QOLとインフォームド・コンセント、シェアード・ディシジョン・メイキングとの関係

さて、今回の話題は「インフォームド・コンセントとシェアード・ディシジョン・メイキング」についてのお話です。

舌をかみそうな読みづらい言葉ですが、医療によるQOL(生活の質)の向上について取り上げてみました。

先日、かかりつけの医院でのこと。私と先生の間で次のようなやり取りがありました。

先生)その後、調子はどう? 薬の効果はでていますか?
私) おかげさまで、だいぶ楽になりました。しかし副作用なんでしょうか、
○○のような状況になりました。
先生)そうですか、今服用して頂いている薬はあなたの症状には最適ですが、
そのような副作用が生じる場合があります。
副作用の少ない薬に替えることはできますが、今の症状を抑える効果は少し
低くなります。
私) そうですか、この副作用は私にはきついので、もしできるのであれば
別の薬に替えていただけませんでしょうか?
先生)そうですね。では一度、こちらの薬にしてみましょうか、効果は低く
なりますが、あなたの望まれる生活は送れるようになります。
私) ありがとうございます。
先生)良いですよ。これをQOL、クオリティオブライフ(生活の質)という
のですよ!
といった、やり取りでした。

私は、なるほど!これが QOLか。と思いながらも、これが以前に聞いたことのある「インフォームド・コンセント」というものに近いやり取りではないかと感じ、インターネットを駆使してその意味を調べてみました。

○インフォームド・コンセントとは、
医師は「くすりの候補」を使えば病気に効果があると期待される患者さんに、治験への参加をお尋ねします。患者さんの自由な意思にもとづく文書での同意があってからでないと治験は始められません。
この「説明と同意」のことをといいます。  

○インフォームド・コンセントの手続き
医師から、治験の目的、方法、治験に参加しない場合の治療法、「くすりの候補」の特徴(予測される効果と副作用)などが書かれた「説明文書」を手渡され、その内容がくわしく説明されます。
患者さんは、わからないこと、確認したいことなど、納得するまでどんなことでも質問することができます。
そして、治験に参加するかしないかは、だれからも強制されることなく、自分の意思で決めてください。説明を受けたその場で決めず、説明文書を持ち帰って家族に相談してから決めることもできます。
参加することに同意いただきましたら、「同意文書」に患者さんと治験を担当する医師が自筆で署名します。
同意文書の控えと説明文書は患者さんに渡されます。
以上、厚生労働省の公式ホームページより

なるほど、現在は自分にとってより良い治療を選べる時代なんですね!
最近の医療現場ではこのように、患者さんの自律的な選択を尊重する「インフォームド・コンセント」(説明と同意)の考え方が普及してきています。

病気になったとき、これまでは、勝手な思い込みかもしれませんが、患者が治療法の検討や最終決定をする余地はほとんど無く、医療者の言われるがままに治療を行い、患者は受け身の状態でした。
専門知識のないものが自分の意思で治療法を選択するということは、大変失礼なことで、かなりの勇気が要ることでもありました。

ですが今では、上記の説明にもあったように、医療者が科学的根拠に基づく専門知識と経験から、適切だと考える治療法を丁寧に説明し、患者の同意を得て治療を行う「インフォームド・コンセント(IC)」が身近なものになりつつあります。

そしてさらに調べていく中で、患者参加型医療として進化したもう一つの意思決定の進め方、「シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)」という考え方もあることを知りました。
「シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)」とは、医療者と患者が協働して治療方針を決めていく双方向・相互作用的なコミュニケーションで、日本語では「協働的意思決定」「共有意思決定」などと呼ばれています。

SDMは、医療者と患者や家族が一緒になって、医学情報のほか、患者の価値観やライフスタイルなどの個人的・社会的な情報を共有した上で、治療方針を話し合い、最善策を探求していくものです。

そこで、参考になる記事を見つけましたのでご紹介したいと思います。
治療の最善策を医療者と探求していくにあたり、意思決定をより自分らしく行うためには4つの要素が必要になるという記事です。
それは、聖路加国際大学大学院の中山和弘教授の提案で、その頭文字をとって「(腹または胸に)おちたか」と覚えておくと良い、というものです。

お:オプション(選択肢)
 ・選べる選択肢が全てそろっているか確認する
ち:長所
 ・各選択肢の長所を知る
た:短所
 ・各選択肢の短所を知る
か:価値観
 ・各選択肢の長所と短所を比較して優先順位をつけ、自分にとって何が
  重要かを明確にする

いかがでしょうか、分かりやすい覚え方ですね。
医療の著しい進歩によって治療の選択肢が増え、患者のライフスタイルや価値観も多様化している近年は、このような意思決定の考え方が求められているのかも知れません。

「シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)」を進めることで、患者にとっては健康ばかりではなく、生きる幸福感を含めて、より良い生き方「ウェルビーイング(Well-being)」を可能にします。
また、医療者と患者や家族が一緒になって話し合うことで、双方の満足度が高まり、その結果、医療によるQOL(生活の質)や治療成績が向上します。

年齢を重ねれば重ねるほど、QOLを維持していくためには、何を優先するか、困難な選択を伴うことが多くなるといわれます。
「クオリティオブライフ(QOL)」は、患者一人ひとりでとらえ方も異なり、なかなか決まった答えはないかもしれません。
しかし、どのような状況になろうとも、信頼のおける先生や大切な家族と共に、自分にとってより良い治療を取捨選択して決めていけるなんて、こんなにありがたいことはありません。

今回は、医療分野の専門用語で大変難しい話題ではありましたが、もしも選択肢が多く治療法の選択に迷ったときは、「(腹または胸に)おちたか」という言葉を思いだしましょう。
そして、生きる幸福感「ウェルビーイング(Well-being)」をかみしめてみるのも良いかもしれませんね。(ふ)