銀河系ひとりぼっち

さて、先日太陽フレア(太陽における爆発現象)で、低緯度でのオーロラが観測できたといったニュースがありましたね。
読者の方も関心を寄せられたかも知れませんが、今回は太陽系を股にかけて頑張る宇宙探査機にまつわるお話しから、人と機械の繋がりに関しての話題です。

ボイジャー1号(Voyager 1)は、1977年に打ち上げられたNASAの無人宇宙探査機で、打ち上げから約半世紀近く経過している中で、2024年の現在も運用されている地球から最も遠い距離に到達した人工物です。

ボイジャー1号の最初の目標は、木星と土星及びそれらに付随する衛星と環でした。
2004年12月、惑星の観測を終えて太陽系外に向かって飛行中、太陽から約140億km(約95AU…①)の距離で、太陽風…②の速度がそれまでの時速112万kmから16万km以下に極端に落ち、太陽系外の星間物質(ガス)が検知されたことから、末端衝撃波面…③を通過して太陽圏と星間空間の間の衝撃波領域であるヘリオシースに入ったことが判明し、研究者が星間物質の状態を直接観測したデータを初めて得ることができたのです。
2012年6月にはNASAによって、ボイジャー1号が太陽系の境界付近に到達したことが公表されました。
また、8月25日頃には太陽圏を脱出して星間空間の航行に入っていることが発表されました。

①…AUとは地球と太陽の平均距離に由来する天文単位を表す長さの単位の記号で、約1億5000万km
②…太陽風とは、太陽から吹き出す極めて高温で電離した粒子(プラズマ)のこと
③…末端衝撃波面とは、恒星間物質との相互作用によって太陽風の速度が低下し、亜音速になる地点のこと

2013年9月6日時点で、太陽から約187.52億kmの距離を秒速1万7037m(時速6万1333km)で飛行中。この時点の距離では、探査機からの信号がジェット推進研究所の管制センターに届くまでには光速で片道17時間21分56秒かかります。
ボイジャー1号は太陽に対して双曲線軌道上を飛行することで、太陽に対して無限に遠ざかる軌道に乗ることができます。
現在ボイジャー1号は太陽の脱出速度に達しています。
ボイジャー1号はパイオニア10号や11号(共に運用終了)、姉妹機のボイジャー2号とともに星間探査機へと役割を変えています。
2機のボイジャー探査機では、それぞれ3個の原子力電池が探査機へ電力を供給しています。
原子力電池放射性同位体が発する熱などを利用する電池で、長い半減期をもつ同位体を用いることで寿命の長い電源が得られます。
この発電装置は当初想定されていた寿命を大幅に超えて2022年現在も稼動しています。
1977年当時470Wを供給していた原子力電池の電力供給能力は、2008年の時点で285Wに落ちています。
節電のため一部の観測装置の電源を順次切ってゆくことで、2025年頃までは地球との通信を維持するのに十分な電力を供給できると期待されています。

ここでボイジャー1号の足跡を見てみましょう。
ボイジャー1号は1979年1月に木星の写真撮影を開始しました。
木星への最接近は3月5日で、木星中心から34万9000kmの距離まで近づきました。
地球と月の距離は約38万kmですから、それよりは少し近い距離ですね。
接近中には解像度の良い観測データが得られるため、木星の衛星や環、木星系の磁場や放射線環境などの観測の大部分は最接近の前後48時間内に行われ、木星の撮影は4月に終了しました。
2機のボイジャー探査機は木星とその衛星について数多くの重要な発見をもたらしました。
中でも最も注目すべき発見は、過去に地上からの観測やパイオニア10号、11号で観測されていなかったイオの火山活動の存在を明らかにしたことでした。
ボイジャー1号の木星での重力アシスト(スイングバイ)…④は成功し、探査機は土星へ向かいました。
ボイジャー1号の土星フライバイ…⑤は1980年11月に行われ、11月12日には土星表面から124,000km以内にまで接近しました。
探査機は土星の環の複雑な構造を明らかにし、土星とタイタンの大気の調査を行いました。
以前の発見でタイタンには濃い大気が存在することが分かっており、探査の重要性が増していた一方で、当初は火星弱の大きさと考えられていた冥王星がボイジャー打ち上げ後に見かけよりもかなり小規模な天体であることが判明したため、冥王星に向かう延長ミッションは行わず、タイタンへの接近軌道に乗ることでボイジャー1号はさらに重力アシストを受け、これをもってボイジャー1号の惑星科学ミッションは終了し、星間ミッションに専念する形となりました。
2012年8月25日、人工物として初めてヘリオポーズ…⑥に到達し、太陽圏外に出たとNASAが発表しました。
2016年12月29日現在、ボイジャー1号は太陽から約216億3000万kmの距離にあって、速度は太陽との相対速度で16.977km/sとなっています。
2023年11月に搭載コンピュータに問題が発生しましたが、米国時間4月22日に何とか復旧し、地球へのデータ送信を再開したと発表しました。
これによりボイジャー1号は、5カ月ぶりに地上管制に自身の健康状態のデータを送信することができました。
現在は地球から約240億km離れた星間空間を航行中です。
これだけの距離があるため、地球からボイジャー1号まで電波が届くのになんと22時間半かかってしまうため、コマンド送信の結果を受信するのに往復45時間かかってしまう計算になります。
やり取りに丸2日ほど掛かってしまうくらい遠いところって凄いですね。

