ダブルケア知っていたら凄い!

さて、今回の話題は、ひたひたと迫って来ているダブルケアのお話しです。

ダブルケアとは、広義では家族や親族等、親密な関係における複数のケア関係、そしてそこにおける複合的課題のことをいいます。
狭義では、育児と介護の同時進行の状況のことです。
育児と介護、介護と孫支援など、少子化・高齢化におけるケアの複合化・多重化の問題に焦点をあてる概念として、今回は育児と介護の同時進行にスポットを当ててみたいと思います。

ダブルケアの背景としては、女性の晩婚化に伴う出産年齢の高齢化(晩産化)、少子高齢化、核家族化などを背景にした、子育てと同時に親の介護を担うダブルケアに直面するケースが増えているといえます。

では、ダブルケアの実態・調査に関して掘り下げていきましょう。
現在の状況は、こうしたダブルケアに対する調査および専門の研究メンバーによる実態解明が進められているところだと言えます。
少し古い調査となりますが、 2012年度~2014年度の調査(6歳以下の子どもを持つ母親を中心とした1,894名に対して実施)によると、「ダブルケア直面中」・「数年先に直面する」と回答した人は全体の32%でした。
また、「ダブルケア直面中」の12.4%の方、「過去に直面したことがある」の16.5%の方が、「誰も助けてくれなかった」と回答しており、ダブルケアラー(ダブルケア当事者)の孤立化も浮き彫りとなっています。
その後2017年時点で行われた毎日新聞の調査では、全国に少なくともダブルケアラーが29万人いることが分かりました。
その他、2015年度にソニー生命などが実施した調査(大学生以下の子どもをもつ母親1000名に対して実施)によれば、ダブルケアに「現在直面中」と「過去に直面したことがある」を合わせたダブルケア経験率は全国平均で8.2%で、それらに「数年先に直面」という仮定の層を含めると22・6%となるという調査も出ています。
更にダブルケアが身近な問題であると感じている方は、「数年先に直面」という層を加えると4人に1人以上にのぼる結果が出ています。
また、「ダブルケアという言葉を聞いたことがありますか」という質問には、ダブルケアに直面していない人が6%に対して、ダブルケア当事者では20%と5人に1人が聞いたことがあると回答しており、当事者を中心にダブルケアという言葉の認知度は少しずつ高まり始めていると言えます。
一方、今のところはダブルケア未経験者が多く、そのうちの7割を占める「子育て中だがまだ介護に直面していない」層において、親や義理の親が介護が必要となった時の相談先を知らないという状態にあることは、今後憂慮すべきことかも知れません。
ダブルケアには、三大負担といわれる精神的な負担、体力的な負担、経済的な負担に加え、子どもの世話を十分にできない、親の世話を十分にできない、兄弟間や親戚間での認識のずれの存在、子どもの預け先の問題などもあります。
今後どういう支援が必要だと思いますかという質問では、ダブルケア当事者のなんと9割が「育児も介護も相談できる総合的な行政の窓口」と回答しています。
また、「当事者同士で支え合う、つながる場の構築」も6割半が必要であると回答しており、 少子化・高齢化が進行する中で今後ダブルケア経験率が高まる可能性と共に、情報共有の大切さが示唆されています。

それでは、具体的なダブルケア支援について紹介しましょう。
◯ダブルケアサポート横浜
ダブルケアラーやそれを取り巻く人、地域サポートを目的として設立された民間団体です。
ダブルケアの実態と地域における支援ニーズを明らかにするための調査や、ダブルケアラーに寄り添い支えるサポーターを増やすための「ダブルケアサポーター養成講座」のプログラム企画・立案を実施しています。
また、ダブルケアに役立つ情報がつまったハンドブック「ダブルケアハッピーケアノート」の制作などに取り組んでいます。

◯ダブルケア(介護・保育)関連産業の事業者支援
横浜信用金庫が、介護・保育・家事代行の事業者に対して、横浜市が提供するオープンデータ等を元にした情報を提供しています。
また、事業者に対し、横浜信用金庫のもつ経営相談や事業支援のノウハウ提供を行い、市域のダブルケア産業の育成を支援します。

◯ダブルケアの経済的負担軽減
ダブルケアの三大負担は精神・肉体・経済という調査結果がでています。
その中の経済的負担に関し、ライフプランニングを通じて、この先の人生においてダブルケアが起こりうる可能性や、直面する前の対策・備えを促進するための活動を行っているところがあります。

◯国による取り組み
ダブルケアなど複合的な課題を抱えている家庭を支援するため、令和2年の通常国会において社会福祉法が改正され、重層的支援体制整備事業が創設されました。
この事業は、市町村において、属性や世代を問わず包括的に相談を受け止め、複雑化・複合化した課題を適切な支援につなぐ役割を担う目的で実施されています。

これまで社会では、育児・介護と仕事の両立が問われ続けてきましたが、ダブルケアの視点からワーク・ライフ・バランスを見直すと、これまでとは少し異なり三段階の動きが考えられます。
第一段階が「子育て・仕事の間の両立問題」で、第二段階が「介護・仕事の両立問題」です。
政府も介護離職ゼロを掲げ、多くの企業が第一段階から第二段階に入り、労働者の支援策を導入・拡充しているのが現状だと言えます。
ダブルケアは、更にもう一歩進んだ、「育児・介護、その他、複数のケア(自分のケアも含む)をしながら働くことが当たり前な社会設計・人生設計」に基づく第三段階としてのワーク・ライフ・バランス問題だととらえることができるのではないかと考えられます。
今後、社員のマネジメントを行うに当たって、ダブルケアの視点が必ず入るような、育児も介護も積極的に支援している企業を「包摂的(一定の範囲内に包み込む的な)ケア企業」といった形で積極的に表彰していくなど、子育てと介護とを別にすることなく、包摂的に複数のケアをとらえていくことで働き方とのバランスを考えることが、第三段階としてのワーク・ライフ・バランスのあり方として大変重要となると考えられます。

読者の皆さんも、自分の置かれた現状だけではなく、将来に渡って起こりうる可能性が高いことに対して想いを巡らせることが重要となって来るでしょう。
正しく自分の将来に影響を及ぼす可能性のあるものとして、ダブルケアを正しく理解して、ダブルケアへの対処を考えていく時代が来ていると言えるのではないでしょうか。
更に言えば、社会構造や家庭環境の変化により単身世帯の増大が進行する中、ダブルケアは単身世帯・独居老人の問題として考える必要もあります。
例えば一人暮らしの高齢者のようなケアする人がいない「ケア不在」という超高齢社会の日本にとって大変重要な問題があります。
ダブルケアとケア不在の問題は、コインの表裏のように一体的な課題としてとらえなければならないと言えます。
この課題について、社会全体でどう解決への道程を進めていくのか、まだまだこれから議論をすすめていく必要があると言えるでしょう。
そのためにも、QOLジャパンは、これから社会に対してダブルケアの認知度や中身をよく知っていただくための活動を継続していく所存ですので、読者の皆さんにおかれましても、どうぞご協力をよろしくお願いいたします。(ま)