孤独・孤立問題を考える

さて、今回の話題は「孤独・孤立問題」についてのお話です。

人生や老後には三つの不安 があるといわれています。
それは、「お金」「健康」「孤独」の三つを指します。
「老後の三大不安」、または「老後の3K」とも呼ばれ、高齢者は一般的にこの三つに対して大きな不安を持っているといわれます。

この4月1日、新聞各紙でも取り上げられていましたが、「孤独・孤立対策推進法」が施行されました。
この法律は、国及び地方において、総合的な孤独・孤立対策に関する施策を推進するため、その基本理念や国等の責務、施策の基本となる事項、国及び地方の推進体制等について定めるものです。

政府の調査では、日本国民の4割が何らかの孤独感を抱えているとの結果がでており、深刻化する社会的な孤独・孤立の問題に対して、社会全体で手を差し伸べていける支援体制の強化が急務でした。

そして、この孤独・孤立問題が社会的に大きく注目される契機となったのは、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大でした。
度重なる外出自粛や非接触によるコミュニケーションの減少、相談支援を受ける機会の喪失など、慣れないニューノーマル(新しい生活様式)への対応が長期間におよび、孤独を感じる人がより一層増えました。

世界で初めて孤独・孤立問題に取り組んだ国はイギリスです。
2018年1月に孤独問題担当大臣を任命したイギリスは、同年の10月には「孤独対応戦略」を発表し、施策の推進状況を年次報告書で公表しています。
イギリスの孤独対応戦略では、その目標を「孤独について話し合うことで、孤独を恥ずかしいと思う人を減らすこと」、「政府における政策の立案において、つながりの強化を考慮すること」、「孤独に取り組むうえで、エビデンスに基づいた改善を行なうこと」の3点としています。その後、この「孤独・孤立問題」は世界的な課題となり、ドイツやアメリカなどの国々でも取り組みが始まりました。

また、世界保健機関(WHO)では2023年、「孤独・孤立」を “ 世界的に差し迫った健康上の脅威 “ として、公衆衛生上の重要課題と位置づけ、「社会的つながりを育む委員会」の新設を発表しました。
孤独・孤立は世界中のあらゆる年齢層の健康と幸福に影響を与えています。
ある研究結果によると、高齢者の4人に1人が社会的孤立を経験しており、その割合はどの地域でもほぼ同じで、高齢者だけではなく青少年でも 5~15%は孤独を経験しているということがわかりました。
孤独・孤立という“ 社会的つながりの欠如 “は、喫煙、過度の飲酒、運動不足、肥満、大気汚染など、他のよく知られた危険因子と同等、またはそれ以上の早期死亡のリスクをもたらし、身体的および精神的健康にも深刻な影響を及ぼしているとして、その実態を公表し問題視しています。

日本でも、法律の成立に先立ち、2021年に「孤独・孤立対策の重点計画」が策定されています。(2021年12月28日 孤独・孤立対策推進会議決定)

この重点計画では、基本的な考え方や課題などがわかりやすく書かれていますので、抜粋して少しご紹介したいと思います。

2.孤独・孤立対策の基本理念
○孤独・孤立は、人生のあらゆる場面において誰にでも起こり得るものであり、支援を求める声を上げることや人に頼ることは自分自身を守るために必要であって批判されるべきものではない。また、孤独・孤立は、当事者個人の問題ではなく、社会環境の変化により当事者が孤独・孤立を感じざるを得ない状況に至ったものである。
孤独・孤立は当事者の自助努力に委ねられるべき問題ではなく、現に当事者が悩みを家族や知人に相談できない場合があることを踏まえると、孤独・孤立は社会全体で対応しなければならない問題である。

○「人間関係の貧困」とも言える孤独・孤立の状態は、「痛み」や「辛さ」を伴うものであり、心身の健康面への深刻な影響や経済的な困窮等の影響も懸念されており、孤独・孤立は命に関わる問題であるとの認識が必要である。

○一般に、「孤独」は主観的概念であり、ひとりぼっちと感じる精神的な状態を指し、寂しいことという感情を含めて用いられることがある。
他方、「孤立」は客観的概念であり、社会とのつながりや助けのない又は少ない状態を指す。(中略)
孤独・孤立に関して当事者や家族等が置かれる具体的な状況は多岐にわたり、孤独・孤立の感じ方・捉え方も人によって多様である。

いかがでしょうか。
この重点計画を知って以降、自分事にもなりうる孤独や孤立について、その支援や対策の必要性、そしてこのような社会課題を生んでしまう現代社会のあり様について、改めて考えさせられました。

そのようなことから、将来の「孤独・孤立問題」について、複眼的な視点で考えていただくために、ここで関連する話題を二つ三つご紹介させていただきたいと思います。
大変興味深い内容ですので、ぜひご覧いただけると幸いです。

まず1つ目は、先日の4月12日に総務省より発表されました人口推計についてのお話しです。(2023年10月1日時点)
日本では13年連続して人口減少が進み、外国人を含む日本の総人口は前年比59万5000人少ない 1億2435万2000人でした。
また、日本人の人口は 1億2119万3000人で、何と83万7000人減り、1950年以降では最大の落ち込みとなっています。

