認知症のことが初めてわかった

さて、今回の話題は「認知症」についてのお話しです。

認知症は、脳の病気や障害など様々な原因によって認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。

2020年の65歳以上の高齢者の認知症有病率は16.7%、約602万人という推計データがありますが、2025年には約730万人、5人に1人が認知症になると予測されています。
認知症には、その原因となる疾患によりいくつかに分類され、半分以上を占める「アルツハイマー型認知症」、そして、「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」などがありますが、高齢化や長寿化が進めば、認知症は誰でもなりうるものです。

とはいえ、「もしも、親や身近な人、あるいは自分自身が認知症になってしまったらどうしよう」、そのような不安を多くの方が抱いているのではないでしょうか。

厚生労働省のHPでは、令和元年に「認知症施策推進大綱」がとりまとめられ、認知症になっても住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる「共生」を目指し、「認知症バリアフリー」の取組を進めていくとともに、「共生」の基盤の下、通いの場の拡大など「予防」の取組を政府一丸となって進めていきます、と記されています。

※「共生」とは、認知症の人が尊厳と希望を持って認知症とともに生きる、また認知症があってもなくても同じ社会でともに生きる、という意味です。
※「予防」とは、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味です。

先日私は、長谷川和夫さんの著書で「ボクはやっと認知症のことがわかった」(発行KADOKAWA )を読みました。
長谷川さんは、日本中で広く使われている「長谷川式簡易知能評価スケール」を開発された精神科医ですが、ある講演会で自ら「じつは認知症なんです」とカミングアウトされました。
これまで何百人、何千人もの認知症の患者さんを診てきた専門医であるご本人が、認知症になって何を思い、どう感じているか、当事者となってわかったことをお伝えしたいと思って執筆されたそうです。

認知症になっても “ありのまま“ の生活を送られる中で、長谷川さんが感じられたこと、認知症の人と接する(ケアする)時の考え方として大切なことが紹介されています。

この本で、とくに私が気にとめた言葉、認知症の人と接するときの心構え、感動した内容(コラム)を二つ紹介させていただきます。
まず一つは、長谷川さんの言葉で、「認知症になったからといって突然、人が変わるわけではない。自分が住んでいる世界は昔もいまも連続しているし、昨日まで生きてきた続きの自分がそこにいます。」という言葉です。

もう一つは、イギリスの心理学者で牧師でもあった、トム・キットウッドという人が書いた「DEMENTIA RECONSIDERED」(1997年刊)という本の内容です。
「認知症のパーソンセンタードケア」(クリエイツかもがわ)という書名で、邦訳も出ているらしいのですが、「パーソン・センタード・ケア」の重要性が述べられています。
長谷川さんは「一人ひとりが違う」「一人ひとりが尊い」「その人中心のケアを行なう」・・・「言葉でいうのは簡単ですが、実行するのはなかなか難しい。
ぜひ、認知症の人と接するときに、この言葉を忘れずにいていただけたらと思います」と、一人の「人」として尊重し、その人の立場に立って考えることの大切さを記されています。
そして、この「パーソン・センタード・ケア」について、分かりやすく伝えるために、長谷川さんが聖マリアンナ医大に勤めておられたときに、同僚だった方が書かれた、あるコラムがこの本で紹介されています。

「にっこり笑った女の子」のお話しです。
公園を歩いていた小さな子が転んで泣き出しました。すると、四歳くらいの女の子が駆け寄ってきました。小さな子を助け起こすのかと思って見ていたら、女の子は、小さな子の傍らに自分も腹ばいになって横たわり、にっこりと、その小さな子に笑いかけたのです。泣いていた小さな子も、つられてにっこりとしました。しばらくして、女の子が「起きようね」というと、小さな子は「うん」といって起き上がり、二人は手をつないで歩いていきましたー。

長谷川さんは、この女の子が見せてくれたこのケアが「パーソン・センタード・ケア」の原点を表している、こうしたケアが日本中に広まったらいいな、と思われたとのことです。

このコラムを読んで本当に素敵な話しだな、と思い感動しました。
実はわたしの母親も認知症を患い、亡くなるまで10年近くを過ごしましたが、そうありたいと思いながらも、実行するのは本当に難しいとも感じました。

「認知症の本質は、暮らしの障害なんだよ」という長谷川さんの言葉にもあるように「暮らしの障害」であるのなら、まさしくQOL(生活の質)にも直結することです。
「共生」を目指す上で、これらの社会課題を解決するためには、一緒に暮らす家族だけではなく、周囲の人間や社会の寛容さ、地域ケアの実現が求められます。

認知症はいまや日本だけではなく、世界が注目する課題となっています。発症や進行のメカニズムもまだ解明途上ですし、治療薬もこれからの状況です。
その他にも認知症に関連する課題は、医療・介護などのヘルスケア人材の確保、持続可能な社会保障制度、認知判断能力の低下にともなう個人金融資産の凍結問題、、消費者被害への対応など、多岐にわたります。

当法人の会員としても、「認知症になっても大丈夫」という安心の社会を実現するため、今回学んだ「パーソン・センタード・ケア」の考え方を実践できるよう、そして、認知機能の低下を少しでも遅らせるため、個人としても「予防」と「認知症への備え」を行い、実践して参りたいと思っています。