QOLを高める「対話と会話」とは

さて、今回の話題は「QOLを高める対話と会話(おしゃべり)」についてのお話です。

「対話」と「会話」って、似ているようで、ちょっと違いますよね。
『広辞苑』第7版では「対話(たいわ)」を「向かい合って話すこと。 相対して話すこと。 二人の人がことばを交わすこと。会話。対談。」と説明されています。
また、「会話(かいわ)」については、二人あるいは少人数で、向かい合って話すこと。また、その話。とあります。

ここ数年、「対話」という言葉がしばしば話題になり、クローズアップされている気がします。
対話と会話はどちらも “ことば” のやり取りを意味しますが、目的や深さが異なります。「対話」はその目的が、相互理解を深めたり、共通の課題を解決したりするなど、より意識的なコミュニケーションを指します。
ですから、議論、交渉、問題解決のための話し合い、カウンセリングなど、特定のテーマについて深く話し合うことが多く、相手の考えや価値観を理解しようと努めることによってその目的を達成しようとするものです。

一方で、「会話(おしゃべり)」はその目的が、雑談、情報交換、親睦など、日常的なコミュニケーション全般を指します。ですから、普段の何気ない世間話や天気の話、今日の出来事など、比較的気軽に表面的なやり取りが多く、深い思考や感情の共有は必ずしも必要ではありません。

今回、このテーマを選んだのは、実は、いま大阪で開催されている大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのちのあかし」の “対話者” として応募したことがきっかけでした。
このパビリオンは、映画監督の河瀨直美さんがプロデュースされていて、テーマは「万博184日間、毎日が人類史上、はじめての対話。」・・なんです。

万博会場で、ひときわ際立っているこのパビリオンは、廃校となった奈良県十津川村立折立中学校と京都府福知山市立細見小学校中出分校の校舎を移築・再生した木造建築で、そこには、どこか懐かしい、温かな空気が流れています。
そして、そこには大切に移植された、当パビリオンのシンボルツリーでもあるイチョウの木が、敷地の中央にそびえ立っています。

それではここで、万博の公式サイトにある、河瀬直美「Dialogue Theater-いのちのあかしー」について、そのご案内の文面をそのままにご紹介したいと思います。少し長文になりますがお許しください。その意図をお伝えできれば幸いです。

「どうして私たちは、わかりあえないと思ってしまうのだろう。
敵と味方に分かれてしまうのだろう。

このパビリオンは、「対話」を通じて、
世界の至るところにある「分断」を明らかにし、
解決を試みる実験場です。
そのために、毎日異なるテーマを世界に問いかけます。

対話は、私たちに気づかせてくれます。
人はもっとお互いを理解することができる、ということを。
よりよい未来を、一緒にうみだすことができることを。

このパビリオンが分断のない未来への第一歩になりますように。
皆様のお越しを楽しみにお待ちしています。

毎日異なるテーマで、
その日、初めて出会う二人が対話する。
来場者全員でそれを目撃する。

スクリーン越しに、
初めて出会う二人の対話者

対話する二人のうち一人は、スクリーンの向こう側。
もう一人は来場者の中から、
会場となる対話シアターの手前にあるホワイエで選出されます。
二人の対話に脚本はなく、
一度として同じ対話はありません。

スクリーンの向こう側にいる対話者は、
世界の何処かから参加します。
関西のときもあれば、東京など日本の他の地域から、
開催回によっては海外から。
誰がスクリーンの中に現れるか、
その時になってみないとわかりません。

対話のテーマは、
毎日や人生の発見につながる
184種類の問いかけ

対話のテーマとなる「問いかけ」は、毎日変化していきます。
同時にそれは、対話者の二人だけでなく、
それを目撃するすべての来場者にも投げかけられます。
ひとつひとつの問いかけに対する「正解」はありません。
きっと答えはひとりひとり違うはずです。
対話を目の当たりにすることで、あなたは自分自身とも対話し、
当初の答えが変わっていくこともあるでしょう。
この体験があなたにとっての、新しい世界の
はじまりになることを願っています。」

いかがでしょうか?
「対話」のもつ意味合い、奥深さが感じられる表現がなされています。

「問いかけ」の内容はどのようなことかと言いますと、例えば
今日が人類最後の日だとしたら、あなたは誰と何を話しますか? 又は、ついていい嘘とついてはいけない嘘の境目はどこにあると思いますか?
など、会期中の184日分(184種類)の問いかけがあるそうです。

対話は、「結果」よりも「過程と姿勢」が価値を生みます。
たとえうまくいかなくても、「共にゆっくり育つ種まき」と考えると、心に少し余白が生まれてくるかもしれません。
対話とは、「他人を変える手段」ではなく、「自分を広げるプロセス」でもあるのです。

さて、話は変わりますが、
先日、ちかくのchocoZAPで見かけたポスターに、「フレイル対策に大切なのは、“ごはん・おしゃべり・ちょこっと運動”」と書かれていました。

おしゃべりって、口やのどの機能を保つことにもつながりますし、認知機能の低下を防ぐとも言われています。それに、だれかと話す時間は、孤独感を減らしてくれたり、安心感を与えてくれるものでもありますよね。

もし人とのやりとりが少なくなってしまったら、心の元気や、身体の調子にも影響が出てしまうこともあります。
気持ちがふさぎがちになったり、やる気が出なくなったり、ちょっとしたことで不安になったり…。だからこそ、誰かとの関わりって、思っている以上に大切なんだと、あらためて感じます。

QOLを高めるために、無理のない範囲で「誰かと話す」機会を増やしてみませんか?
たとえば、家族や友人とのおしゃべりを意識してみたり、
趣味のサークルや、“推し活”を通じての出会いを楽しんだり、
地域の活動にちょっとだけ参加してみるのも良いかもしれません。
遠くに住んでいる人とは、オンラインでつながることもできますよね。

こうして見てみると、「対話」も「会話(おしゃべり)」も、どちらも人生を豊かにしてくれる、大切な一部なのだと感じます。
「深い対話」も、「楽しい会話」も、どちらも幸福感に必要です。
どちらか一方では片手落ち。
対話で心の奥があたたまり、会話で気持ちがやわらぎます。

まずは「心が今、どちらを求めているか」に正直になることが第一歩。
ふだんは気軽に、時には少し深く、でもまったく問題はありません。
そんなふうに、自分の中にある “ことば” を丁寧に扱っていくことが、QOLを高めるカギになるのかもしれません。
無理せず、でも諦めず。
あなた自身の心の声に耳を傾けながら、日々の暮らしの中に “ことば” のぬくもりを感じてみてください。
きっと、あなたの “ことば” の一つ一つが、どなたかの気づきや、ちいさな幸せへのヒントになっているのではないでしょうか。(ふ)