核融合発電実現に向けて

さて、今回の話題は、私たちの近未来のお話しです。

エネルギーの未来を支えるために、核融合発電という新たなエネルギー技術が注目を集めています。
核融合発電は、化石燃料を使わずに無限のエネルギー供給を可能にするとされる核融合という技術で発電しエネルギー供給を行う、2050年のカーボンニュートラルを目指す上での重要な一手となる可能性のあるものです。

では、ここからは核融合発電を分かりやすく紐解いていきましょう。
核融合発電は名前のとおり「核融合」を利用した発電で、「核分裂」を利用する原子力発電と比べて放射能が速やかに減衰し廃棄物を減らすことができるため、環境に優しいエネルギー源として期待されています。
今、考えられている核融合の原料は、一般的な水素(軽水素)ではなく、水素の同位元素である重水素とトリチウムと呼ばれている三重水素です。
この3種類は全て水素の仲間と言えるものですが、違いとしては軽水素にはない中性子を重水素はひとつ、三重水素はふたつ持っているところです。
核融合とは、水素のような軽い原子核同士がくっついて(融合して)、ヘリウムなどのより重い原子核に変わることです。
そしてその結果として、融合反応が起きる前の重水素と三重水素の重さ(質量)より、融合反応が起こった後のヘリウムと中性子の重さの方が軽いので、その差の分だけの質量がエネルギーに変わるからです。
その際には、有名なアインシュタインのエネルギーEが質量mと等価であるという原理(E=mc2)により、わずかな質量が非常に大きなエネルギーに変わるということを表わしています。
非常に大きなエネルギーといっても中々ピンときませんので石油に換算してみると、たった1グラムの重水素と三重水素の核融合反応から発生するエネルギーは、タンクローリー1台分の石油(約8トン)を燃やしたときと同じだけの熱に相当する計算になります。
また、燃料となる重水素などは水から採取できるため、半永久的なエネルギー供給が可能となります。
これは、いつかは底を突く石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料や、原子力発電に使用するウランやプルトニウムとは異なることだと言えます。
宇宙レベルにおける主要なエネルギー生成メカニズムとしては、核融合は太陽や他の恒星の核で自然に発生しているものですが、太陽が全方位に対して核融合で生じたエネルギーを放出して、そのほんの一部が地球へ届き、私たちが生きるための源になっていることを考えれば、少しは核融合システムの凄さを感じ取っていただけると思います。

では、どうして核融合発電が必要なのでしょうか。
20世紀に入り、産業・経済のめざましい発展が続き、私たちはとても高度で豊かな暮らしができるようになりました。
今後、世界中の人達が私たちと同じような暮らしをするようになり、更に人口が増加するとなれば、人類のエネルギー消費量は、急激に増えてゆくことになります。
この将来のことを見越してエネルギー需要の増加を満たすひとつの候補として挙がっているのが、核融合エネルギーというわけです。

では、なぜ核融合エネルギーなのでしょうか。
核融合を地上で実現できれば、前述したように非常に大きなエネルギーを得るシステムを獲得し、人類は恒久的なエネルギー資源を手に入れることになります。
DT燃料(※注)だけをとっても、T(トリチウム)の原料となるリチウムを海水中から回収すると一千万年以上の資源量があると計算されています。
(※注:DT核融合反応を起こすための燃料で、重水素(D)と三重水素(Tトリチウム)で構成されています。重水素は、水などから比較的容易に取り出すことが可能で、三重水素は、核融合反応によって発生する中性子とリチウムの反応を利用して作ることができます。)
核融合に必要な燃料の資源は、地球上に偏在することなく豊富に存在していますので、化石燃料のように一部の国が潤うことが解消されます。
また、核融合反応は化石燃料と違い二酸化炭素や窒素酸化物などを放出することがないため、それ自身では地球温暖化や酸性雨を引き起こしません。
DT核融合反応の結果生まれる中性子によって装置の一部が放射能を帯びることになりますが、それは100年程度で100万分の1以下に弱まるので、環境に与える影響を低くできます。

