ファイナンシャル・ウェルビーイングを目指して

さて、今回の話題は「ファイナンシャル・ウェルビーイング」についてのお話です。

近頃、金融教育の必要性が論じられる場面で、「ファイナンシャル・ウェルビーイング」という言葉をよく見聞きするようになりました。

ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、健やかに安心して暮らしていくため、お金についての不安をなくし、将来のお金に心配のない状態のことをいいます。
資産の多寡だけでなく、一人ひとりの価値観やライフスタイルに応じて、お金に対する幸福感は異なります。
お金が多いほど幸福かというと、必ずしもそうとは限りません。
どう感じるかが重要です。

最近はなにかと身の周りのものが値上がりし、電気代やガス代などの光熱費の請求書を見たり、スーパーなどで定番の嗜好品などを買ったりすると、明らかに物価が上がってきていると感じます。
多くのシニアにとって、年金など限られた収入の中で家計をやりくりしなければならない状況の中、将来のお金や生活費が増すことへの不安を感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

ですから、人生100年時代を迎え、シニアがファイナンシャル・ウェルビーイングの状態をつくり出すことができるようになるには、個人の金融リテラシーを高めることが必要です。
金融リテラシーが身に付いていれば、現状の家計を把握しながら賢い意思決定が行えるようになり、考えなくても良かったお金の不安を解消することができます。

例えば、2019年には「老後2000万円問題」が話題になりました。
これは金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書で、統計上、高齢夫婦無職世帯の家計収支が毎月約5.5万円不足することから、仮に老後を30年生きることになれば、約2000万円の取崩しとなるというところから、将来にわたる備えの必要性を提言されたものでした。

あくまで平均の不足額から導き出したもので、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる、と記載されていたようですので、金融の専門家には、そこまで大きな問題になるとは思いもしなかった反響だったようです。
それだけ、シニアが老後の生活を送る上で、2000万円という金額は大きく、将来に不安を感じさせる、大変インパクトがある報告だったのかもしれません。

それではここで改めて、最新(2021年)の総務省の家計調査における家計収支(月平均額)に基づき、再度試算してみたいと思います。

○65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支は、
 可処分所得(205911円)ー消費支出(224436円)
 ⇒不足分(ー18525円)
○65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の家計収支は、
 可処分所得(123074円)ー消費支出(132476円)
 ⇒不足分(ー9402円)

※65歳以上の無職世帯のため、実収入のほとんどが社会保障給付となります。
実収入ー実支出=可処分所得ー消費支出(上記の収支計算式)
※可処分所得とは、「実収入」から税金、社会保険料などの「非消費支出」を
差し引いた額で、いわゆる手取り収入のことです。
※消費支出とは、いわゆる生活費のことで、日常の生活を営むに当たり必要な
商品やサービスを購入して実際に支払った金額のことです。

いかがですか? 毎月の月平均不足額が調査年度によって随分異なりますね。

2019年の報告書で毎月約5.5万円不足するとされていた月平均不足額が、最新の調査では、毎月約1.8万円の月平均不足額になっています。
ですから例えば今、高齢夫婦無職世帯の最新の家計収支結果をもとに必要となる老後資産を算出しますと、老後30年間では、約700万円の老後資金が必要となる計算です。
この場合ですと、「老後700万円問題」となっていたかもしれません。

このように、もしも金融リテラシーの学び直しをしていない方の場合、今もずっと「老後は2000万円が必要」と思って、不安のまま過ごしておられる方がいるかもしれません。
要は、しっかりと事実を知ることです。
適正な家計管理によって家計の収支(キャッシュフロー)を把握し、健全化を図ることで、全く不足額が生じないように老後を送ることもできるのです。

家計の改善策は、①支出を減らす ②収入を増やす ③お金に働いてもらう 、の3つを行なうと良いと言われます。
高齢世帯がファイナンシャル・ウェルビーイングの状態になるためには、現役時代と違って支出を減らすため、無駄をなくすことも必要でしょうし、無理のない就業環境で引き続き働いて勤労収入を得たり、リスクの少ない資産運用を行なうなど、シニアならではの「資産寿命の延伸」が求められます。

その中でもやはり一番の術は、少しでも長く働き続け、働いて得た収入で老後を愉しむことが、ファイナンシャル・ウェルビーイングの状態になる一番の術ではないかと思います。
総務省統計局の「労働力調査」資料では、高齢者の就業者数は18年連続して増加し、909万人と過去最多を更新しています。
65歳以上の高齢者の人口は前年より6万人増えて3627万人、その中で、高齢人口に占める就業者の割合は25.1%で、65~69歳に限ると、割合は50.3%となり、調査を始めてから初めて5割を超えました。
働き続ける目的はいろいろでしょうが、今も働く高齢者が急増しています。

「ファイナンシャル・ウェルビーイング」な状態、おわかりいただけましたでしょうか?
家計にとって今の状況は、まだまだ厳しい状況ではありますが、皆さまは全てこれまでの年月を重ねてこられた「人生の達人」です。
おそらく、家計がどのような状況であっても与えられた環境の中で、自分らしい「心豊かな人生を愉しむ術」をお持ちの方ばかりだと思います。
「何をもって幸せとするか」「何を大切にしたいか」、人生の「自分軸」は人それぞれです。
一人ひとりのQOLを高めるということは、「何をもって幸せとするか」を自ら考え行動することから始まるのではないでしょうか。