知っておきたい「薬にまつわる課題と現状」

さて、今回の話題は「薬にまつわる課題と現状」についてのお話です。

わたしはいつも、より適切な選択をするためには、複眼的に、「いろいろな立場・視点から物事を見たり考えたりする」ことが必要だと考えるようにしています。
なぜかといいますと、わたし自身、それが最も苦手なことでして、複眼的な考えができる人がうらやましいと思っているからにほかなりません。

特に、今回のテーマである薬は「いのち」に影響するものだけに、リテラシーは必要でしょうし、そのためにも世の中のさまざまな情報を適切に読み解き、ファクト(事実、実際)を知ることが大切ではないか、と考えました。

日本は今、世界のどの国よりも高齢化が進んでいます。
残念ながら誰しも老いには逆らえません。
病気の予防や先延ばしはできるかもしれませんが、高齢になればなるほど、予期せぬ病や身体の不調から、医療機関を受診する機会も増えていきます。
そして、ほとんどの高齢者は年齢と共に複数の持病をもつことになり、その都度処方される「薬」の種類も多くなりがちです。

わたし自身はといいますと、ご多分に漏れず、やはり年齢と共に「お薬手帳」は離せなくなり、まったく同じ道を歩んでいる状況です。
「薬も過ぎれば毒となる」ではありませんが、何とはなくこれ以上は増えて欲しくはありませんし、逆に薬を見直して減らす術はないものかとついつい考えてしまいます。

ある調査によると、薬局で1ヶ月に7つ以上の薬を受け取っている人の割合は、65歳を超えると急に増えてきて、75歳以上になると約4人に1人になる、という調査結果があるそうです。
また、日本老年医学会が策定した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」では、処方される薬が6つ以上になると、さまざまな副作用を起こす人が明らかに増え、10~15%にもなることが報告されています。
やはり、薬は少ないにこしたことはないですね。

高齢者になると、薬の代謝や排泄に関わる肝臓や腎臓の働きが低下するため、若い世代に比べて薬が効きすぎたり、思わぬ副作用が現れたりする危険性が高くなるといわれています。
ですから、自分が使う薬にはどのような副作用があるのかをよく知っておくことは大変重要なことといえるでしょう。

薬には大きく分けて、医療用医薬品と市販薬(OTC医薬品)の2つに分類されています。
病院や医院で、医師が診断のもと処方箋(しょほうせん)を出して、薬剤師が調剤した薬を医療用医薬品と呼び、これに対して薬剤師などによる情報提供を踏まえて、薬局・薬店で買える市販の薬をOTC医薬品と呼びます。
※OTC医薬品には、要指導医薬品と一般用医薬品の2種類があります。

ところで最近、新聞やテレビニュースなどを見ていると、薬にまつわる社会問題が少し増えているような感じがいたしませんか?
ご存知のことも多いかと思いますが、ここからは、わたしが収集した「薬についての最新の話題」をあれこれと紹介させていただきたいと思います。

まず最初に、「せき止め薬が手に入らなくなった」といった重大なニュースがありました。
“ これ、日本でのこと? “と疑うようなニュースでしたが、確かに、普段から利用しているドラッグストアを見てみると、馴染みのせき止め薬が無くって、他の同様の薬も見当たりません。
そしてなぜか、依然としてこのような状況が今も続いています。

原因は、後発医薬品のメーカーで製造上の不正が発覚し、2021年以降、業務停止などの行政処分が相次いだことや、新型コロナやインフルエンザの流行で需要が増えたことなどがその要因ですが、もう2年以上も医薬品の供給不足が続いています。
これは、患者にとっては一大事ですし、 QOLに関わる大変なことです。

そして、次の話題も一大事です。
市販薬のオーバードーズ(過剰摂取)問題です。
薬の供給不足問題とは裏腹に、近年、重大な社会問題となっています。
オーバードーズとは、薬局やドラッグストアで購入できる解熱鎮痛薬、せき止め薬、かぜ薬などを大量・頻回に服用(乱用)することです。

服用を繰り返すうちにそれまでの量では効かなくなり、オーバードーズにつながるおそれがあり、さらに服用を続けて薬に依存してしまうと、自力ではやめられなくなることがあります。
そして、さらに怖いことには、オーバードーズの影響で肝障害が起こったり、最悪の場合は心肺停止で死亡したりする場合もあるということです。

このオーバードーズが、近年、10代・20代の若い世代を中心に急増しており、全国の主要52消防本部の集計では、2022年に医薬品の過剰摂取の疑いで救急搬送されたのは 1万682人にも及んでいるとのことです

