孤独死を防ごう!

さて、今回の話題は大きな社会問題となっている高齢者の孤独死について考えてみましょう。

新型コロナウイルス感染症の流行を経て、顕著になった社会全体の課題があります。
その1つが「孤独・孤立」です。
孤立しやすい人は、男性や高齢者に多いことが挙げられます。
一方、孤独を感じやすいのは女性や若者といわれています。
孤独は、寂しいというような主観的な「感情」のことです。
 一方、孤立は、客観的に見て他者とのつながりが少ない「状態」を指します。
孤独を感じている人は孤立していることが多く、孤立している人は孤独を抱えやすいという特徴があります。

現在、顕在化・深刻化している孤独・孤立の問題に対応するため、政府は令和3年2月より、孤独・孤立対策担当大臣が司令塔となり、 政府一体となって孤独・孤立対策を推進してきています。
施策の推進に当たり、孤独・孤立の実態を的確に把握するため、令和3年12月に政府初となる孤独・孤立の実態把握に関する全国調査を実施し、今回は3回目の調査となります。

この調査において、政府は先月の5月13日、今年1~3月に自宅で亡くなった一人暮らしの人が全国で計2万1716人(暫定値)確認され、そのうち65歳以上の高齢者が約1万7千人で8割近くを占める現状を明らかにしました。
そして驚くべきことに、年間の死者数はなんと約6万8千人と推計されるという数字が出ています。
今年1~3月、警察への通報や医師からの届け出で警察が取り扱った一人暮らしの遺体(自殺も含む)のうち、65歳以上の高齢者は1万7034人でした。
年齢が上がるほど死者数は増え、85歳以上は4922人となっています。
今回の3カ月分のデータを単純に年間ベースに置き換えると、65歳以上の死者数は驚愕の約6万8千人と推計されることになります。

こういった状況の中、頼れる身寄りのいない高齢者が直面する課題を解決しようと、政府が新制度の検討を始めました。
今年度、行政手続きの代行など生前のことから、葬儀や納骨といった死後の対応まで、継続的に支援する取り組みを一部の市町村で試行しています。
今後は経費や課題を検証し、全国的な制度化をめざすということです。
高齢化や単身化などを背景に、病院や施設に入る際の保証人や手続き、葬儀や遺品整理など、家族や親族が担ってきた役割を果たす人がいない高齢者が増え、誰が担うかが課題になっています。
多くは公的支援でカバーされておらず、提供する民間事業者は増えていますが、契約に100万円単位の預かり金が必要なことも多く、消費者トラブルも増えています。
本人の死後、契約通りにサービスが提供されたかを誰かが確認する仕組みも出来ていません。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、65歳以上の一人暮らし世帯は、2020年の738万から30年には887万に、そして50年には1084万へと増えると考えられています。
今後、頼れる人がいない高齢者はさらに増えるとみられ、厚生労働省は公的支援の仕組みが必要と判断した訳です。

以上のように高齢者の孤独死の現状は、総数もさることながら、日本の家族のあり方などに起因する社会的な部分が大きく影響していることが見て取れるのではないでしょうか。

内閣府によれば、孤独死とは 「誰にも看取られることなく亡くなった後に発見される死」 と定義しています。
なぜ高齢者の孤独死は増え続けるのでしょうか。
大きな要因のひとつが、高齢者の社会的孤立の進行です。
独居や高齢、病気、経済的困窮に加え「社会・地域からの孤立」によって、多くの人が孤独な死を迎えているというわけです。

では実際、高齢者はどれほど社会・地域から孤立しているのでしょうか。
内閣府の「令和5年度 高齢社会対策総合調査」によると、60歳以上の高齢者の外出頻度は、年齢とともに減少する傾向にあります。
具体的にみると、60~64歳では「ほとんど毎日外出する」割合が85.0%と高い水準にありますが、年齢が上がるにつれてその割合は低下し、75歳以上になると60.4%まで下がってしまいます。
一方、「週に1回程度」「ほとんど外出しない」と回答した人の割合は、年齢とともに増加傾向にあります。
60~64歳ではそれぞれ2.8%、0.9%と低いですが、75歳以上になると7.4%、6.7%と跳ね上がります。
特に「ほとんど外出しない」と回答した人の割合は、70~74歳の2.7%から75歳以上では一気に6.7%と2.5倍以上に増えています。
また、「週に2~3回程度」の外出頻度も、60~64歳の10.0%から75歳以上では23.3%と2倍以上に増加しており、全体的に年齢と共に外出頻度が低下していく傾向が見て取れます。

この外出頻度の低下は、加齢にともなう身体機能の衰えだけでなく、「移動の困難さ」が大きく影響していると考えられます。
同調査では、外出時の“交通手段”についても尋ねています。
それによれば、75歳以上の高齢者のバスや電車などの公共交通機関の利用割合は23.3%で、60~64歳の40.3%と比べて大幅に低くなっています。
一方、徒歩の割合は75歳以上で47.6%と、60~64歳の30.3%よりも高くなっています。
これは、バスや鉄道の本数が少なく、運賃も高いといった公共交通の利便性の低さが、高齢者の外出を阻む一因となっていることを示唆しています。
特に、地方都市や過疎地域では公共交通ネットワークの縮小が進み、自家用車を持たない方や加齢で運転ができなくなった高齢者にとって、外出そのものが困難な状況が生まれているのです。
交通利便性の低さは、高齢者の社会参加の機会を奪い、人との交流を途絶えさせる大きな要因となっています。

「年齢や身体能力に関わらず利用しやすい公共交通サービス」の提供を行うことは、単なる移動手段の確保にとどまらず、高齢者の社会とのつながりを維持する上で重要な役割を果たすからだといえます。
そこで参考にすべきは、各地で実施されている地域が一体となって公共交通のアクセシビリティ向上に取り組む動きです。
具体的事例では、富山市の「お出かけ定期券」など高齢者の外出を支援するため、路面電車・バスが定額で乗り放題になるサービスが挙げられます。
こういった高齢者が自動車にかわって公共交通を利用できる環境づくりを進めることが、高齢者の社会参加を支え、孤独死防止につながるのだといえるのではないでしょうか。

こうした考えもあり、全国各地でコミュニティバス ・デマンド交通の整備も促進されています。
様々な交通手段を整備することで、高齢者の外出のハードルを下げ、社会参加を支援し促すことで、孤独死のリスクを着実に減らしていくことが期待できるといえます。
正しくモビリティの充実は、高齢者の社会参加を促し、孤立を防ぐためのインフラ整備です。
しかし、これらは高齢者だけを対象とした福祉としてのみ存在するわけではありません。
様々なテクノロジーを導入して問題を解決することは、様々な分野での技術発展の契機ともなるはずです。
だからこそ今後も「高齢者への投資」を止めずに、どんどん推進していく方向でありたいものです。
そうなれば皆さんのQOLが向上して、well-beingが叶えられる道が見えてくることになります!
健康寿命を延ばして、社会的に孤立化することなく、家族や地域社会と手を取り合って充実の人生を目指しましょう!(ま)