ガストロノミーって何?

さて、今回の話題は「ガストロノミー」についてのお話です。

最近、新たな観光イベントなどで良く聞く言葉に、「ガストロノミーツーリズム」や「ガストロノミーウォーキング」などの言葉があります。
わたくしも先月、この「ガストロノミーウォーキング」に参加してきましたが、このガストロノミーと称するイベントが、QOLを高めるために非常に効果的な体験だと感じました。

それは、食べ歩きに近い体験ではあるのですが、訪れた地域特有の「食」を中心に、「自然」「文化や歴史」「交流」などのすべてが、ウォーキングをしながら一度に「体感」できるものであったからです。

シニア世代にとっては、「美味しいご当地グルメを味わい」「適度な運動ができる」ことなど、健康にも良く非日常の機会を得ることができ、地域特有の自然や文化・歴史に触れることができる大変魅力的なイベントです。
また、案内役の観光ボランティアガイドさんからは、そこに生活されている方ならではの地元愛にあふれた想いなどもお聴きすることができ、とっても心豊かな気分になります。
さらに、帰りがけには日帰り温泉で疲れを癒やしたり、お土産となる酒の肴やクラフトのお酒などを買ったりして、帰宅した後は程よい疲れからか、その夜はぐっすり眠ることができます。
本当に良いことずくめの体験で、ぜひおすすめしたいイベントでした。

特に食欲の秋といわれるこの季節は、各地域ではお祭りやイベントなども盛りだくさんで、採れたての食材をふんだんに使った料理にも舌鼓を打つことができ、食いしん坊のわたしにとっては、その魅力は増すばかりです。

元々、「ガストロノミー」という言葉は、日本では「美食学」や「(地域に固有の)調理法」などと訳されることが多く、ガストロノミーを実践する人を食通あるいはグルメと呼ぶようですが、わたし自身は食通でもなんでもなく、単なる好奇心から参加した次第です。

今回は少しこの言葉について、もっとはっきりと知りたいと思い、深掘りをしてみました。
まず、「ガストロノミー」という言葉をいくつかの方法で検索してみますと、

ガストロノミー(仏:gastronomie、英:gastronomy)とは、食事と文化の関係を考察すること。料理を中心として様々な文化的要素で構成される。(ウィキペディアより)

ガストロノミーとは、料理という言葉が食材を調理する方法を指すのに対し、料理を中心として芸術、歴史、科学、社会学などさまざまな文化的要素を考える総合的な学問。文化と料理の関係を考察すること。(コトバンクより)

ガストロノミー(Gastronomy)とは、食文化や食に関する研究、料理の芸術、食材の起源や品質についての探求を含む、食に関する広範な領域を指す用語です。ガストロノミーは食文化の専門家や食通、シェフ、食品評論家、料理愛好家などの間で非常に重要なテーマとなっています。(ChatGPTより)

などと説明されていました。
なかなかに、ガストロノミーの定義は幅が広くて分かりづらいところがありますが、「食」に関することだけは確かなようです。
ここで、この難解な言葉の意味や由来を分かりやすく理解するために、ガストロノミーについての歴史を、流れを追って紹介してみたいと思います。

調べたところでは、ガストロノミーの歴史は古く、「ガストロノミー」という言葉は、古代ギリシャ語の「ガストロス(消化器)」と「ノモス(学問)」から成る合成語とされています。
そしてほかにも、紀元前4世紀の古代ギリシャのアルケストラトスの叙事詩によるとする説もあるようです。
それは、詩人であるアルケストラトスは地中海の美食を求めて漫遊し、長詩「ガストロノミア」を著しており、ガストロノミーという言葉はこの叙事詩の言葉が起源であるとされているからです。

いづれにしても「ガストロノミー」と言う言葉は、古代ギリシャの時代からあったということで、凄く古くから使われていた言葉ということですね。

その後、このガストロノミーは様々な文化や時代を通じて進化していきましたが、ガストロノミーの考え方を最初に研究で示したのは、19世紀のフランスで法律家であり美食家でもあったジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランという方でした。

