アテンションエコノミーを正しく理解しよう!

さて、今回はアテンションエコノミーという話題です。

アテンションエコノミーとは、アメリカの社会学者マイケル・ゴールドハーバーによって提唱されたインターネットが発達するなどした情報過多の高度情報化社会においては、情報の優劣よりも「人々の関心・注目」という希少性こそが経済的価値を持つようになり、それ自体が重要視・目的化・資源化・交換財化されるようになるという実態を指摘した概念のことをいいます。
日本語では「関心経済」や「注意経済」と呼ばれることもあります。

アテンションエコノミーの背景には、インターネットの普及が情報量の爆発的な増加をもたらし、ありとあらゆる企業、とりわけGAFAのような巨大なIT企業にとって、人々の注意や注目を集めることが重要視されるようになったという流れがあります。
今日では、FaceBookやX(旧Twitter)、InstagramといったSNSやYoutubeなどの多くのオンラインサービスが基本的には無料で提供され、私たちはそれらを金銭的対価を払うことなしに使用することができます。
しかし、それらを運営するIT企業の収入の大部分は広告収入であり、この数字は私たちがそのサービスをどのくらい長く使うかによって左右されることになるのです。
そのため、そういったSNSサービスプラットフォーマーの多くは、私たちの注意を売上げを生み出す貴重な「資源」と捉え、彼らが提供するオンラインサービスを少しでも長く使ってもらうために人々の注意を惹くような設計を行って、ビジネスモデルを最適化させてきました。
例えば、Facebookが表示するニュースや、Instagramにおいてはユーザーの視聴履歴や閲覧時間が追跡され、閲覧するユーザーに合わせた広告やコンテンツが表示されるよう工夫されています。
こういった仕組みが、アテンションエコノミーを生み出しているといえるのです。
近年ではすでに多くの人が広告を見慣れてきたため、徐々にそれらをスルーするようになってきました。
これにより、企業はよりユーザーの興味を惹くことができる自動再生の動画やポップアップ広告などを増加させることで、さらにアテンションエコノミーが加速しているという指摘もあります。
企業やクリエイターにとっては、アテンションエコノミーのなかで、いかにユーザーの注意を惹き、コンテンツを見てもらったり、広告をクリックしてもらったりすることが死活問題となっているかもしれません。
しかし、アテンションエコノミーが人々や社会全体に及ぼしている弊害は大きく、近年関心が高まってきている状況だといえます。
そのひとつが、特に若い世代のSNSへの依存症やそれによるメンタル不調の問題です。
SNSの背後にあるテクノロジーは、私たちの注意を引き続けるために、スロットマシンのような中毒性を持つように設計されており、利用者がスマートフォンを間断なくチェックするように依存させているとはっきり述べている関係者もいます。
また、2021年10月には、Meta(元FaceBook)の元社員が、FaceBookのアルゴリズムそのものが怒りを促すコンテンツを選ぶ仕様になっていることを告発しました。
「いいね!」や「シェア」などのエンゲージメント(思い入れ)が高まるとFaceBookの広告売上は増加する仕組みになっており、人は怒りに駆られる
ときにエンゲージメントが最大になるとわかっていたからだということが理由だそうです。
これによりフェイクニュースが出回り、大きな社会問題をも引き起こすことがあると言えます。
また、情報過多は注意の貧困を招き、ポップアップ広告やSNSの通知などに絶えず「注意」を惹かれることで、深い集中を必要とする仕事ができなくなる危険性についても警告しています。
実際、仕事中にも絶えずSNSやメールなどの通知が送られてくると、つい内容を確認したくなり、集中を妨げられていると感じている人は多いのではないでしょうか。

アテンションエコノミーについては、「情報の質的な優秀さ・正確性・倫理性」と、「人々の関心・注目」が合致する場合もあれば、相反する場合もあるといえます。
特に後者の場合には、
①炎上マーケティング
炎上(インターネット上のコメント欄などにおいて、稚拙な批判や誹謗中傷などを含む投稿が集中すること)を意図的に引き起こし、世間に注目させることで売り上げや知名度を伸ばすというマーケティング手法
②虚偽報道(フェイクニュース)
マスメディアやソーシャルメディアなどの媒体において事実と異なる情報を報道すること、またはそのような報道そのものを指します
③扇情主義
故意に聴衆・大衆の感情を煽り、掻き立てるようなやり方で、注目・関心を浴びたり、思い通りの方向に動かそうとする策略のこと
以上のことが昨今問題となっています。

インターネットの普及やテクノロジーの進歩により、私たちは多くの便利なサービスを使用することができるようになりました。
一方で、私たちはそれに対して「注意を支払って」おり、上記のような社会課題が生み出されていることも認識すべきです。
個人としては、SNSやテクノロジーとの付き合い方を考え直したり、デジタルデトックス(SNSやスマートフォン・コンピューターといったデジタル機器の使用を自発的に控えていくこと)の機会を設けたりするなどの対策を取ってみると良いでしょう。
また、プラットフォーム企業が今後、人々がより健全にSNSなどのサービスを享受できるように仕組みの改善を行っていくのかにも、注目していきたいところです。

アテンションエコノミーの考えに基づき、SNSを上手に使うことで生活の利便性が高まり、個々のQOL向上に寄与すると考えられます。
ただ、リテラシー向上をなおざりにしてしまうと、デメリットに遭遇してしまうことになりかねませんので、その点に注意を払いながらQOL向上を目指しましょう!(ま)