「快適なお出かけ」前編

さて、今回の話題は「快適なお出かけ」ができるようにと題してお届けしたいと思います。
人々が快適に過ごすことができるように、まちは日々進化し続けていますが、その進化はとても自然で、ともすれば人々がほとんど意識していないうちに暮らしの質が高まっていることもあります。
では、さまざまな技術やサービスを取り込み、いかに生活者のQOL(暮らしの質)を高めていくのかを3回シリーズで探っていきたいと思います。

まちには、生活に必要な施設や刺激を受ける場所が点在し、そこに多くの人々が行き交うことでにぎわいが生まれ、さまざまな交流が広がります。
ただ、そうしたまちの姿の前提にあるのは、「人々が安全で自由に移動できる」環境が整っていることです。
しかし、実際には、高齢者にとってまちへの移動手段が十分に整っていなかったり、外出に対する心理的なハードルが高かったりして、「安全で自由に移動できる」状況になっていないケースも見られます。

高齢者による重大事故の多発による運転免許の自主返納が推奨されている今、地方の過疎地などにおいては「高齢者の移動手段の確保」、あるいは「移動支援」は喫緊の課題になっています。
これからのまちづくりでも、人の移動をより効率よく、安全なかたちで実現する「Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)」、いわゆるMaaSの推進がテーマの一つになっています。
そこでは、高齢者の移動が重要なポイントになるでしょう。また、都市における移動という点では、観光地の交通課題の解決も大きな
テーマになっています。
鉄道駅から観光地をつなぐ交通手段が不足している不便さや、効率よく周遊観光ができる新たな移動サービスの取り組みが各地で進められています。

それでは、具体例をご紹介していくことにしましょう。
いわゆる交通弱者と呼ばれる方の外出のハードルを少しでも下げるために、「外出が苦にならない」サービスが出てきました。
また、こういったサービスはコロナ禍で高齢者の引きこもりが増加したことへの対策にもつながると言えます。

まず高齢者の移動手段についてですが、アイシンというトヨタグループの自動車部品メーカーが、「チョイソコ」という乗り合い送迎バスサービスを手掛けています。
これは事前に予約した複数の利用者がひとつの車両に乗り合わせて目的地まで移動するオンデマンド交通のサービスで、全国の自治体向けに展開しています。
公共交通手段が十分に整っていない地域では、住民の移動手段として自治体がコミュニティバスを運行させるケースがあります。
ただ、利用者の負担を考えて、運賃を100~200円などと低く設定するため、運営を税金で支えることになります。
行政に財政負担を強いることになり、どうしても持続可能性に不安が残ります。
また、コミュニティバスは地元の交通事業者と競合して、その需要を減らすことにもつながりますが、「チョイソコ」は地元の交通事業者が主体となって車両を運行します。
その際、「エリアスポンサー」を募って採算性を向上させていることが大きな特徴です。

「エリアスポンサー」というのは地域住民が利用する病院や店舗といった施設の事業者が、「チョイソコ」のスポンサーになるというものです。
スポンサーは自社施設や自社の経営する店舗などの近くに停留所を設置し、利用者のニーズに合わせた交通手段を提供すると同時に、交通事業者はスポンサー収入で運営費の一部を確保します。
さらにスポンサーにとっては、利用者を呼び込むマーケティングの手段にもなるといったビジネスモデルのひとつなんです。
利用者にとっては、外出する目的となる施設の近くで乗り降りできれば、移動もこれまで以上に楽で便利になりますね。
これまで家族に運転を頼んで外出をしていた高齢者にとっては外出のハードルが下がり、外出の機会が増えれば健康増進にもつながるでしょう。
オンデマンド交通のサービスでは事業採算性が課題になりますが、この「エリアスポンサー」という手法は期待できそうですね。
さらに地域内で消費することで、地域内の経済にも一定の効果をもたらすでしょう。
「チョイソコ」は移動手段の提供をビジネスモデルにしているだけではなく、そのシステムを活用した付加サービスも開発しています。
例えば、車両にセンサーとカメラを搭載することで道路の破損などの路面情報や道路標識の劣化、二酸化炭素濃度の検出なども行っています。
こうしたデータを蓄積することで、新たなソリューションの創出も考えているようです。
すでに「チョイソコ」は全国各地の20を超える自治体で導入されており、注目されています。

「チョイソコ」はオンデマンド交通の最大の弱点であった事業継続性をうまく支えながら、高齢者の購買力向上へつなげたり、外出による高齢者の心身に渡る健康維持・増進にも期待ができることから、健康寿命の延伸を図り医療費の節減といった財政負担軽減も視野に入れることが出来るのではないでしょうか。
今後全国各地の自治体への導入の拡がりに期待しましょう。