日本語の変遷アレコレ
さて今回は、「国語に関する世論調査」についての話題です。
国語に関する世論調査は、日本国政府の文化庁が国語(日本語)施策の参考とするため、「現代の社会状況の変化に伴う、日本人の国語意識の現状」について、平成7年(1995年)度から毎年実施している世論調査です。
調査結果の中では、宅配などの配達の人に「ご苦労さま」を使う人が減ったことや、「映える(ばえる)」について半数以上が使うと答えたことなどが目を引きました。
そして、「SNSの普及が言葉の使い方などに影響を与えている」と考える人はおよそ9割にものぼりました。
調査対象・規模は全国の16歳以上の男女3,000人で、平成17年(2005年)度分からは有効回収数2,000を目標に3,500人前後に調査を依頼しています。
調査方法は個別面接方式で行われています。
主な調査項目としては、国語とコミュニケーションに関する意識、敬語に関する意識、外来語表記に関する意識、言葉遣いに対する印象や慣用句等の理解などがあります。
特に、SNSとコミュニケーションに関する項目では、「情報が本当かどうか判断しにくい」という戸惑いを感じるている人が最も多かった(51.1%)ことが報告されています。
これに関して感じさせられることは、日本語の使い方に関するリテラシーが低下していることを受けて、誤った用法がさも正しいと理解されてしまう恐さがあるように心配してしまいます。
そして、疑問に思う情報を、別の切り口でその真偽を確かめることを怠ることで、誤った情報がクリーンなものに変化していくのだと思います。
また、SNSの利用状況については、全体の74.8%が利用していると回答していますので、SNSを利用する中で配信側に誤った用法があっても、受信側でそれを「否」ではなく「是」として躊躇無く受け入れてしまうところがあるからだと考えられるのではないでしょうか。
文化庁は、この調査結果を「言葉の情報サイト」でも公開しており、言葉の使い方に迷った際の参考情報として提供しています。
また、日本語の特徴であり、かつ用法が特に難しいとされる敬語を中心とした言葉遣い、あるいは慣用句・熟語などの誤用が多数派になっていくことを捉えた調査結果が、日本語の乱れや変化の例としてマスコミなどで数多く取上げられています。
その結果や継続的調査では誤用の認知度が改善する例もあります。
ただし、この世論調査が目指しているのは「円滑なコミュニケーションの実現に寄与すること」であり、あくまでも日本語の誤用を定めたり、意味を統一しようとしたりするものではないことを理解しなければなりません。
では、いくつかの質問に対しての調査結果を見てみましょう。
まず、SNSを中心に使われるようになった新しい言葉についてたずねた結果は次のようなものでした。
⭕「写真に写すときなどにきれいでおしゃれに見える」といった意味として「映える(ばえる)」を使うことがありますか?
使うことがある 50.4% 使うことはない 48.1%
⭕「インターネットの有料サービスを利用する」といった意味の「課金する」を使うことがありますか?
使うことがある 46.2% 使うことはない 52.1%
⭕「インターネットで商品などを買う」といった意味の「ポチる」を使うことがありますか?
使うことがある 32.0% 使うことはない 66.3%
⭕「心が揺さぶられる感じがする」といった意味の「エモい」を使うことがありますか?
