話です。

バイアスとは先入観や偏見、思い込みを意味します。
“ 昭和 “の時代に育った私にとって、これまでの経験や見聞きしたことなど、生まれ育った時代の影響は大きく、自然と培われた「バイアス」は、とても多く存在していると思います。

最近話題のTVドラマに、阿部サダヲさん主演の「不適切にもほどがある!」という意識低い系のヒューマンコメディがあります。
ご存知の方もおありかと思いますが、昭和の頑固おやじが令和にタイムスリップし、コンプライアンス無視の言動でドタバタ劇を繰り広げるという宮藤官九郎さん脚本のドラマです。
今ではありえない不適切な言動の数々、昭和ネタ満載のドラマですが、コンプライアンスで縛られ、不寛容となった令和の人々に考えるキッカケを与えていくという趣旨のストーリーとなっています。
近頃は、若い方々の方が “昭和的な演出“ を逆に新しく感じるようで、本当に何が流行るかわからないですね!

「バイアス」と聞いて、まず連想することは、現役時代にダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)研修で学習したテーマ「アイコンシャス・バイアス」を思い出します。
アイコンシャス・バイアスとは、誰しもが持つ「無意識の偏見」「無意識の偏ったモノの見方」のことで、過去の経験や知識・価値観から他者に偏った判断をしてしまう心理現象を指します。

例えば、アイコンシャス・バイアスから生まれる言動には、次のような例が挙げられます。
・年齢、性別、国籍、就労形態などで相手を見ることがある。
・性別で任せる仕事や役割を決めていることがある。
・男性から育休や介護休暇の申請があると、「奥さんは?」と咄嗟に思う。
・「普通はそうだ」「こうあるべきだ」「どうせムリだ」と頭ごなしに決めつけてしまう。
などがあります。

アイコンシャス・バイアスに気づかずにいると、そこから生まれた言動がハラスメントの原因となり、知らず知らずのうちに相手を傷つけたり、キャリアに影響をおよぼしたり、自分自身の可能性を狭めてしまうなど、さまざまな悪影響があるため特に注意が必要です。

逆に、 “アイコンシャス・バイアスへの気づきは、人々の多様性を認め、それぞれの個性(違い)を受け入れることで、誰もが働きやすく、良好な人間関係が築け、一人ひとりの能力を最大限に発揮できる組織づくり、イキイキと活躍できる社会への第一歩となる、ということを学びました。

アイコンシャス・バイアスを解消する対策としては、以下の取り組みが効果的です。
1.決めつけない、押しつけない。
2.相手の表情や態度の変化など「サイン」に注目し、フォローを心掛ける。
3.自分のモノの見方のクセや思考のクセを知る(自己認知)。
4,自分の価値観、相手の価値観、共通の価値観を知り、互いに対話することで相互理解を目指す。
などがあります。

このように、バイアスには日頃の暮らしの中で経験値にもとづいたものや、「なるほど!」と思わず納得するものも多く、人間の心理を学ぶ上で面白いものが沢山あります。

そこで今回は、科学雑誌「Newton(ニュートン)」の2023年2月号、及び、2024年3月号にそれぞれ記載されていた「バイアス」に関する特集ページから一部を引用して紹介したいと思います。

人の心に無意識のうちに存在する偏見や先入観、記憶・判断のゆがみやかたよりなど、いわば「心のクセ、考え方のクセ」のことを「認知バイアス」といいます。
「私たちは知らず知らずのうちに、思い込みにとらわれている」、と言われたら?、あなたは「自分はそんなことはない」と思うかもしれません。
しかし、心理学によれば、人間の記憶や判断などの「認知」は、先入観などから大きな影響を受けているといいます。
認知バイアスは、直感的ですばやい意思決定、認知を可能にするためには必要な面もありますが、非合理的な考えにおちいる原因にもなりえます。

例えば、代表的なバイアスの一つに「正常性バイアス」があります。災害時や予期しない事態に直面した際に、「このくらいなら大丈夫」などと思ってしまう「正常性バイアス」は、命にもかかわる認知バイアスとして知られています。
ふりかかる危険を過小評価して、危険が迫っていても過信して無視をしがちなため注意が必要です。