④…天体の運動と万有引力(重力)を利用し、宇宙探査機の運動ベクトルを変更する技術のこと
⑤…近接通過とも呼ばれています。
宇宙探査機が他の天体の近くを通り過ぎる宇宙飛行で、その天体の探査を行ったり、別の目的地に向かうスイングバイに利用したりするために行われます。
⑥…ヘリオポーズとは、太陽から放出された太陽風が星間物質や銀河系の磁場と衝突して完全に混ざり合う境界面のこと

ここまでボイジャー1号の足跡をご紹介しました。
ボイジャー1号は打ち上げから半世紀近く地球との交信がなされていますが、時として非常事態に陥ったこともありました。
しかし、NASAの懸命な復旧作業で、今なおひとりぼっちで暗い星間空間を猛スピードで地球から離れています。
私はボイジャー1号の話を聞くと、スタートレックの映画で未知の機械生命体に改造されて故郷である地球目指してヴィジャーという名で帰還してくるボイジャーの映画を思い出します。
その映画を観たときに感じたことは、機械だって故郷へ帰りたいんだろうなあという感傷的な気持ちでした。
そしてもうひとつ感じたことは、地球との交信は出来るとは言え、ひとりぼっちで片道切符の前へ進むだけの旅は、私にはどうしても「機械だからいいじゃないか」で片付けられない感情を抱かせたことです。
そこには人間対機械といった切り離しではなく橋渡しをするものがあって、人間だけいいとこ取りをせずに、機械にもメリットがあるWIN-WINの関係があればいいなと思ったりしてしまいます。
「通信に何時間掛かろうともいつも繋がっているよ。」というコミュニケーションの大切さを、人間対機械の関係の中で強く感じたことです。
このことは、人と人とがいつも誰かと繋がっているという感覚がメンタルの安定に寄与していて、個々のQOLの向上にとても大切な部分を担っていることと同じように感じられます。

5月15日のニュースで流れていましたが、OpenAIの最新AIモデル「GPT-4o」では、スムーズかつ自然な音声会話が実現できる感情が豊かで人間を思わせるものになったと言えます。
GPT-4oを搭載した会話型AI「ChatGPT」が人間らしく私たちと意思疎通ができれば、私の考える橋渡し役として一歩近づく期待が持てそうです。

コミュニケーションが苦手だという方も、「ChatGPT」でコミュニケーションスキルを身につけていただければ新たな世界が拡がることで自分自身のQOL向上に役立つこととなるでしょう。
人間と機械が今後どのように進化または深化していくか、まだまだ不透明なところが多々あります。
しかし、そこには人類がこの世に生まれて何百万年の間に培った経験とそこから導き出された英知があります。
きっと、未来の人類は数々の失敗と成功を経ながらも、機械との共存を成し遂げ、well-beingを叶えてもらえるだろうことを信じたいと思います。
遅かれ早かれ、人と人とのコミュニケーションと同様、人と機械とのコミュニケーションの課題が持ち上がりそうですね。
果たして賢明な人類はどのようによりよい機械とのコミュニケーション構築を図ろうとするのか、期待と不安が入り交じった心持ちです。

読者の方には、当初の惑星探査機の話題が最後にはAIの話題へ飛んでしまい、一貫性の無い話になってしまい大変申し訳なく思っています。
何卒ご理解をいただければ幸甚です。(ま)