彼の著書『美味礼讃』は、それまでのレシピ本とは違い、食事と感覚の関係、食卓での楽しみを科学的に考察した画期的な作品でした。
特に「あなたが普段から食べているものを教えて欲しい。あなたがどんな人であるか当ててみせよう。人生に必要なこと。それは、よく食べ、よく愛し合うこと――。」などの言葉は有名で、現在でもしばしば引用されるほど、19世紀のフランスでのベストセラーとなった食のバイブルといえる書籍です。

そして、この『美味礼讃』の副題に「超絶的ガストロノミーの随想」と付けられて以後、さらにガストロノミーという言葉が広く使われるようになったといわれています。

19世紀はレストランの人気が高まった時期でもあり、それまでほんの一部の人しか食べられなかった「美食」が、お金を払えば誰でも食べられるようになり、様々な職業の人々がそれぞれの視点からフランスの食文化のあり方を考察し書き著しました。

また、19世紀末から20世紀初頭にかけては、「旅と食の楽しみ」について書かれた本が出版され、それまでの旅は目的地に到着することだけを目的としていましたが、産業革命によって鉄道や自動車などが開発され、交通の利便性が高まった結果、旅を「レジャー」として楽しむ考えが生まれました。

ただ、変化の激しいこの時代になると、生活の利便性は高まった一方で、効率ばかりが重視され、都心部と地方での経済格差やフランス各地の個性や文化が失われることを心配する声がでてきました。
そして、そのような声は次第に大きくなり、各地方ならではの文化的な魅力や生活の豊かさを追求する「地方主義」の概念が生まれ、当時の美食家たちもこの「地方主義」に賛同し、フランス料理の芸術性と多様性の復興を目指す活動が始まりました。

このような流れの中、20世紀後半から21世紀にかけて、ガストロノミーは学問的な研究としても発展し、地理学や歴史学だけでなく、社会学や文化人類学などでもガストロノミーの研究は進み、その先進的な考え方は世界へと広がっていきました。

その一つが、2004年にイタリアのブラ市郊外において、スローフード協会のイニシアチヴのもと開設された「食科学大学」です。
「スローフード大学」とも通称されるこの食科学大学は、「食科学」(ガストロノミック・サイエンス)を専門とする、世界で初めての大学です。

スローフードは、1986年にイタリアのカルロ・ペトリーニ(イタリア語版)によって提唱された国際的な社会運動で、その土地の伝統的な食文化や食材を見直す運動、または、その食品自体を指しています。
より広い概念の「スローライフ運動(英語ではSlow movement)」の一部として提唱されたもので、今では世界的にその活動が広がっています。

またスローライフに近い考え方として、日本ではアメリカ発のLOHAS(ロハス)という言葉が、スローライフやエコに続いて広まりました。
LOHAS(ロハス)とは、「Lifestyles of Health and Sustainability」の略語で、明確な定義はされていませんが、「心身の健康、持続可能な社会や地球環境を無理なく追及する、心豊かに暮らす生活スタイル」を意味しています。

そして近年では、世界的な流れの中でガストロノミーはサステナビリティや環境保全などの概念とも関連付けられるようになり、2016年の12月、国連総会において、6月18日を「Sustainable Gastronomy Day(持続可能な食文化の日)」と制定されることとなったのです。

凄い進化ですね!
最も近いところでは、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、2022年の12月、日本で初開催となる国連世界観光機関(UNWTO)主催の「第7回ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」が奈良県で開催されています。

※観光庁のホームページによると、ガストロノミーツーリズムとは、その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、食文化に触れることを目的としたツーリズムのことをいう。

今回のテーマ、ガストロノミーについての変遷や考え方などお分かりいただけましたでしょうか?

食欲の秋、あちらこちらに「もぎたて、とりたて、つくりたて、できたて、あげたての○○○○」などなど、ご当地に行けば、食欲をそそる秋の味覚にあふれています。
笑顔で食べる人のことを思い、たくさんの人の手によって愛情たっぷりに作られた食材やお料理は何ものにもかえられません。
ぜひ「食」を通じて、人生を心豊かなものにする「ガストロノミー」を体験してみてはいかがでしょうか。