それでは、どのようにすれば核融合反応を起こすことができるのかをみていきましょう。
温度の上昇とともに物質の状態は一般に固体から、液体、気体へと変化してゆきます。
さらに高温では、原子核のまわりを廻っている電子がはぎとられて原子は正の電荷を持つイオンと負の電荷を持つ電子に分かれて(イオン化といいます)、両者が高速で不規則に運動している状態になります。
この状態をプラズマといいます。
核融合反応を起こす条件としては、温度が数億度に及ぶ超高温プラズマが対象となります。
プラズマは雷やオーロラなど自然界に広く存在しますが、身近な例としては蛍光灯などの希薄な気体中の放電によって作られるプラズマがあります。
核融合反応は、2つの原子核どうしを衝突させて融合するものです。
ただ、原子核は両方とも正の電荷を持っているため、早いスピードでぶつけないと正の電荷どうしの反発力で衝突しません。
磁石の+極と+極を近づけると反発しあう原理と同じです。
衝突させるために必要なスピードは、毎秒1,000km以上です。物凄いスピードです。
このスピードは重水素(D)と三重水素(T)を1億度以上の温度に加熱することにより得られます。
しかし、1回の核融合反応が起こっても、その結果出てくるエネルギーが次の核融合反応を起こすために他の原子核を1億度以上に加熱するのに使われなければ、核融合反応は連続的には起こりません。
そのためには、核融合の燃料である原子核を「たくさん(高い密度で)」、「長い時間」一定の領域に閉じ込めておくことにより、核融合反応を連続して起こすことができるのです。
このため核融合反応は、核分裂のコントロールが失われた場合に暴走のリスクがある核分裂反応と異なり、条件が整わなければ核融合反応は連続的に起こらないため核分裂反応と比べてリスクは大変低いと言えます。
このように原子力発電と比較した場合、核融合発電は非常に高い安全性を持っています。
しかし、完全に放射能がないわけではないため、実際に稼働するためには、地域の考え方や建設地域の問題にも十分配慮する必要があると言えます。

核融合発電の実用化には、プラズマの制御やエネルギーの効率的な取り出し方法など、まだまだ多くの技術的な課題が存在します。
そして稼働が見込まれる2035年ごろには、燃料となる水素の放射性同位元素のトリチウムが不足している可能性があるというのです。
その原因のひとつは、トリチウムを産み出すために特殊な核分裂原子炉を使用しているのですが、世界にいくつかある核分裂原子炉の耐用期限が迫っていることです。
核融合の本来の目的は、従来の原子力発電に代わるクリーンで安全な発電手段を提供することです。
しかし、核分裂の望まれぬ副産物として慎重に廃棄されるべき存在であったトリチウムが、”ダーティー”な核分裂炉を使って作り出されて“クリーン”な核融合炉に燃料を供給することになるとは、なんとも不条理な話で首を傾げたくなります。
そしてトリチウムのもうひとつの難点は、崩壊が速いことです。
崩壊というのは、放射性崩壊のことを指していて、トリチウムを構成している不安定性を持つ原子核が放射線(α線、β線、γ線)を出すことによって他の安定な原子核に変化する現象のことを言います。
トリチウムのような放射性物質の原子は、一定の確率で放射性崩壊を起こして別の物質に変化します。
この放射性原子の半分が他の原子に変化するのにかかった時間を半減期と呼びます。
トリチウムの半減期は12.3年ですので、12.3年後には半分のトリチウムがヘリウム3になってしまう自然界の摂理があるのです。
しかし、現在では、多くの研究者や専門家が核融合発電の実現に向けて、核分裂原子炉に寄らないトリチウムの生産方法を研究・開発するため取り組んでいます。

まとめとしては次のようなことが言えます。
核融合発電は、将来のエネルギー政策において重要な役割を果たすことが期待されています。
まず、核融合発電は石油や石炭などの化石燃料に頼ることなく、持続可能なエネルギー供給を実現できます。
これにより、地球温暖化や環境破壊といった問題を解決する一助となるでしょう。
さらに、核融合発電はエネルギーの安全保障にも貢献します。
核融合炉は非常に安全性が高く、事故や放射性廃棄物のリスクが少ないとされており、原子力発電所のようなリスクを抱えることなく、安定したエネルギー供給が可能となります。
将来的な展望としては、2030年代には核融合発電が実用化される可能性があります。
さらに、2050年以降には広く普及し、持続可能なエネルギー供給の一翼を担うことが期待されています。
技術の進歩や国際的な協力により、核融合発電は夢から現実へと変わっていきます。
核融合発電の将来展望は明るいものです。
エネルギーの供給安定化や地球環境の保護に向けて、核融合の実用化は重要な一歩となるでしょう。
このエネルギー供給の大きな変化が、私たちのQOLを向上する方向へ振れてくれることを期待したいものです。(ま)