タイムバンクで幸せになろう!

今回は、利息は“地域とのつながり”といったメッセージを送りながら、世界で広がりを見せている、時間を取引する「タイムバンク」についての話をしたいと思います。

「あなたは今、何時間分の貯金がありますか?」
もしかしたら数年後、こんな問いが当たり前に投げかけられる世の中がやってくるのかもしれません。
人と人とのつながりが希薄化する今、「タイムバンク(時間銀行)」という取り組みに世界中から注目が集まっています。
「タイムバンク」とは、その名のとおり一般的な銀行でお金を保管できるのと同じように、「時間」を保管できる銀行のことをいいます。
タイムバンクが保管している時間は、同じ銀行に登録しているメンバー間において取引され、自分が他者に提供できるサービスを登録し、そのサービスをメンバーに提供した時間の分だけ貯金できる仕組みだといいます。

実はこの仕組みは、1973年に著作家・水島照子氏が立ち上げた、女性たちが時間単位で子育てや家事を手伝う仕組み「ボランティア労働銀行」が発祥となっています。
日本ではその後、高齢者介護支援を主目的とした「ふれあい切符」という制度が92年に創設され、全国へ普及しましたが、2000年の公的介護保険制度の開始以降、有償ボランティアが広がるとともに縮小していきました。
そのほかの事例は大半が短期もしくは周知範囲が狭いために、タイムバンク自体が一般にはほとんど知られていないのが現状です。

ただこの活動は現在全世界的に拡がりをみせていて、アメリカ、中国、マレーシア、日本、セネガル、アルゼンチン、ブラジル、そしてヨーロッパを含む少なくとも37カ国に、それぞれ数十万人の会員を有する数千ものタイムバンクが設立され、時間の取引をしているということです。

例えば、アメリカ、カリフォルニア州セバストポール市内に住む高齢のギル氏は、コンピュータプログラミングや編集、ファイナンシャル・プランニングなどの専門知識を提供することで、地元の時間銀行に480時間分の時間を貯金しています。
そして貯金した時間は、空港までの送迎や、重い家具を運ぶなどの人手が必要な際に使うのだということです。
プロの業者やタクシーに頼んでいたら相当な出費であったはずが、タイムバンクのおかげでそのコストを削減することができたそうです。

またスペインの事例としては、現在400近いタイムバンクが存在するスペインでは、一地区の住民有志が実施するものもあれば、市民団体と役所が共同運営するもの、病院など特定の場所で活用されているものと様々な形態で運営されています。
21世紀に入り、移民の増加などで社会が多様化し、また2008年のリーマンショックによる金融危機以降、人々が隣人同士の支え合いの大切さを再認識し始めたことが、その普及を後押ししたという分析がなされているようです。

またタイムバンクが、高齢化社会を支えるモデルとして利用されているケースも見受けられます。
スイスの北東部にあるザンクト・ガレンでは、50歳以上の会員だけが参加できる「ザンクト・ガレン・タイムケア財団(Stiftung Zeitvorsorge)」が2011年に設立され、320人の会員が8万時間以上を貯金しています。
会員は高齢者の用事を手伝ったり、食料品の買いものをしたり、病院に連れて行ったりすることで、高齢者が自立した生活をより長く送ることに貢献しているといいます。
そしてそれは、新しい友情をつくるきっかけにもなっているのです。

ある意味、タイムバンクは、かつて小さなコミュニティで有機的に行われていた、隣人同士の助け合いを取り戻す取り組みと言えます。
日本国内でも、隣近所に住んでいる人とみんな顔見知りで、子どもを預かってもらったり、採れすぎた野菜をお裾分けをしてもらったり…。
そう遠くない過去には、そんな光景があちこちで見られていた時代があったのではないでしょうか。
本格的な少子高齢化の進行や核家族化に伴い、地域のつながりが希薄化する現在。
時間の貯金は、もしかすると私たちにお金を貯金すること以上に精神的な安定と幸せをもたらすのかもしれませんね。

最も重要と考えられていることは、貯金を使うことの裏側というか本質は、単なる時間取引の価値を超えているということです。
それは紛れもなく、ほかの方法では出会えなかった「人とのつながり」であることに他なりません。

タイムバンクが活躍するには提供ばかりをする人が多いため、そういう人には何かサービスを利用してもらうとか、時間を銀行に寄付してもらうといったコーディネーター役の存在が不可欠です。
「時間エージェント」とも呼ばれる彼らの真の役割は、「銀行」を通してメンバー全員が知り合い、「銀行外」でも絆を深められるようにすることです。
彼らの気遣いがあってこそ、最初は知らない者同士でも信頼関係を築くことができるようになります。
そうした人間関係のある場所は、居心地がいいと言えるのではないでしょうか。

タイムバンクは、お金に頼らないうえ、誰もがサービスの提供者と受理者の両方の立場になります。
だからこそ、相互扶助の精神や平等主義など、お金以外にも豊かさをもたらすものがあることを学ぶ良い機会になります。
と同時に、誰もが他人や世界に提供できるものをもっているのだという大切なことに気づくことができます。
現代社会には核家族、高齢者の一人暮らし、家族が離ればなれに暮らす移民の家庭、一人親家庭など、状況や文化の異なる人たちが暮らしています。
そうした人々が、お金の有無にかかわらず安心して生活できるようにするには、タイムバンクなどを利用して、足りないものを補える関係“大家族”をその社会や世界全体でつくることが大切なのです。
その構築がひいてはQOLの向上となり、全ての人のwell-beingを叶えるための礎となるといえるでしょう。(ま)