そのほかにも、私たちの日常生活の中では、無意識のうちに心を操る数多くの認知バイアスが存在しています。
さらにそのいくつかを抜粋し、簡潔に記してみたいと思います。

○確証バイアス
自分に都合の良い情報ばかりを集め、反証する情報を軽視してしまう現象

A型の人は几帳面で。B型の人は自由奔放というように、人の性格と血液型には関係があるといわれることはよくあります。そう思ってしまう原因の一つが、「確証バイアス」という認知バイアスです。しかし、性格と血液型の関係に、科学的根拠はありません。
確証バイアスとは、自分の仮説や信念と一致する情報ばかりに注目し、それ以外の情報を無視しやすい傾向のことです。
例えば、「A型の人は几帳面だ」と思い込んでいる人は、A型の人の几帳面な行動ばかりに注目し、大ざっぱな行動にはあまり注意を払わない傾向があります。その結果、「A型の人はやっぱり几帳面だ」と思ってしまうのです。

○生存者バイアス
「成功から学ぶ」だけでは見落としてしまうものもある。

私たちは、ビジネスやスポーツ、勉強の方法などにおいて、成功した人の事例に注目し、それを真似しようとする傾向があります。
例えば、仕事や勉強においても、成功した原因は何か?といった事例では、成功に結びついた方法ばかりに注目しがちで、失敗した人の事例は考慮せずに、誤った判断や結論を導き出してしまいがちです。
これを「生存者バイアス」といいます。
成功の方法を適切に判断するには、失敗した人の事例も合わせて確認することが重要です。

○皮肉過程理論
「シロクマについて考えるな」といわれると、シロクマが頭に浮かんでくる。

ダイエット中に、大好きなケーキを食べないように努力していると、かえってケーキのことばかりが頭に浮かんでくる。
このように、ある事例について考えないように努力するほど、皮肉なことにそのことが頭からはなれなくなってしまう。こうした人間の心理を理論化したものが「皮肉過程理論」です。
そこで、この現象がおきないようにするには、「何かを考えない」のではなく、無関係な「別のことを考える」とよいでしょう。

○現状維持バイアス
人は得よりも損のほうが気になる。挑戦ではなく現状維持を選びやすいわけ。

新しく挑戦することが合理的な状況であっても、失敗をおそれて現状維持を選択する傾向を「現状維持バイアス」といいます。
これは、人は何かを得ることを期待するよりも、失うことを回避しようとするためだと考えられています。
このバイアスを説明する理論に、行動経済学でいう「プロスペクト理論」があります。
この理論によれば、ある利益を得ることに対して、同程度の損失をこうむることによる心理的インパクトは1.5倍~2.5倍大きいといわれています。
やはり人は、得よりも損の方が重く感じるようです。

いかがでしょうか。これまでに体験されたバイアスはありましたでしょうか。
そのほかにも、よく知られた認知バイアスとして、

○バンドワゴン効果
「みんながやっているから安心」などと、大勢の人が選択している判断は、個人の判断よりも正確であると思い込んでしまうバイアスのこと。

○ハロー効果
ある対象を評価する際、その一部の特徴的な印象に引きずられて、全体を評価してしまうバイアスのことで、光背効果、ハローエラーともいいます。
ハロー効果には、ポジティブ・ハロー効果とネガティブ・ハロー効果の二つがあります。

どうでしょう、認知バイアスにはさまざまなバイアスがありますが、ご自身の経験と照らし合わせて、思い当たる節があった方もいるかも知れません。
バイアスは誰にでもあって、あること自体が問題というわけではありませんが、最後にその弊害からの避け方を述べて終わりたいと思います。

認知バイアスとのかかわり方
判断の根拠を探すことで、認知バイアスの弊害を避けられる。
無意識のうちに存在し、自分ではなかなか気づくことのできない認知バイアスですが、うまくつきあっていくためにはどうすればよいのでしょうか。

その第一歩は、認知バイアスをよく知ることです。
多くの事例をあらかじめ知っておくことで、自分の「考え方のクセ」を意識する機会が増えるでしょう。
そして相手の視点に立って考え、相手と自分の「認識のズレ」を理解することが大切です。
さらに、大事な決断をする際には一呼吸おき、判断を急がないようにしましょう。判断の根拠をきちんと探すことは、誤った決断や不要な衝突をさける一助となるはずです。

昨今は、社会の変化が激しい時代です。シニアの皆さまにとっては、昭和の時代に培われた考え方、固定概念が邪魔をして、アイコンシャス・バイアスに気づかず、人を傷つけてしまうこともあるかも知れません。
あるいは、現状維持バイアスにもなりがちです

QOL(生活の質)を高め、Well-being(より良く生きる)を叶えるためにも、まずは、自分の「バイアス」を意識し、できれば「非合理的な判断」をしてしまうことのないようにしたいものです。
「つい、してしまう」ー、その行動には科学的な理由がある、ということですね。(ふ)

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