アフターコロナと人間関係

さて、今回はアフターコロナと人間関係についての話です。

新型コロナウイルスの感染法上の位置づけが、令和5年5月8日から2類相当から5類感染症に変更されましたが、それを受けた形で社会ではアフターコロナと呼ばれる2023年がスタートしました。
若者を中心に前年よりも孤独を感じる人の割合が減少した一方で、中高年では逆に孤独を感じる人の割合が増加しているのも事実です。
こうした背景のもと、政府では2021年に孤独・孤立対策担当大臣が誕生して以降、注目を集めてきた孤独・孤立の問題が、再び社会課題としてクローズアップされて来ていると言えます。

野村総合研究所が行った「新型コロナウイルス流行に係る生活の変化と孤独に関する調査」では、アフターコロナ期に入ってもなお、約4割の人が孤独感を抱えているといった調査結果が出ています。
それではこの調査をもう少し深掘りして行くことにしましょう。

孤独の深刻度別でみてみると、深刻な孤独を感じている層では、その半数以上の人がコロナ前よりもいっそう孤独を感じるようになったという結果が出ています。
コロナ禍の行動制限が緩和された今も、私たちそれぞれが抱える孤独感はまだまだ看過できない問題として存在しています。

孤独感は様々な出来事や事象が積み重なって感じるもの、かつ誰にでも起こりえるものであるため、その要因を追及することは難しいですが、コロナ禍における孤独感を形成する要素の一つとして、人間関係の希薄化が考えられます。
コロナ禍において感染の懸念から家族や親族、友人・知人などと会う機会が減った人は多いでしょう。
こうした機会損失が人間関係を疎遠にし、孤独感の要因となっている可能性があります。
実際に「コロナ禍が要因となって疎遠になった人がいる」と答えた人は、約半数の47%にのぼりました。
疎遠になった人間関係がある人ほど孤独を感じやすいことは言うまでもありません。

一方でコロナ禍に関係なく、過去に経験した重大なトラブルも、孤独感に影響を与えている可能性があります。
いじめや不登校、失業、ハラスメント、DV、家庭内別居など、重大なトラブルを経験している人は、そうでない人よりも孤独を感じやすいことがわかりました。
深い心の傷を抱えている人は、特に注意が必要だと言えるでしょう。
孤独を感じたときの相談先として、相談員・カウンセラーによる相談支援サービスが多数存在しています。
しかし、深刻な孤独を感じる人ほど、こうした相談窓口を利用したいと回答する割合が高いにもかかわらず、約半数が相談支援サービスの存在を知らない状態であることがわかりました。
このようなことから、今後社会が支援を必要としている人にどのようにしてアプローチをするのか、積極的な広報に加え、対象者がいる場所にこちらから出向く、アウトリーチ(公的機関や文化施設などによる地域への出張サービス)型の支援体制の構築が求められています。

若者について考察すると、改善の兆しがみえつつも、依然として孤独感を抱える傾向がみられました。
コロナ後、若い世代を中心に旅行などの外出や趣味、コミュニケーションの機会が増えている傾向がみられますが、20~30代の約半数が日常的に孤独を感じています。
これは1年前のコロナ禍の際に実施した調査結果とそれほど変わらない割合となっていて、生活が元に戻っても孤独感が拭い去られない実態が浮き彫りになりました。
若者世代の特徴として、「自分と他人を比較することが多い」「人の役に立っていると感じることが少ない」といった傾向がみられました。
さらに、そういった傾向がある人ほどより孤独を感じやすいこともわかりました。
孤独を感じたときに誰かに相談できていないや、相談する人がいないといった若者も多く、中でも相談支援サービスの利用には高いハードルがあるようです。
また、相談することによって孤独感が改善されるとは思えず、そもそも相談したくないと考えている人もいました。
その一方で、27%の若者が「気にかけられる」ことを、45%の若者が「他愛のない話をする」ことを希望しており、本音としては相談やアドバイスよりも「気にかけられたい」、「話しかけられたい」と考えているのかもしれません。

この結果から、今の若者が求めているのは、相談の一歩手前の気軽なコミュニケーションだということが見て取れます。
そのためには自然発生的なコミュニケーションが望ましいのですが、コロナ禍を経て在宅勤務・学習が増えた今、コミュニケーションを取る機会が減少したために、それを待っているだけでは十分とは言えません。
一部の企業においてはリモートを中心とした在宅勤務の行動から、以前のようなリアルな対面中心のものへと出社回帰する機運が高まっています。
また、若い世代の発案に基づいてコミュニケーションを活性化させる取り組みも行われています。
企業や学校、地域において、意識的かつ定期的なコミュニケーションの機会を生み出していくことが必要だと言えるではないしょうか。

そして、中高年層について考察すれば、過去3カ年の調査を通じて孤独を感じる人の割合が、2021年と2023年で比較した際、40代男女・50代男女すべてで増加している傾向がみえました。
収入が減少したり、知人・家族と疎遠になったりというコロナ禍の影響が、いまだに色濃く残っている現状があると言えます。
コロナ禍で自粛した通勤・通学、旅行、趣味の活動が、若い世代よりは再開されにくく、「周囲に置いて行かれている」という感覚を持っている人も一定数いるようです。
着目すべきは、家庭内に相談相手となる人がいるはずの既婚者や、社会的に孤立していないはずの会社員も孤独を感じている点です。
職業別にみても傾向に大きな隔たりはなく、あまねく誰もが孤独感を抱いていると言えるでしょう。
日常において「人の役に立っている」と感じられない人が孤独を感じやすいのは若者世代と同様ですが、中高年の正社員や専業主婦でさえも「人の役に立っている」という実感がない人も多く存在していて、この問題の根深さを感じざるを得ません。
そして、相談へのハードルが高いのも、この世代の特徴と言えます。
相談できている人が少ないうえ、そもそも相談したくないという人も多いことがわかりました。
相談したくない理由としては、相談が必要ないという理由以外にも、相談しても変わらないという諦めや、孤独を知られたくないという羞恥心が働いたり、人に迷惑をかけたくないという遠慮などが挙げられます。
相談を拒む人に相談の機会が不要なわけでなく、相談することができていない状況があります。
他愛のない話をする機会が必要なのは、この世代でも変わりません。
日常の中で他愛のない会話を生み出すために有効なのが、企業での取り組みです。
すでに昼食を一緒に食べるなどの企画を行う企業も存在します。
また、北九州市の「いのちをつなぐネットワーク」は、地域や企業に勤める人も参加して地域の孤独・孤立を防ぐ取り組みですが、企業に勤める人も支援に携わることで、「人の役に立っている」という実感を得て、自身の孤独・孤立対策となるという副次的な効果も期待されます。

コロナ禍で激変した生活が元に戻りつつある今、私たちの孤独感も緩和され始めています。
しかし、依然として多くの人が孤独感を抱えており、孤独・孤立の問題が完全に解消したわけではありません。
さまざまな視点からアプローチを試み、各世代の孤独感を適切にケアしていくことが重要だと言えます。
私たち人間は、コミュニケーション能力においては言語や行動により他の動物より秀でたものを持っています。
しかし、コロナ禍においてその最も優れた能力を削がれたことによる弊害は、大きく根深いものとなっています。
人間社会に希望を見いだすことのできるコミュニケーションを構築して、お互いのネットワークを密にすることで孤独感を払拭する術を獲得できるよう、各々が知恵を絞る時代になってきたのではないでしょうか。
ここまで高度なコミュニケーション社会を構築した人間であれば、コロナ禍による孤独感を払拭するための解決策を見い出してくれることに期待したいと思っています。(ま)