「パンツを脱いだあの日から」に込めた覚悟と出会い
こんにちは、盲目のウクレレ講演家、亀ちゃんです。
2021年2月。
私が所属している仲間の会で、アジア協会の事務局をしている友人から、ある問いかけがありました。
「日本に来ているバングラデシュの留学生が、コロナの影響で飲食店でのアルバイトができず、食べるものにも困っているそうなんです。誰か“お米”を分けてくれる人はいませんか?」
その言葉がきっかけで、私は運命的に「マホムッド・ジャケル」さんと出会いました。
ジャケルさんは日本の企業で働くサラリーマン。けれど個人的に、バングラデシュから来た留学生たちを支援している、優しくて頼もしい方でした。
彼の口ぐせは「ご飯、食べましたか?」
もし「まだです」と答える学生がいれば、自分のポケットマネーで食事をご馳走してあげるような人です。
自分の時間を使って相談に乗ったり、生活の手続きを手伝ったりもしています。
なぜ、そこまでできるのか――
その理由を尋ねると、「自分も20数年前、日本に来たときに本当に大変な思いをしたので、人ごとには思えないんです」と話してくれました。
ある日、ジャケルさんは日本に来たばかりの頃の話を語ってくれました。
「バングラデシュの若者にとって“日本に行く”ことは、夢のまた夢。まるで奇跡のような出来事なんです」
ようやくの思いで来日したものの、言葉の壁や経済的な困難に直面し、毎日が試練の連続だったそうです。
私はその話を聞きながら提案しました。
「ジャケルさん、その体験を本にしてみませんか? 今の日本の人たちにとって、当たり前に暮らしているこの社会がどれだけ恵まれているか、きっと伝わると思います」
するとジャケルさんは、「話すのは得意ですが、本を書くのは難しいですね」と笑いました。
そこで私は言いました。
「私は以前、本を書いたことがあります。目は見えませんが、耳は聞こえます。だから、電話で話してもらえれば、それを文字にすることができますよ」
こうして、私たち二人の間に“本をつくる”という夢が生まれました。
それから毎晩、毎晩、電話で聞かせてもらう話は、まるでドラマのようでした。
ある日のエピソード。
バングラデシュから来日した“初日”のことです。
長旅の疲れもあり、「お風呂に入りたい」と兄に頼んだジャケルさん。
兄の住まいは、6畳に6人が暮らす雑居住宅で、トイレは共同、風呂はありません。
兄は少し悲しげな顔をしながら、「銭湯に連れて行ってやるけど、俺は入らない」と言いました。
銭湯でチケットを買ってくれ、脱衣所での手順などを説明すると、兄は「じゃあ、行くからな」と去ってしまいました。
なぜ兄が一緒に入らなかったのか。
それは、バングラデシュの文化に深く関係しています。
バングラデシュでは、たとえ親や兄弟であっても、自分の裸を人に見せることは絶対にしません。
風呂といっても屋外の池に下着を着けたまま入るのが普通。
だから兄であっても、他人の目に自分の裸をさらすことはできなかったのです。
銭湯で、ジャケルさんはパンツを履いたまま浴室に入ろうとしました。
すると番台のおばちゃんが、怖い顔でパンツを指差して何かを言いました。
言葉は分かりませんでしたが、「それを脱ぎなさい!」という意味だけは理解できました。
涙をこらえながらパンツを脱いだ瞬間、バングラデシュで培った文化や習慣、そしてプライドが一気に崩れ去り、過去がストンと抜け落ちるような感覚に襲われたそうです。
風呂から帰ると、兄が心配そうな顔で「大丈夫か?」と声をかけてくれました。
「平気だよ」と強がって明るく答えたジャケルさん。
けれど兄は、すべてを分かっていたような優しい目で、そっと包んでくれたそうです。
日本に来る前、兄から言われた言葉を思い出したそうです。
「日本に来るってことは、南アジアとはまったく違う世界に入るってこと。困ることも多い。火星に行くぐらいの覚悟で来い。慣れるしかないんだ」
その言葉を胸に、ジャケルさんは初日に誓いました。
「私は日本に“文化を学びに”来たんだ。すべてを理解し、受け入れよう」と。
この原点の覚悟にちなんで、私たちは本のタイトルをこう決めました。
『パンツを脱いだあの日から』
~バングラデシュからの留学生が、日本社会の一員になるまで~
私は日本で生まれ育ち、日本で暮らしています。
けれど、ジャケルさんに出会ってから「当たり前に生きていることが、どれほど幸せなことか」と、心から思うようになりました。
そして、彼の姿から「覚悟の力」を学びました。
私にも「あの日」があります。
盲人として生きると決めた日。
そして今、「幸せの入り口屋」として生きていく覚悟を持って、日々を歩んでいます。
「覚悟が人生を動かす。文化の違いが、心をつなぐ。」
目の前のひとつの出来事が、人生の大きな扉を開くことがあります。
それを実感させてくれたのが、ジャケルさんとの出会いでした。
「文化を越えて、人としてつながる力」 これからも、その可能性を信じて進んでいきます。
生涯の親友、ジャケちゃんとのこれからの展開も、とても楽しみです。
ジャケルさんの本はこちらから!
『パンツを脱いだあの日から』
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