女性就業率が上昇しました!

さて、今回の話題は、女性の就業率上昇について触れたいと思います。

先日の日本経済新聞の一面に、就業構造調査の結果が掲載されていました。
詳細は以下の通りです。

総務省が7月21日に発表した2022年の就業構造基本調査によると、25〜39歳の女性のうち働く人の割合が81.5%と初めて8割を超えました。
共働き世帯の増加を踏まえ、育児との両立可能な働き方や「年収の壁」を意識して女性が働く時間を調整している問題などの解消が急がれますとのコメントも添えられています。

女性の有業率(仕事をしている人の割合)は53.2%と17年の前回調査から2.5ポイント上昇の過去最高でした。
また、働く女性の数も3035万4000人で最多を記録しました。
15歳から64歳までの生産年齢人口でみた女性の有業率も4.3ポイント上昇の72.8%で最高を更新しました。

働き盛りにあたる25〜39歳の女性の有業率は5.8ポイント高まり、20代後半から30代にかけて落ち込む「M字カーブ」は改善しました。
伸び率は前回の5.9ポイントから鈍化したものの、頭打ちは近いとの見方があります。

生産性を向上するには、望まない非正規雇用の正規化やシニア世代の活躍といった働き方の転換が必要といえます。
育児や介護を抱える人が、働き続けられる環境づくりも避けることは出来ません。
今回の調査によると、育児を理由に過去1年以内に離職をした女性が今なお14万1000人いることが分かりました。
同じ時期に介護を理由に離職した男性は2万6000人、女性は8万人でした。
5年前と比べてそれぞれ2000人、5000人増えました。
一方で未就学児の育児をしながら働いている人の割合も85.2%に上り、前回から5.9ポイント上昇しました。
この項目の調査を始めた2012年以降で最高となりました。
非農林業従事者のうち副業がある人は305万人で前回から60万人増え、今回初めて調査対象となったフリーランスを本業とする人の数は209万人で有業者の3.1%を占めました。
1年間にテレワークを実施した人も有業者の2割近くにのぼるなど、新型コロナウイルス禍で働き方の多様化が進んだことがうかがえます。
日本の女性就業環境は率だけをみると、主要7カ国(G7)で最高水準に近づいてきたと言えるでしょう。
経済協力開発機構(OECD)によると、15〜64歳の生産年齢人口に対する働く女性の割合は2022年時点で日本は74.3%で、米国の69%やフランスの70.7%を上回り、G7で最も高いカナダの76.7%に接近してきています。

就業構造基本調査は5年ごとに実施するもので、2022年10月1日時点の就業形態などについて全国およそ54万世帯の15歳以上の108万人ほどを対象とした結果を基に推計をしています。
非正規で働く人の雇用者に占める割合は男性が22.1%、女性が53.2%で、前回比でそれぞれ0.2ポイント、3.4ポイント下がっています。
2004年の製造業への派遣労働解禁など労働者派遣法の相次ぐ改正で非正規は増えてきていましたが、コロナ禍や近年の人手不足で正規化による労働力確保の動きが出てきています。
大正大の小峰隆夫客員教授は「女性や高齢者の労働参加で生産年齢人口の減少を補って来たが、今後は8割程度の北欧レベルまでまだ上がる余地はあるが限界はくる。」と指摘しています。

今回の調査で改めて浮き彫りとなったのは「年収の壁」を巡る実態です。
現行の制度においては、年収が一定水準を超えると社会保険料などが発生して手取りが減るといったことが起こります。
それを避けるために、就業時間を減らして年収を調整している人が増えている訳です。
非正規で働く女性のうち就業調整をしている人は2022年に32.8%と1.1ポイント上がりました。
年齢別にみてみると、40〜44歳が38.9%で最も高くなっていました。
就業調整している女性を所得階級別にみると、50万〜99万円が49.5%、100万〜149万円が38.1%。50万円未満も含めると9割超に上ります。
政府は人手不足対策で、働く時間を延ばして「年収の壁」を超えても手取りが減らないよう企業に助成金を配る検討をしていますが、制度がそのままでは一時しのぎの案にすぎないと言えます。
これからは、もっと長く働きたい人が働きやすい環境づくりが不可欠です。
女性の就業による労働力の確保にも天井感が出ており、非正規を含めた就業時間の延長が重要になってきます。
日本は米欧と比べて、週30時間未満の短時間労働者の割合が高くなっています。
2019〜2020年について、労働政策研究・研修機構が調べたところによれば日本は25.8%でした。英国の22.4%やドイツの22.0%、韓国の15.4%などを上回っています。

前述した女性の就業の「M字カーブ」とは何かの説明をしておきます。
日本の女性の有業率を年齢層別にみてそれをグラフにすると、20代後半から30代にかけて有業率が下がってくぼむことで、「M」の形にみえることから名付けられました。
20代後半に有業率が高まり、結婚や出産などを理由に30代で低下し、子育てが落ち着いた時期に再び上昇する傾向にあったためです。
人手不足を背景とした共働き世帯の増加など、女性の職への定着が進んだことでM字カーブは改善傾向にあります。
近年は欧州各国のようなくぼみのない「台形」に近づきつつあります。

それではここからは、識者の視点や意見などをご紹介しましょう。

ある識者はこうおっしゃっています。
良い傾向かのように思うかもしれませんが、実態としては共働きのうちフルタイム共働きはほぼ増えておらず、女性は非正規雇用が多く短時間労働者の割合も高いという結果が出ており、男女格差は依然大きいと言えます。
結局子どもが体調不良になったときには女性が休まざるをえなかったりなど、育児負担が偏ることでキャリアやチャンスを得づらい構造です。
男性型長時間労働社会のままではなく、女性の有業率があがり男女が平等に働いたとしても家庭と仕事が両立できるような社会・企業の制度、社会の風潮を作らなければ、日本の少子化を促進するだけでしょうといった意見があります。

また、別の視点として次のようにおっしゃる識者の方もおられます。
女性の就業問題についてはすでに「M字カーブ」から「L字カーブ」に移りつつあります。
つまり非正規で働く女性が多いという問題で、今回の発表でも半分以上が非正規労働者です。
働く人の数を増やすだけでなく安心して働ける環境、キャリアを築ける環境づくりが欠かせません。
不安定な雇用環境では少子化はもちろん、望まぬ非婚も増えていきそうに思えます。

また、別の見方をしておられる識者もおられます。
「年収の壁」は女性の意欲を阻む「障壁」と見られがちですが、その中にいるかぎり税や社会保障で優遇されるという「防壁」の面があります。
これと引き換えに女性は、家事や育児を全面的に担い、男性の長時間労働を支えることが求められました。
女性が働く=子どもの非行、家庭崩壊、と批判された時代もあります。
さすがに今は、そんなことはないでしょうが、男女がともに仕事も育児も担えるよう、働き方も社会も変わるときが来ているのではないでしょうか。

女性の有業率向上が労働力不足解消の手段のひとつである以上、これからは更に法制度や社会の認識の変化が求められる時代と言えます。
女性が家事や育児を全面的に担い、男性の長時間労働を支える過去のシステムは、その当時としては明確な役割分担として一定機能していました。
しかし現代社会においてはそのシステムでは通用しないことは皆さんもお分かりになっていることと思います。
将来の日本を確固たる持続可能な社会とするために、意識改革が津々浦々まで浸透するような今後の取り組みに期待したいところです。