働く高齢者が急増

さて、今回は働く高齢者が増加しているお話しです。

このお話しの出所は、国の総務省統計局が出している「労働力調査」からです。
労働力調査は、統計法に基づく基幹統計調査として、国民の就業及び不就業の状態を明らかにするための基礎資料を得ることを目的として、毎月実施しています。
調査の結果には、毎月公表する基本集計として、就業者数、完全失業者数、完全失業率など、四半期ごとに公表する詳細集計として、現職についた理由別の非正規の職員・従業員数、失業期間別の完全失業者数などがあり、それらの結果は、景気判断や雇用政策などの基礎資料として広く利用されています。

今回の「労働力調査」によると、65歳以上の高齢者の人口は前年より6万人増えて3627万人、総人口に占める割合(高齢化率)は29・1%となり、それぞれ過去最高を更新しました。
その中で高齢人口に占める就業者の割合は25・1%で、65~69歳に限ると、割合は50・3%となり、調査を始めてから初めて5割を超えました。
国は今後少子高齢化などによる人口減少で起こる人手不足対策として、高齢者の就労を後押ししています。
1998年に定年を60歳と義務付けた後、2006年から段階的に定年を延長し、2013年に65歳に引き上げました。
65歳に定年が延長される時、「雇用確保」のために、定年廃止、定年延長、継続雇用制度などのうち、企業が状況に合わせて選択できるようにしましたが、企業は人件費などを考慮し、60歳以降は契約職などでもっと低い賃金で雇用を継続する「継続雇用」(2020年基準76.8%)方式を主に選択しました。
継続雇用が効果的だと判断した企業は自発的に66歳以上になっても労働者が働ける制度を導入しました。
この制度を導入した企業の割合も33.4%にのぼります。
これに加えて国は昨年4月から、職員の就業の機会を70歳まで保障するよう努力することを義務化した「高齢者雇用安定法」を施行しています。
定年廃止、定年延長、継続雇用以外にも、委託契約を通じた就職維持、社会貢献事業を通じた雇用などが新たに追加されました。
強制ではありませんが、企業が70歳まで職員の雇用に責任を負うための様々な努力をするよう促す趣旨が含まれています。

人手不足などにぶつかっている企業は先頭に立ってこの制度に応じました。
日本の家電販売大手のノジマは、昨年10月から80歳だった定年を完全になくしました。
その意図するところは、豊富な商品知識と常連客の多いシニア社員が立派な人的資産だと判断したためです。
世界最大のファスナーメーカーであるYKKグループも、昨年4月に65歳だった定年を廃止しましたし、システム開発会社のサイオスグループも定年を廃止した企業です。
少子高齢化で人手が足りなくなった日本で、このような現象は今後増加し続ける見通しです。
2030年になれば日本の労働需要が供給を644万人も上回るという研究結果もあります。
ただ、労働力が売り手市場であるという数値が出ているのですが課題もたくさんあります。
一番大きな問題は労働条件の悪さだといえるでしょう。
厚生労働省の資料によれば、企業に雇用された65歳以上の高齢者のうち、非正規職の割合は75.9%にのぼります。
この中で賃金などの労働条件が劣悪なパートタイム(アルバイト)の割合が約半数の52.2%で最も多くなっています。
非正規職の割合が高いのは、賃金などの費用を減らそうとする企業と高齢者の自発的選択がかみ合った側面があるといえます。
非正規職を選択した理由について聞いてみると、65歳以上の高齢者の中で最も多い34.4%の人が「自分の都合のよい時間に働きたいから」と答えています。
しかし、日本の65歳以上の高齢者の貧困率は20%で、経済協力開発機構(OECD)の平均(13.5%)よりかなり高い状況です。
生計のために仕事をする高齢者たちの場合には「良い働き口」といったところが少なく、働いても貧困層から抜け出すのは容易ではないといえます。
今後、国が労働力の不足を高齢者頼みとするならば、労働環境の改善を行う必要性は明らかですので、本腰を入れてその改善を図り、労働力を必要とする企業と老後資金の獲得を目論む労働者の双方がWINーWINとなるような政策を期待したいところです。

また、これまでの国民皆保険や医療の充実が健康寿命を延ばしたことで、定年退職した後も元気に働くことが出来るという証明であると言えます。
本来は定年になって働かなくても十分な年金でもって余裕を持った老後を過ごすことができるのが理想ですが、先にも述べたように現実的な話をすれば多数の高齢者にとってそれは中々難しいことです。
となれば健康な間は働くことで経済的な部分を補うことの選択肢は十分に考えられますし、今まで働いてきた職場の経験を発揮することも可能です。
元気に働けるのであれば、定年という枠にとらわれずに、自分の目標を達成するために働くことがいいのではないでしょうか。
辞めるというガードは、それぞれの働く皆さんがお持ちになっています。
いつでもご自身の判断でカードを切ることは自由選択です。

働けること=健康体であるといったポジティブな考え方も出来ます。
色々な事情があろうかとは思いますが、基本的には健康で働けることに感謝をしつつ、定年を人生100年の後半戦に有意義な道を導き出すためのトリガーにしていただければと考えます。
ウエルビーイングを叶えるために、今一度老後の再設計をされるのはいかがでしょうか。