新語・流行語大賞

さて、今回は「新語・流行語大賞」のノミネートにまつわる話です。

先日ニュースで、「現代用語の基礎知識」が選ぶ「新語・流行語大賞」のノミネートのニュースを拝見しました。
ノミネートは30語で、その年に発生したさまざまな「ことば」の中で、軽妙に世相を衝いた表現とニュアンスをもって、広く大衆の目・口・耳をにぎわせた新語・流行語を選出するものです。
1984年に始まって以来、その年の「現代用語の基礎知識」に収録された用語をベースにノミネート語を選出し、選考委員会による選考を経て12月1日に年間大賞とトップテンが発表され表彰される予定となっています。

さて、皆さんはノミネートされた30語のうち、いくつご存じでしょうか。
それではノミネートされたものをざっくりとですが、カテゴリー別にご紹介するとしましょう。

2022年のノミネート語の中で存在感を放ったのが、野球に関連する言葉。
なんと6つもノミネートされており、注目度の高さが伺えます。
大リーグのロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手に関する「大谷ルール」のほか、プロ野球で最年少三冠王となった東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手の活躍を讃える「村神様」、史上最年少で完全試合を達成した千葉ロッテマリーンズ佐々木朗希選手を表す「令和の怪物」、そして日本野球界での数々の話題を集めた北海道日本ハムファイターズ新庄剛志監督の「BIGBOSS」、また、中毒性が話題となった同球団の応援ダンス「きつねダンス」と、日本野球界の盛り上がりが反映されました。
更に、東北勢として初の夏の甲子園で優勝を成し遂げた宮城県・仙台育英高校の須江航監督が優勝のインタビューで発した「青春って、すごく密なので」も多くの共感を呼びノミネートされました。

コロナ関連の言葉としては、前年の7語から減少し「オミクロン株」と「顔パンツ」の2語のみとなりました。

社会情勢などに関するものとしては、世界的に大きな衝撃を与えたロシアのウクライナ侵攻を契機に、以前は「キエフ」と日本語表記していたウクライナの首都の呼び方が「キーウ」へと変更されたことを受けてノミネートされました。
また、凶弾に倒れた安倍晋三元首相の「国葬義」や、2023年4月に設置予定の「こども家庭庁」、岸田政権発足以来ことあるごとに用いられた「丁寧な説明」、賃金が上がらない中での急激な物価上昇を指す「悪い円安」、旧統一教会にまつわる一連のニュースで関心を集めた「宗教2世」等、政治関連の言葉も取り上げられました。

流行や世相を反映した言葉の中では、利用者の拡大によって浸透し始めた「オーディオブック」や、2022年4月にアニメ化されて人気となった「SPY×FAMILY」、ホテル等でアフタヌーンティーを楽しむ活動を表した「ヌン活」のほか、「ヤクルト1000」や「メタバース」等が選ばれました。

今年の傾向について選考委員会は、「新型コロナウイルスは終息がみえず、ロシアによるウクライナ侵攻、急激な円安、生活に関わるあらゆるものの価格の高騰など、この1年は暗い世相であったと評価しています。
そのため、言葉の力が感じられず、他者との関わりが希薄になってしまったとの考えを述べています。
活気がある世の中では、明るく元気の出る言葉も生まれてきます。
故に、来年は是非とも期待したいと分析しています。

私はこれらノミネートされた中でピカイチだと感じたのは、「青春って、すごく密なので」という言葉です。
この言葉に込められた監督の気持ちは、監督自身だけではなく、また優勝した仙台育英の出場選手だけでなく、夏の甲子園に出場した高校球児や酷暑の中懸命に応援をした応援団の皆さん、全ての高校野球に関わる人や全ての青春を楽しんでいる人の気持ちを代弁していると思えるからです。
この須江監督の言葉に触れた方々は、コロナ禍によって青春の醍醐味というか本質である『密』を奪われてしまい、青春の楽しさも喜びも半減してしまう状況へと追いやられてしまったことを顧みしながら、「同じ思いだぞ!」と共鳴して拍手を送ったことでしょうし、「よくぞ言ってくれた!」と溜飲が下がった想いをなさっただろうことは想像に難くありません。

よく「言葉は生き物です」と耳にします。
それ故毎年「新語・流行語大賞」も注目されているのでしょうが、私にとっては須江監督の言葉は新語・流行語大賞のノミネートされた言葉と捉えるのではなく、単純明快に一番心に響いた今年の言葉だと言えるのです。
そしてこれからも、まだ終息の見えないコロナ禍の中で生き続けていく言葉であると思えてなりません。
この言葉から勇気をもらい、この言葉が注目されることで自分の周りにも青春を謳歌したいと願う私を分かってくれる多くの理解者がいることを自覚し、うつむかないで前をしっかりと見据えていこうと思われた方もおいでになると思います。
コミュニケーションの大きな役割を担っている言葉は、コロナ禍の中で人を支え、勇気づけてくれるものです。
これからも「言葉」は私たちのQOL向上に欠くべからざるものとして大切にすると共に、その時代や世相を反映して次々に新しい言葉を生み出しつつ多種多様に変化をしていってほしいと思います。
そして何より言葉の持つ大きな力が多くの人々のこころに響き続けて欲しいと願うばかりです。