いずれにしましても、出生児数が死亡者数を下回る自然減が17年連続となっている状況は大変危惧すべきことと言わざるをえません。
そして少子化と共に高齢化も一段と進んでおり、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は29.1%と過去最高を更新し、75歳以上は初めて2000万人を超えたということです。

さらに同日に発表された、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の世帯数の将来推計によると、1世帯あたりの平均人数も年々減少しており、9年後の2033年には1,99人と初めて2人を下回ることがわかりました。
全体の世帯数は2020年に5570万世帯で、一人暮らしの世帯の割合は38%でしたが、2050年には5260万世帯と減少するにもかかわらず、一人暮らしの世帯の割合は44%となるようで、高齢者の一人暮らしも、全世帯の2割を初めて超えるという推計になっています。

まさに、一人暮らし世帯が急増する日本の姿が明らかになったわけです。

一人暮らしの高齢者が増える主な要因は未婚率の上昇で、社人研の推計では2050年時点では高齢単身世帯に占める未婚者の割合は、女性で30%、男性では60%にのぼり、今後はいざというときに頼れる近親者のいない高齢者が急増する可能性が高いと報告されています。

このような将来推計となることは、なんとはなく想像できますが、驚くべきことはその進み具合の速さです。
まずは自らが、一人暮らしのリスクに対して早くから備えておくことが必要です。そして何よりも、一人暮らしの高齢者を支える社会の基盤づくりが欠かせません。

次に、少し視点の異なる2つ目の話題をご紹介いたします。
生活総研(博報堂生活総合研究所)というシンクタンクでは、生活全般にわたる生活者データを無料・登録不要で提供されています。

ひらけ、みらい、生活総研というウェブサイト内に、みらい博 2024 「ひとりマグマ」『個』の時代の新・幸福論~」という特設サイトがあります。
そこには、2023年12月にニュースリリースされている「ひとり意識・行動調査1993/2023」という調査データが掲載されています。
調査対象は、いずれも25歳~39歳の男女なのですが、「ひとり」に対する価値観について、30年にわたる変化の結果が発表されていて、大変興味深く観てしまいました。
30年前の25歳や39歳ですから、今現在は55歳~69歳になっておられる方が当時調査対象となっていたということです。面白いですね。

ひとりに関する生活意識・価値観を、1993年と2023年で比較してみると、結果として、今の25歳~39歳の皆さんは、30年前と比べて「意識してひとりの時間をつくっている」と回答した方の比率が大きく増え、“ ひとり志向の生活者 “ が大幅に増加していることがわかりました。

まさに、日本社会は「総ひとり好き」に向かっていることがわかったわけです。

この調査では、年齢や性別、未既婚といった属性に関わらず同じ結果となり、現代の「個」に向かう流れは加速しているようです。
人とつかず離れずのよい距離感を持ち、状況や気分に応じて「今はひとりがいい」「今は人と一緒がいい」と、自分で切り替えながら日常を過ごしていることが明らかになりました。
「ひとり」をめぐる認識は、属性に関わらず、その時々でフレキシブルに選べる「モード」へと変わってきているようです。

「社会的孤独」「少子化」などの社会問題を背景に、最近「ひとり」に関する話題を耳にすることが増えています。
それは、若者に限ったことではありません。
人気の、「孤独のグルメ」という漫画(テレビ番組)もそうですよね。
わたし自身も、何とはなくひとり行動が多くなっているように感じます。

「ひとり」だからといって孤独・孤立であるとは限りません。
みらい博 2024 「ひとりマグマ」『個』の時代の新・幸福論~」という特設サイト、よろしければ一度ご覧になってみてください。おすすめです。

最後になりましたが、4月8日の日本経済新聞に“ AIは人の孤独を癒やせるか “という記事が掲載されていました。
そこには、SNS(交流サイト)への過度な依存は、孤独をかえって助長し、アクティブな利用者は孤独感を感じやすい、という調査結果がでていました。
そして今、巷では既に、現実社会やネット上のSNSで孤独を感じる人の対話相手として、ユーザーに寄り添う人口知能(AI)が登場し始めているらしいのです。
若い世代や一人暮らしの方は孤独を感じる人が多く、人間と対話する目的のAIが増えてきていることから、将来的にAIは、癒やしを与えるパートナーになれるのかどうか、新たな役割のあり方が問われている。という内容です。

おそらく近い将来には、皆さんおなじみのネコ型ロボット(ドラえもん)のような癒やしを与えるロボットが相棒になっているかも知れませんね。

「孤独・孤立問題」は、QOL や Well-being にも大きく影響する課題です。
今、街々は春真っ盛りです。新年度とされる春(4月)は、新たな出会いと始まりの季節といわれます。
できればこれからもずっと、新たな出会いの予感を感じながら、または旧交を温めながら、大切な人とのつながりの中で、ワクワクとした日々を楽しく過ごして参りたいと願う今日この頃です。(ふ)