戒壇めぐり

こんにちは。 ウクレレ講演家・盲目のセラピスト亀ちゃんです。
今回は「戒壇めぐり」のお話です。
私の目が徐々に見えなくなる段階で、6年の間カウンセリングを学びました。
その勉強の中で2泊3日の合宿研修が奈良県の信貴山でありました。
信貴山の朝護孫子寺(ちょうごそんしじ)には「戒壇めぐり」と呼ばれる暗闇の回廊があります。
その時、友人に教えてもらった話では「真っ暗な回廊はお母さんの産道で、そこを通り抜け生まれ変わるんだよ」と聞き、面白半分でその暗闇を体験しようと仲間達と地下に作られた暗闇の回廊に進みました。
そこは正に「一寸先も見えない」という、これまでに体験をしたことのない暗さでした。
私は急に足がすくみ、動けなくなりました。
その頃は私の目が徐々に見えなくなっていく段階で、「見えない世界はどんなだろう?」と、シミュレーションで家の中で目を閉じて階段を上がったり、風呂に入ったり、外でも農道を歩くなど、色々試していました。

でも、今回の暗闇は違いました。
これまでは、いざとなれば目を開ければ何とかなるという心に余裕があったのですが、そこでは、いくら見ようとしても何も見えません。
「見えない世界はこうなんだ…」の現実を突きつけられ、恐怖で動けなくなり、同時に涙が止まらなくなりました。
合宿の夜も、それを考えていたら眠れなくなり、早朝5時に合宿所を出て、前日に行った戒壇めぐりの回廊に向かいました。
そして、もう一度挑戦したのですが途中でまた涙が溢れてきました。
それならもう一度と、中に入りましたが、やはり涙が止まりません。
「何度でも挑戦して、慣れるまでやり続けよう」とまた入るのですが、やっぱり同じ結果です。
何度目かで外の回廊に出た時、ちょうど朝日が登った時で眩しい光が私の顔に当たりました。
まるで天が、御釈迦様が、私を温かく包みこんでくれるように心の中にまで光を届けてくれました。
「あぁ、守られている…」と、先ほどとは違った熱い優しい涙がほほをつたいました。

昔、カウンセリングの勉強の中で学んだ「悲しい出来事、心配や辛い気持ちは、捨て去ることは難しいが、心の外に置くことはできる」の話を思い出し、私は「この見えなくなる恐怖は、このお寺の縁側の回廊の柵の手すりに置いて行こう。いつでも取りに来た
ければ来れる、ここに置いて山を降りよう」とその時、決意しました。

それから15年の歳月が流れ、もう一度その「戒壇めぐり」の場所に帰ってきました。
今度は暗闇の中、一緒に行ったガイドヘルパーさんの足がすくみ、「大丈夫、大丈夫」と笑いながら手を引く自分がおかしくなりました。
外に出て、あの時の回廊の柵の手すりの場所に立ちました。
「あの時は怖くて怖くて、涙が止まりませんでした。
今回は、この場所も状況もまったく変わっていないのに、私の心が変って笑っていることを考えていたら、ふと一筋の涙がこぼれました。
その涙は乗り越えさせてもらったという「感謝」の涙でした。

あの時はどうやっても消し去ることができない恐怖の心を、ここに置かせてもらいました。
あの時は自分のことで精一杯だったから、今度は「周りの人のために心を遣わせてもらいます」の決意を、その場所に置いて山を下りました。

そして去年の10月。
3回目は沢山の仲間と一緒に参拝しました。
昔の話を皆さんに聞いてもらい、それぞれがその場所に「今の誓い」を置いて山を下りることにしました。
また何年か後に、あの仲間と「心のふるさと」のあの場所に帰るのが楽しみです。
こうして何度も生まれ変わっているので、ワタシ全然歳を取りません。 にこっ! 幸せの入り口屋 亀ちゃん