従来の違法薬物と比較して、女性が多く、非行歴が少ないなどの特徴があるそうですが、その背景には、家庭や学校等で感じている「つらい気持ち」があり、それを和らげるために市販薬に頼ってしまうことが考えられます。
いじめや虐待、親との関係が悪い、学校での孤立など、オーバードーズの裏には深刻な問題が潜んでいる場合もあるのです。

ですので、各自治体などのホームページを見てみますと、「オーバードーズがやめられない方は、一人で抱え込まずに、まずは医療機関、精神保健福祉センター、保健所などに相談し、専門家のアドバイスを得ることが大事です」などといった呼びかけが今、緊急対応としてなされています。

このオーバードーズ問題、不適切な使用が広がれば、服用者自身の心身への悪影響はもちろんのこと、本来、体調不良で薬を必要とする人にまで薬が届かなくなる恐れもあり、正しい理解が欠かせません。
今年に入りようやく、市販のかぜ薬やせき止めの販売規制が強化されるというニュースがありましたが、その背景や問題点など、そのどれもが、当事者にとっては切実な問題だと思いますし、状況が良くなることを願わずにはいられません。

さて、次にご紹介する話題は、日本での最大の課題と言われる「優れた薬がなかなか手に入らない」という問題点について、その解決につながる2つの記事を紹介させていただきます。
いずれも、厚生労働省が発表したもので、患者とそのご家族はもちろんのこと、医療従事者にとっても、製薬会社にとっても大変有り難い、待ちに待ったニュースでした。

まず1つ目のニュースは、2023年11月14日 朝刊のトップページに大きく載っていた記事です。(日本経済新聞 より引用)

見出しには、“ 海外新薬、国内で早期承認 “ 日本人の治験廃止 “7割流通せず 患者の不利益解消“と書いてあり、その記事には、日本で薬を売り出すために、臨床試験(治験)の過程で日本人で安全性を別途確認しなければならない制度が原則廃止される、と書いてありました。

これまで、欧米で承認された新薬の72%が日本で承認されておらず、海外で使われている薬が日本で入手できないという「ドラッグ・ロス」や日本での承認が遅れる「ドラッグ・ラグ」が生じていました。
記事では、日本独特の追加調査や制度が妨げとなり、そのためにグローバルな製薬会社はこの手間や収益性を嫌って日本での販売を断念したり、市場投入の時期を他国に比べ大幅に遅らせたりしていたとのことです。

厚生労働省は近く、日本人での追加的な初期治験が原則として必要ないことを記した通知を出すとのことで、数ヶ月以内に制度は廃止される見通しです。

この度のルール変更は、患者の不利益の解消につなげることが目的ですが、これまで、ドラッグ・ロスに陥っている医薬品86品目のうち39品目が「日本ではその病気に対する既存薬がない」と報告されていたそうです。
また、欧米で承認された新薬のうち、日本で承認されていない未承認薬で最も多いのは「がんの薬」だそうです。

ですので、まだまだ課題はあるというものの、今後は、今までにない新たな医薬品が早期に流通し、選択肢も増えてくることから、患者さんやそのご家族にとっては待ちに待ったルール変更といえるのではないでしょうか。

そして2つ目のニュースは、2024年1月25日 朝刊の経済・政策面に掲載された記事です。(日本経済新聞 より引用)

見出しには、“ 薬製造法変更 審査短く“ “ 厚労省 製品不足の解消目指す “、と書いてあり、内容は、厚生労働省は薬の製造方法を変更する際、短期間で審査が終わる手続を導入する。薬事審査を短くすることで企業負担を減らし、医薬品の安定供給や製品不足の解消につなげる、というものです。

この取り組みについては、24年度にも新たな審査手続を試験的に始め、結果を分析した上で、できるだけ早く医薬品医療機器法の改正案を国会に提出するという考えだそうです。
日本では、審査期間が欧米の3倍になる品目もあるらしいのですが、欧米の基準にならうことで、製薬会社の増産対応ができやすくなり、医薬品の安定供給や製品不足の解消につながれば、関係者にとっては何よりも有り難いことです。

今回、薬についてのさまざまな記事に接してみて、改めて、患者さんやそのご家族、適切に処方くださる医療関係者の方々、薬の開発と供給に当たっている製薬業界の皆さんなどなど、それぞれの立場の方々が、本当に大変な思いでいらっしゃることが良くわかりました。

一刻も早く、諸々の課題が解決することを願いつつ、複眼的に、それぞれの現場の影には誰が居て、どのようなご苦労をされているのか、ということにも思いをはせて考えることが大切である、ということも学びました。

優れた薬が有るか無いかは「いのち」にも関わります。
そして、薬のリスクと正しい使い方を知ることは、 QOL(生活の質)にも大きく影響いたします。
今後とも、より良い薬との出会いによって、皆さまの QOL が少しでも向上しますよう、心より願っております。(ふ)