「企業の脱炭素化」の動き

さて、今回の話題は企業の脱炭素化のお話しです。

脱炭素社会とは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの二酸化炭素の排出量「実質ゼロ」を目指す社会のことですが、どうやら先進国の間ではそれを目指す動きが企業の中で顕著になってきているようです。

温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」より10年早い2040年までの排出量実質ゼロをめざす有志の企業連合「クライメート・プレッジ」の賛同企業が300社を超えたというニュースが4月24日の日本経済新聞に掲載されました。
ここ半年あまりで賛同企業は1.5倍に増えましたが、残念なことに日本からはたった2社のみの参加に留まっています。

日本の参加企業が少ないのは、企業本体だけでなく取引先の脱炭素計画が必要とされることでクリアすべきハードルが高いためです。
ただ、環境・社会・企業統治(ESG)投融資の獲得競争が激化する中、日本企業も当然ながら対応を迫られています。

これまで29カ国51業界の先進企業が参加し、総売上規模では3.5兆ドル(約450兆円)となり、この半年で倍増しました。
ではここで、主な参加企業のご紹介をしましょう。

     企業(国)              業種
アマゾン・ドット・コム(米)       ネット通販
P&G(米)                日用品
ハーマン(米)              音響機器
ウェアーハウザー(米)          林業
マイクロソフト(米)           IT
ユニリーバ(英)             日用品
マークス(デンマーク)         海運
メルセデス・ベンツグループ(独)     自動車
SAP(独)                 IT

これらの企業の中では運輸関連企業が全体の13%を占めるところに注目が集まっています。
具体的施策としては、海運業種のデンマークのマークスは、荷物を運ぶ際の排出量実質ゼロの海運サービスを手掛けていて、2023年には世界初のカーボンニュートラル定期船の運航を見込んでいます。
また、2021年4月に参加したアラスカ航空は、排出削減量に応じた賞与増額制度を取り入れ、再生航空燃料(SAF)導入を進めています。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、運輸部門は二酸化炭素の総排出量の2割超を占めていることから、海運・航空大手の参加は脱炭素の弾みとなると大きな期待を寄せています。

一方、日本に目を向けてみると、参加企業は産業廃棄物処理を手掛ける石坂産業(埼玉県)と素材開発スタートアップのTBM(東京都)の2社のみとなっています。

エーザイや三菱重工業など2040年に排出量ゼロを掲げる国内企業はありますが、その多くは脱炭素の範囲が自社の直接排出と電力消費に留まっていることから、取引先の脱炭素化までを含んだ計画策定のハードルが高くて中々超えられないのが現状と言えます。
また、日本を拠点とする企業では、消費電力の脱炭素化もおぼつかない状況です。
その主たる原因は、再生エネルギーによる日本の電源供給比率が2割程度に留まるなど条件が他国に比べて不利だと言うことです。

以上のような状況にはありますが、脱炭素化は待ったなしの状況であるが故にパリ協定より10年早く排出量実質ゼロの取り組みが始まったことを考えれば、2020年時点で世界の投資マネーの4割弱にのぼるESG投資で、投資家の選別により資金調達に支障をきたしてしまえば国際競争力を失う可能性があることから、日本企業のみならず政府においても政策的なバックアップを行うなど、世界の脱炭素化の潮流に乗り遅れないよう努力が欠かせないと言えるでしょう。

今後私たちの経済活動において、こういった企業のみならず国や自治体などの行政機関、そして何より私たち個人ひとり一人が脱炭素社会の実現へ向けての努力を積み重ねて、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出に歯止めが掛かれば、持続可能な社会の実現に近づき、子や孫たちに負の遺産を遺すことなく良い地球環境を引き継ぐことができることでしょう。