凄い!マイクロ炉

さて、今回の話題は近未来の発電ユニットのお話しです。

日本の三菱重工業が超小型原子炉「マイクロ炉」の開発を進めています。
何と、この原子炉の炉心サイズが直径1m×長さ2mとコンパクトな設計となっていることから、トラックでも運べる小ささとなっています。
このように可搬性に優れていることから、フットワークが良く、離島やへき地、災害時の電源として期待できます。
一般的な原子力発電所の電気出力が1基100万キロワット程度となっていますし、今は、次世代原子炉として電気出力30万キロワット以下の出力を押さえた「小型モジュール炉(SMR)」にも注目が集まっています。
しかしながら、「マイクロ炉」はそのSMRよりも格段に小さいユニットとなっています。
果たしてどのような構造、仕組みになっているのか、原子炉というと原爆と結びついてしまい、危なくはないのかなと恐怖心も芽生えましたが、日本の技術力を持ってすれば安全に使えるんじゃないかと考え、興味が湧いて来たので少し覗いてみました。

三菱重工業によれば、「マイクロ炉」の設計寿命は25年を目標としているそうです。
典型的な発電炉である加圧水型原子炉では、18か月から24か月毎に燃料を交換する必要がありますが、「マイクロ炉」では寿命とされている25年間に燃料交換を不要にするという画期的なものです。
燃料の交換などがなければ、放射線漏れによる被爆などのリスクが格段に小さくなるので、より安全な原子炉と言えますね。
想定する熱出力(原子炉で発生する熱エネルギー)は1,000キロワット、電気出力(タービン・発電機で熱エネルギーから変換される電気エネルギー)は500キロワットほどになります。
大まかな比較となりますが、原子力発電所の大型軽水炉1基あたりの電気出力を100万キロワットとすれば、「マイクロ炉」は千分の1程度です。
前述のSMRと比べても、数百分の1程度の規模となります。
理論的には三菱重工業の「マイクロ炉」であれば約1,200世帯の電力を賄える計算ですが、実際の電力需要変動や送電ロスなどを考慮すると、保守的に見て500世帯程度を賄えると考えられます。
運転開始の目標時期は、2040年ごろと少し先になっています。
三菱重工業が2022年5月に開いた決算説明会では、「脱炭素とエネルギー安全保障の観点から原子力が再評価されている」と述べていて、「マイクロ炉」を高温ガス炉(HTGR)や高速炉と並ぶ、同社の次世代原子力技術として位置づける発言をしています。

では、「マイクロ炉」の詳細についてもう少し掘り下げていきましょう。
「マイクロ炉」は三菱重工業によれば、原子力発電所ではあっても、一般的な軽水炉とは異なる「新しい炉型概念」だということです。
軽水炉は冷却材と減速材(原子炉において核分裂後に放出される中性子の速度を下げる役割を果たすもの)として軽水(普通の水)を使いますが、「マイクロ炉」では使いません。
減速材がなければ、中性子による核分裂にブレーキが掛からなくなり、原爆のような一方的な核分裂が起こることで周囲を破壊し、放射線を撒き散らすことに繋がっていきます。
「マイクロ炉」では、炉心の核分裂で生じた熱は、「高熱伝導体」を介して外側の伝熱管に伝わり、伝熱管内を満たす二酸化炭素を加熱します。
そしてその加熱した二酸化炭素を、原子炉の外の発電機に送ってタービンを回して電力を発生させるといったシステムになっています。
「マイクロ炉」は、軽水炉のような液体の冷却材を使わない「全固体原子炉」になっているのです。
炉心の高熱伝導体は円板形状になっていて、材料は黒鉛系(炭素から構成される鉱物)を想定していて、この黒鉛の円板が、原子炉の冷却と減速材の役割を果たすことになります。
「軽水炉」は「軽水」が熱の冷却と中性子の減速材の役割を果たしますが、「マイクロ炉」は「黒鉛」が熱の冷却と中性子の減速材の役割を担うことになっている訳です。
核燃料が入っているのは、同じく黒鉛で造られた「燃料板」と呼ばれているものになります。
この燃料板には、まるで「蜂の巣」のように複数の穴が空いており、燃料ペレット(原子炉で使用する核燃料を磁器のように成形し焼き固めたセラミックのこと)が「蜂の子」のように並んでいます。
黒鉛系材料を採用するメリットは、熱輸送能力(熱がどれだけ効率的に移動する能力を持つか)の高さと軽さです。
黒鉛系材料の熱伝導率は銅の約4倍、密度はステンレス鋼の約4分の1とされています。
炉心は、高熱伝導体と燃料板を交互に重ねて構成されています。
前述した直径1m×長さ2mという炉心サイズは、この複数の高熱伝導体と燃料板を重ね合わせたものの大きさとなります。
こうした炉心の構造について、三菱重工業の担当者は「(お菓子のビスケットの)『オレオ』が重なり合っているような構造」と例えています。
原子炉とお菓子の構造が似ているのも不思議ではありますが…。
また、原子炉の容器も軽水炉とは大きく異なります。
「マイクロ炉」には、原子炉と外部を隔てるための金属製の「格納容器」は存在するものの、軽水炉にある「圧力容器」に該当するものは見当たりません。
格納容器は魔法瓶のような真空二重構造になっており、内部はアルゴンなどの不活性ガス(他の物質と反応しにくい化学的に安定した気体の総称)で満たされています。
真空二重構造にしているのは、高い断熱性により、熱利用の効率性を高めるのが狙いです。
「マイクロ炉」の出力を制御する手段は、大きく分けて2つあります。
ひとつ目は、通常の稼働時に出力を制御する「制御ドラム」です。
詳細は明かされていませんが、炉心には複数の貫通穴が同心円上に空けられていて、その貫通穴に円筒形状の制御ドラムが挿入されているということです。
制御ドラムには中性子(原子炉内の原子核に衝突することで核分裂を発生させる役割を持つ粒子)の吸収材が取り付けてあり、このドラムを回転させて反応を制御するといったものです。
そしてもう1つは、炉心中央にある非常用制御棒で、緊急時には自動で挿入されるようになっています。
なお、緊急時には格納容器の二重構造の中空部にガスを充填し、むしろ熱伝導性を高める構造となっています。
崩壊熱(放射性物質が放射線を出して別の物質に変わる際に発生する熱エネルギーのこと)は自然空気循環によって取り除く仕組みで、格納容器の内部の圧力は上昇せず、安全を確保できるということです。

