歯科検診のススメ

さて、今回は歯の話題です。
政府は全国民に毎年の歯科健診を受けてもらう「国民皆歯科健診」の導入に向けて検討する方針をまとめました。
これは、歯の健康を維持して他の病気の誘発を抑え、健康寿命を延ばすことで医療費の抑制を目指していきたいとしているものです。
政府が出したこの政策は、正しくQOLジャパンの目指す方向と同じものであるため、大変評価出来るものと考えています。
では、この検討にある背景と具体策について見ていきましょう!

○歯周病が他の病気と関係
日本人では、40歳以上の約8割が歯周病の症状を持っているとされます。
歯周病菌の感染によって歯周組織の炎症が進行し、口のなかの粘つき、歯磨きの際の出血、口臭、歯茎の腫れ、歯肉の痛みなどの症状が現れます。
進行すれば歯が抜け落ちてしまうこともあります。
最近の研究で、歯周病が誤嚥性肺炎、動脈硬化、心臓病、脳卒中、糖尿病、早産、関節リウマチ、アルツハイマー病などの病気と関係があることがわかってきました。

○歯周病菌、毒素、炎症物質などが全身に運ばれる
歯磨きが不十分だと、歯垢(プラーク)や歯石が歯と歯ぐきの境目に繁殖します。
プラークの中には、重量1mgあたりなんと1億個の細菌が含まれ、細菌が作り出す毒素によって歯肉に炎症が生じ、腫れたり出血しやすくなり、歯と歯肉の間の隙間(歯周ポケット)ができます。
歯周病には、歯周病菌と言われる複数の細菌が関わっていると考えられています。
歯周病菌の酵素や毒素は歯を支える歯槽骨を溶かし、歯がグラグラしてきたり、歯肉が下がってきたりして歯が抜け落ちたりします。
そして、歯周病菌、菌の作り出す酵素や毒素、さらには歯周病組織で作られるサイトカイン(炎症を引き起こす物質)などが持続的な供給源となり、血管を通して全身に運ばれて、全身の疾患に悪影響を及ぼしていると考えられています。
例えば、心臓の内膜に歯周病菌が付着すると心内膜炎を起こして、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などのリスクを高めるとされます。
また、歯周病による炎症で、プロスタグランジンと呼ばれる物質が体内で発生し、子宮を収縮させ、早産になる可能性も指摘されています。
糖尿病や関節リウマチは免疫機能の低下から歯周病になりやすいといわれ、歯周病がこれらの病気を悪化させることもわかってきました。
高齢者では、歯周病の罹患率が高く、口の中の細菌が肺に入り、炎症を起こすことで誤嚥性肺炎の発症につながることがあります。

○定期健康診断に取り入れる
現在、歯科健診が義務づけられているのは、1歳半と3歳、小中高生の学校健診、塩酸などの化学物質を扱う人などに限られています。
厚生労働省は日本歯科医師会とタッグを組んで、80歳で自らの歯を20本残す「8020運動」などを進めてきましたが、自治体で40〜70歳まで10年ごとに実施している歯周病検診の受診率は1割未満とされます。
そこで、国は、皆保険とうたうことで、これまで受診機会が少なかった人に働きかけていく方針をもっています。
具体的には、会社などの定期健康診断に歯科健診を取り入れたりします。
また、唾液を採取する簡易キットを配布し、歯周病検査をするなどの案が出されているようです。
このほか、口腔粘膜の異常は、口腔がんなどの可能性もありますので、お口の中の粘膜の状態を定期的にチェックすることも重要とされています。
こうした口腔ケアを行うことで、病気や重症化の予防を実現し、医療費の抑制にもつなげたいとしている訳です。

2019年度の国民医療費統計によると、歯科診療医療費は約3兆150億円で、国民医療費全体(約44兆3,895億円)の約6.8%を占めています。
国民皆歯科健診の導入で早期の口腔ケアが行われるようになれば、医療費の削減につながる可能性があるといえるでしょう。

さて、皆さん「予防歯科」という言葉を聞いたことがありませんか?
歯医者も時代時代で治療の方針が違っていました。
一昔前の歯医者だと、
「虫歯になって痛くなったら通う」
「虫歯を削って銀歯で詰めて終わり」
「歯の管理、ケアは自分自身でやる」
「虫歯が再発したらまた歯医者に通う」
この繰り返しでした。

お口に関する様々な研究や検証が進むにつれ、従来の診療・治療方針では自分の歯を長く維持できないと分かってきたのです。
特に、日本と欧米の高齢者の残存歯数(残っている歯の数)を比較すると、一目瞭然でした。
「虫歯や歯周病になったら歯医者に通う日本」の対症療法型と、「虫歯や歯周病にならないために歯医者に通う欧米」の予防型を比べたところ、80歳の段階で日本では残存歯数8本、欧米では20本という歴然とした差が出ていました。
残念ながら、歯は自然に再生することはありませんので、日本の「悪いところを削って詰める」を繰り返す治療だと、最終的には歯が無くなってしまうのです。
それに対して欧米の予防型診療は、毎日のセルフケアだけでなく定期的に歯医者に通いプロにお口全体をクリーニングしてもらい、虫歯や歯周病の兆候が無いかチェックするというプロフェッショナルケアを併用することで、お口のトラブルを未然に防ぐ習慣が出来ています。(子どもの場合は歯並びもチェックできます)

もし、歯が無くなってしまったら体全体にもどんどん負荷がかかってしまいます。
①食べ物を満足に噛めない
⇒食事制限のため活力となるエネルギーが接種できない
②エネルギーが足りない
⇒病気や疾患に対抗するためのエネルギーが不足して体全体の疾患が進んでしまいます
③病気や疾患が発症すると
⇒体力面だけでなく、精神的にも落ち込んでしまう
自分の歯で食べたいものが食べられない、そういった多くの高齢者を診療してきた歯科界では、高齢になっても自分の歯で食べ物を食べ、肉体的・精神的にも健全で豊かな口腔内環境を作るため、これまでの対症療法型から、欧米の様に「虫歯や歯周病にならないための予防型診療」にシフトしています。
それが、皆さんが耳にされる「予防歯科」です。
予防歯科には、虫歯や歯周病の発症を防ぐことはもちろんのこと、健全な口腔環境を作る事で色々な疾患になりにくくなったり、子どもの場合は歯並びを定期的にチェックできるので、早めの矯正治療で綺麗な歯並びを得られるなど様々なメリットがあります。

読者の皆さんは、たかが歯のことだろうとは考えずに、予防歯科としての定期検診を実施することで、歯周病を原因とした数々の疾患を予防できることを理解してください。
そしてそのことが、人生100年時代における健康寿命の延伸に大いにつながる大切なことで、well-beingを叶える近道になり得るということも併せてお考えいただければ幸いです。
これからは毎日の歯磨きと同様に、予防歯科としての定期検診も習慣化を図っていこうではありませんか。