ヤングケアラーへの取り組み

さて、今回はヤングケアラ-への行政の取り組みについてです。

まずは、自治体で導入されている魅力的で実践的な支援事業をいくつか紹介することにしましょう。

それでは、群馬県高崎市の「ヘルパー無料派遣事業」からです。
高崎市は、2022年度から中学・高校生の負担軽減を目的に、1日2時間、週2回まで無料でヘルパーを派遣する事業を全国ではじめてスタートしました。
2020年度に国が実施したヤングケアラ―実態調査で、中学・高校生に「世話をしているためにやりたいけどできないこと」を尋ねたところ、「自分の時間がとれない」と回答した割合は中学生20.1%、高校生13.0%。「宿題や勉強する時間がとれない」が中学生16.0%、高校生16.6%。「友人と遊ぶことができない」が中学生8.5%、高校生11.4%に上ります。
中高生が勉強やプライベートの時間が取れていない実態が浮き彫りになりました。
ヤングケアラーにとって、本来の学業や友達付き合いの時間が増やせる事業として全国各地に拡がりをみせて欲しいものだと思います。

次は埼玉県の事業を紹介します。
埼玉県は、ケアラーへの新型コロナウイルス対策を開設しました。
ケアラーが、新型コロナウイルスに感染して入院などをする場合、要介護者の生活の場所を確保するため、特別養護老人ホームや障がい者施設を用意しています。
現在、高齢者は5ヵ所に20人、障がい児分は2ヵ所8人が用意されています。
埼玉県の施策は、ケアラーへのコロナ対策として重要な視点だと考えられます。
こうした支援の充実により、ケアラーは後顧の憂い無く病院などに入院できますし、自宅療養で心身の回復が望めます。
そのおかげで、安心して生活を送れることでしょう。
これまでデイサービス・ケアマネージャーなどの介護サービスは要介護者に向けた要素が強く、ケアラーへのケアは不足していただけに、全国初のケアラー条例を制定した埼玉県のような施策が全国に広がっていくことを期待したいものです。

次は兵庫県明石市の独創的な事業を紹介します。
明石市では認知症で在宅生活をしている人や家族に「認知症あんしんプロジェクト」と題した取り組みを展開しています。
「認知症あんしんプロジェクト」の特徴はの次の通りです。
認知症の在宅生活者に2万円の給付金
認知症の在宅生活者とケアラーにあかしオレンジ弁当券20回分
お試しショートステイ券(1回分)1泊2日が無料(食費別)
寄り添い支援サービス券(10回分)話し相手・外出時の付き添い等のサービスが無料
そのほか、生活が困窮しているケアラーへの支援、ひとり親家庭などの自立支援、重度心身障がい者を介護する介護者に年間10万円を支給するなど、ほかの自治体にはない案が多数打ち出されており、今後さらに充実していくことが期待されます。
今後の課題としては、「ケアラーが本当に必要な支援を、いかに早く実行できるか」が重要ではないでしょうか。

また、最近の情報では
栃木県佐野市は、家族の世話や介護、看病をする子どもたち「ヤングケアラー」対策として国の補助金を活用し、栃木県内で初めてコーディネーターを配置しました。
市長は「子どもが子どもらしく生きられるようヤングケアラーとその家族の早期発見と適切な支援を行う」と話しています。

一方、鳥取県では大人に代わって日常的に家族の世話をする子ども「ヤングケアラー」や、中高年世代のひきこもりといった課題を抱える家庭を包括的に支援するため、平井伸治知事は5月10日、「家庭あんしん支え愛条例」(仮称)の制定を目指す意向を示しました。
ヤングケアラーを支援する条例は他県に既にありますが、ひきこもりなど複数の問題も対象にした包括的とも言える条例はなく、制定されれば全国初となります。
年度内制定を目指し、5月中に有識者らによる研究会を設置する運びになっています。

最後に国の動向に触れておきましょう。
大人に代わって日常的に家事や家族の世話をするヤングケアラーに関し、厚生労働省は4月22日に、学校や自治体などが連携支援するためのマニュアルを公表しました。
この中では、主体となる機関や部署を決めコーディネーターを配置することを提言しています。
前述した栃木県佐野市のモデル事業の全国展開です。
また、ケアラーの子どもの早期発見に向け、問題への理解を深めるのも重要だとしています。
厚労省が4月に公表した小学校への調査によると、ヤングケアラーと思われる児童を「外部の支援につないでいない(学校内で対応している)」と答えた学校が42.7%に上りました。
理由の中で「対応の仕方が分からない」などの回答があり、関係機関による連携改善の必要性が指摘されています。
マニュアルは約80ページで、ヤングケアラーを取り巻く状況などに加え、現場での取り組み事例を紹介しています。
マニュアルの中では家族が抱える課題は複雑になっているとして「切れ目のない支援が求められている」と説明しています。
担当者が多いと全体方針がぶれる恐れがあり、素早い情報共有も難しくなることから、支援計画を立てて役割分担を明確にすべきだと強調されています。
今後ますますコーディネーターの担うべき役割が重要となってきます。
子どもに自覚がない例もあり、本人や家族の考えを尊重しながらサポートするのが望ましいとしています。
また、行政だけでなく地域全体で見守ることも求めています。
厚労省担当者は「連携の仕方で迷った際に活用してもらい、困っている子を支えてほしい」としています。
参考までに、マニュアルのPDFを貼っておきます。
https://www.mhlw.go.jp/content/000932685.pdf

QOLジャパンでは、今後も広く「ヤングケアラー」を知っていただく活動を続けて行きます。
そして、現状を周知させていただくことで皆さんの理解を深め、ヤングケアラーへの支援の拡がりをつくりたいと考えています。
未来ある子どもたちのQOL向上を目指して!