働かないオジサン

さて、今回の話題は「働かないオジサン」についてです。

読者の皆さんの中でも、この「働かないオジサン」ということをお聞きになった方もおいでになるのではないかと思います。
今回は、約半数の会社にいると言われている「働かないおじさん」の生きがいを奪ったのは実は職場ではないのかということを検証してみたいと思います。

識学総研に「【“働かないおじさん”に関する調査】約半数の企業に働かないおじさんの存在を確認!?」と題する少々小馬鹿にしたような記事が掲載されました。
全国の従業員数300名以上の企業に勤める20歳~39歳の男女300名を対象とした「働かないオジサン」に関する調査結果です。

調査では49.2%で会社に「働かないおじさん」がいるとの回答がありました。
そして記事には「働かない社員を生まないために、給与査定基準を設けるなど社員のやる気や意欲を引き出す仕組みが必要かもしれません」と書かれています。しかし、はたして給与査定基準は「やる気や意欲」を長期的に引き出すのに得策と言えるのでしょうか。
給与査定という外発的動機づけではなく、社員の内発性に基づいた働き方を構築していく考え方を重視しなければ、しだいに組織力は低下していくことに繋がるのではないでしょうか。
最も重要なのは、起きている現象を正しく把握し、その原因を取り除くことに注力すべきと考えられるからです。

まずは参考として、2017年に実施された役職定年を経験した50代のビジネスパーソン300名を対象にした「ミドル・シニアの躍進実態調査」を見てみましょう。この調査では以下のような現状が見えてきました。
役職定年を迎えると、会議に呼ばれることが少ない(41.0%)
社内の情報が入ってこない(35.7%)
重要な仕事を若手や中堅社員に譲るようになった(26.7%)、
自分にどんな役割が求められているのかがよく分からない(26.7%)
新しいことに挑戦しなくなった(24.7%)。

若手や中堅にとって、この結果は決して他人事ではありません。
このままでは自分たちも、50代になれば同じような経験をすることになってしまいます。
さらに調査では、37.7%が仕事へのやる気や動機が低下し、34.3%が喪失感や寂しさを感じ、32.3%が会社に対する信頼度が低下したと回答しています。
ここで分かることは、年収のダウン幅の大きさと役職定年後のネガティブな意識変化にははっきりとした関連性がなく、実は奪われて困るのは給料ではなく自分の生きがいであり、生きている実感のほうなのだと言えます。

【人の生きがいを奪うな】
役職定年とは、企業内部で部長や課長などの管理職社員が、一定年齢に達したときに役職を外れる人事制度のことですが、その目的や効果として人件費の抑制に加え、組織の新陳代謝を図ることも挙げられます。
生理学において新陳代謝とは、生物が生存に必要な物質を体内に取り入れ、用済みとなった古い物質を体外に出す現象を指しますが、ようするに役職定年は、シニア層を一律に「用済みとなった古い物質」とみなすという、人の多様性を無視した考えに従って行われているのではないでしょうか。

役職定年者に限らず、日本企業ではシニアは不必要な存在とみなされています。
そもそも日本企業では、かねて新卒で採用された若年者は、各自の希望通りの職務を選ぶことができず、会社から任意にあてがわれた仕事に就くしかありませんでした。
企業側は従業員に対して企業への忠誠心を求めるがゆえ、副業も禁止されていました。
よって従業員は、自らの人生の目標を自由に設計できず、与えられた職務に従事するしかなかったわけです。
そこで育まれる能力は、必ずしも長期的に価値をもたらす能力ではありません
が、かつてはそれでよかったのです。
たとえ「用済み」となっても、会社が人生を丸抱えしてくれるという、暗黙の了解があったからです。
我慢して会社に貢献すれば、いずれ役職にも就かせてくれるだろうといった期待感や、たとえ機械的労働環境によって自己を喪失しても生活上の問題は生じなかったのです。

かくして置かれた環境により、適切に能力を育むことができた者と、そうでない者が生まれてきます。
前者は役職を手にし、後者は平社員のままといった状況です。
あるいは後者に対しても、誤った年功序列の考えにより管理職の立場が与えられることも少なくなかったのではないでしょうか。
こうして時代の変化に適応できる有能な役職者と、そうでない役職者に分かれてしまう環境がつくられていくことになります。
そして能力に関係なく、一定の年齢になったとき、一律に役職剥奪が遂行されてしまいます。
有能なシニア人材は、それでもなお若手や中堅に頼りにされることもありますが、かつての働きがいには遠く及ぶことはありません。
能力を磨くことのできなかったシニア人材は、依然として職場で価値を発揮することができず、時を経てますます無用者となっていきます。
結論としては、やる気や意欲を失った「働かないおじさん」たちは、無力感や失望、諦めを生み出す環境が生み出したと断言できると思います。

【シニア人材に武器を与えよ】
過去に述べたように、戦後の日本企業では誤った年功序列の考えによって人事が行われてきました。
すなわち年功とは、長年の熟練によって得られた技能という意味であり、職務上の高い成果を挙げる能力のことを意味します。
ゆえに本来の年功序列は年齢や勤続年数に基づく制度ではなく、仕事の遂行能力に応じた実力主義のことを意味するものなのです。
それは成果主義ではなく、はたまたスキルの意味における能力主義でもありません。
成果は職務と自己の能力とがかみ合うときに最も高められるのであり、ようするに適材適所による人材の最適化と任務の遂行に基づくのが実力主義なのです。

もし新陳代謝を目指すのであれば、事業に適した人材を再配置することで実現することを奨励すべきではないでしょうか。
人は弱みによってではなく、強みによって成果を挙げるものですので、強みをもとに人材を要素とみなし、組織をシステム化することで、総合力によるビジネス遂行が実現されることでしょう。

時代は変化し、既存の仕事ばかりでは必要な能力を育むことができなくなってきています。
したがって、能力のないシニア人材には、新しい時代に適応可能な能力を与えるべく、職業訓練を施す必要があります。
その意味するところは、単に座学の研修を実施するだけではなく、新規プロジェクトへの参与により、実践の中で能力開発することにつながります。
正しくオン・ザ・ジョブ・トレーニングのひとつです。
分からない点が多いなか、互いに手を取り合うことで試行錯誤の姿勢が生まれ、心身を働かせることが習慣化されていきます。

動かすのではなく、自ずと動くよう、働きかけるのです。
他動よりも自動が数倍有意義であることを分かるようにするわけです。
小さな改善でもよいのです。
達成により、自分はまだ会社に必要だと思えるとき、さらに先へと向かいたくなるのが人間です。
人間は、生まれながらにして他者に貢献したいと思う本性をもちます。
長年の経験により忘れられたその本性を解き放つことができれば、自ずと学習のプロセスを歩むようになることは間違いありません。

「働かないおじさん」は、自分が周囲からよく思われていないことを知っています。
ゆえに有能感も得られず、閉塞感のなかで日々を生きているといえます。
そういう事情を鑑みて、給与査定などといって彼らに圧力を与える前に、仕事の遂行を通して生きがいを得るための方法を講じたほうがよいのではないでしょうか。
この「働かないおじさん」の多くは、人生100年時代と言われる中でちょうど折り返し点付近にいます。
QOLジャパンでは、この方々が人生の後半をどう過ごすのか。
もう年金だけで生活できる時代がなくなりつつある中で、残りの人生をどう生きていくのかの指針を見つけるお手伝いが出来ればと考えています。
今までに培ったスキルを埋もれさせないためにどうすればいいかのヒントを掴んでいただければ幸いです。