使うことがある 17.8% 使うことはない 80.6%
「エモい」の使用は年代別で大きく異なり、「使うことがある」と答えた人の割合は16~19歳は69.2%、20代は61.0%、50代は12.0%、60代は5.9%などとなっています。
「エモい」は「emotional(エモーショナル)」が由来の日本のスラング(俗語)かつ若者言葉ですので、年代によってこれだけの差を生むのですね。
では、ここからは文化庁が開催した記者会見の具体的な内容について紹介しましょう。
【言葉の使われ方の変化】
今回の調査では、「部下や配達の人に何という言葉をかけるか」についても聞いたところ、以下のような結果でした。
<配達人(あなたと同じ年代)に対して>
■2005年度
・お疲れ様(でした) 7.1%
・ご苦労様(でした) 49.8%
・ありがとう(ございました) 36.6%
■2024年度
・お疲れ様(でした) 4.5%
・ご苦労様(でした) 19.7%
・ありがとう(ございました) 70.0%
<会社で階級が下の人に対して>
■2005年度
・お疲れ様(でした) 53.4%
・ご苦労様(でした) 36.1%
・ありがとう(ございました) 5.0%
■2024年度
・お疲れ様(でした) 71.2%
・ご苦労様(でした) 14.9%
・ありがとう(ございました) 10.8%
いずれの状況でも「ご苦労様(でした)」を使う人が減り、「ありがとう(ございました)」を使う人が増えていることがわかりました。
この結果について文化庁の担当者は、文化庁の敬語の指針として、「ご苦労様(でした)」という言葉は、目上の人から目下の人に対する言葉としているため、徐々に敬語の指針で示した使用方法が浸透してきているのではないかとしています。
また、言葉の意味を問う調査では、「にやける」という言葉について本来の意味とされる「なよなよしている」と答えた人が10.5%なのに対して、「薄笑いを浮かべている」だと思っている人が81.9%にのぼりました。
文化庁広報誌によりますと、「にやける」は本来、男性がなよなよと色っぽい様子や姿をしていることをいい、元々「にやけ」とは鎌倉・室町時代の頃に貴人の側に付き従って男色(男性同士の性愛関係)の対象となった少年を意味していたところから来ているいうことです。
その他、「潮時」という言葉については、本来の意味とされる「ちょうどいい時期」と答えた人が2012年度調査の60.0%から今回の調査では41.9%に減り、「ものごとの終わり」だと答えた人は、2012年度調査の36.1%から46.7%に増加しました。
文化庁の担当者は、「言葉というものは社会変化などにともない、使われ方も変わっていくと考えていて、辞書にも本来の意味とともに追加されることもあるため、今回の調査結果は、正誤で捉えるのではなく、時代の移り変わりでの変化と捉えている」と説明しています。
今回は、初めてSNSについて詳しく調査が行われました。
SNSの使用方法についての調査項目において、「LINEやX、InstagramなどのSNSを利用している人」は全体の約75%で、そのうち「不特定多数にむけてSNSの投稿をしている人」は22.2%、「仲間内や一対一で使っている人」は86.3%でした。
不特定多数にむけて投稿している人に聞いたところ、利点は「趣味や価値観が似ている人たちと交流しやすい」と回答した人が63.5%で、戸惑う点としては「情報が本当かどうか判断しにくい」と回答した人が5割を超えました。
この点は、情報リテラシーの大切さを考えさせられることとなりました。
一方、SNSを仲間内や一対一で使っている人に聞いたところ、利点としては「都合のいい時間にやりとりができる」や「気軽にやりとりができる」と回答した人が7割にのぼり、戸惑う点としては「やりとりが面倒に感じる」や「相手の考えや感情が分かりにくいと感じる」がいずれの場合もおよそ5割でした。
また、「SNSの普及が社会における文字や語句、言葉遣いに影響があると思う人」がおよそ9割にのぼりました。
影響があると思うと答えた人に対して、「文字や語句にどのような影響があるか」と問うと以下の回答でした。(複数回答)
⭕略語が増える 80.1%
⭕言葉の新しい使い方や新しい言葉が増える 76.9%
⭕仲間内だけで通じる言葉が増える 45.1%
⭕絵文字等の使用が増える 35.9%
⭕外国語や外来語が増える 30.9%
などと、新しい言葉が生まれることや新しい意味での使われ方が増えると考える人が多いことがわかりました。
20年を経過すると、社会の変化や情報伝達の方法の進展などを受け、「言葉は生き物」ということを実感することが多いですね。
個人的に面白いということを実感するのは、誤った使い方が少数派から多数派になって、今までの正しい語法を駆逐するまでではなく、共存してしまうことを見て取ったときです。
古くは、「ら抜き」言葉がその典型的なものでしょうか。
私が小学校の国語で学習したときは「見られる」と習ったものが、いつしか同じ意味で「見れる」も出回り始めて、結局「見れる」も「ら抜き」としての運用が市民権を得て広く使われることとなりました。
私が小学校時代にはSNSのない時代ですらこうですから、これからSNSが今以上に利用され、どんどんと広がっていく社会の中で、国語の変遷のスピードもより速くなっていくのでしょうね。
これからを担う方々は大変だろうなあと感じる筆者です。(ま)