では、今何故この「マイクロ炉」が注目を浴びるのか、そのメリットについて箇条書きで簡潔に説明してみたいと思います。
「マイクロ炉」は、その小ささから様々なメリットがあります。
◯多様で安定した電源
・送電網が未整備な地域での電力供給源になることが可能
・過疎地や離島、災害地などでの活用が可能
◯建設と運用の効率性
・工場生産で建設期間の短縮とコストの削減が可能
・品質管理が平易
・燃料交換なしで10年以上の運転が可能
◯高い安全性
・受動的安全システム(外部からの動力や信号を必要とせずに、異常時に原子炉で生じる温度変化などの物理現象に基づ   いて自然に安全を確保する機能)により事故時の影響を抑制する方法・仕組みが存在
・炉心内の放射性物質量が少なく、万一の事故も小規模になる可能性あり
・冷却材に流体を使わない全固体原子炉のため、万一の事故も被害が限定
◯多様な用途
・発電だけでなく熱供給源としても利用可能
・水素製造や海水の淡水化など多岐にわたる用途あり

このように様々なメリットがある一方、「マイクロ炉」の実用化にはいくつかの課題も存在しますので、そちらについても紹介しましょう。
◯経済性
・大型炉に比べ小型であるが故に、1基あたりの収益が少ない(低効率の)可能性あり
・普及には「マイクロ炉」を取引する大規模な市場が必要
◯規制と基準
・非軽水炉型の場合、安全基準の確立が必要
・各国で導入に向けた政策支援が進むが、安全規制等が未整備
◯技術開発
・多くの「マイクロ炉」が開発途上段階
・期待される特長の実証が必要

以上のようなことから、現状としてはメリットもあり、一方で課題も抱えている状況だと言えます。
一般への導入には10数年の時間が必要とのことですが、今や私たちには電気のない生活は考えられず、地球のどこに居ても必要な電気が持続可能で安定的に供給できて、リスクが低い発電方法が開発されれば、自ずとその利用価値の確実性が増すことになります。
また、それによる利用件数の増加は、コストを下げる方向へと向きますから、導入への経済的なハードルも下がることでしょう。
この「マイクロ炉」がそういったニーズを受け止めて、地球のあらゆるところで活躍をする時代が来る可能性は十分に考えられます。
そうなれば、都会と田舎といった従来の価値観にも変化が出て来て、私たち人類にも新しいQOLの向上の方法として、電気や熱供給源としての「マイクロ炉」を利用した生活様式なるものが出てくるかも知れません。
少し想像し過ぎてしまいましたね。
ただ、この「マイクロ炉」の登場は、個人的な考えかも知れませんが今までの価値観の代表のような「大きいことはいいことだ」を覆してしまい、個人や地域といったレベルでの利用価値にスポットライトを向けるトリガーとなりそうな期待をしてしまいます。(ま)

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