腸活のススメ!
さて、今回は腸内細菌を増やしましょうという読者の皆さんへの提案です。
最近、よく腸活をしようとあちこちで耳にします。
旧来は大腸の機能は水分吸収のみとされていましたが、最近では、大腸は体質、性格にまで影響を及ぼすという研究結果が出てきています。そのため、大腸は現在、最も脚光を浴び、注目されている内臓なのです。
そもそも大腸という臓器は、何のためにあって、どういう役割を担っているのでしょうか。
私たちが口に入れた食べ物は咀嚼(そしゃく)されて、食道を通ってまず胃へたどり着きます。
その後、十二指腸、小腸、そして大腸に到達します。
大腸の長さは1.5メートルから2メートルです。
そして右下腹部から右上腹部、そして左上腹部から左下腹部に位置していて、最終的には肛門につながっています。
基本的に栄養の吸収は、小腸の役割になります。
そのため小腸は、沢山の機能があります。
一方で、大腸の機能ではっきりと分かっているのは水分を吸収することだけです。
ただ、腸内細菌という観点で言うならば、その数は小腸とは比較にならないくらい多くの細菌が生息しています。
近年この腸内細菌が色んなことに関係することが分かってきました。
大腸には千種類、百兆個の細菌が生息していると言われています。
腸内細菌は大きく分けて『善玉菌』、『悪玉菌』、『日和見菌』の三つに分類されます。
それらの構成はざっくりとわければ、『善玉菌』が2割、『悪玉菌』が1割、『日和見菌』が7割といったところです。
健康な時は善玉菌の働きが活発で、日和見菌もおとなしくしていて悪玉菌の増殖を防いでくれています。
けれども、悪玉菌が通常の比率より上がると、掌を返したように日和見菌も悪玉菌と同じように悪い働きをしてしまいます。
正しく読んで字の如く日和見の動きをする訳です。
腸内細菌には、善玉菌、悪玉菌、日和見菌のもっとも良い割合は個人差があるとされています。
分かっているのは、それぞれ個人にとって最良のバランスを保つことが大切だと言うことです。
このバランスを崩すことによって「ディスバイオーシス」(腸内細菌のバランスが崩れて異常な状態になり、腹部膨満、腹痛、下痢が起きること)に陥らないようにすることが大変重要なことだと言えます。
ディスバイオーシスを引き起こす要因としては、食事、環境、ストレス、睡眠、薬剤などがあります。
ディスバイオーシスになると、身近な症状としては下痢や便秘になります。
また近年の研究により、ディスバイオーシスが、炎症や免疫機能の異常を介してがんや神経疾患など様々な病気に関連することが分かってきました。
腸内環境の悪化によって引き起こされる典型と言える「便秘」ですが、年齢とともに増える傾向があって、若年層から中高年層までは女性が多く、高齢になると男性が増えてきます。
便秘は大きく三つの種類に分けられます。
まずは病気に続発する症候性便秘が挙げられます。
例えば糖尿病の人が便秘になりやすいのは、糖尿病によって腸を動かす神経が鈍くなるからといえば分かりやすいと思います。
ふたつめは薬剤性の便秘です。
これは薬の服用の副作用として起こる便秘を指します。
そして一般的に多いのが三番目の習慣性便秘です。
大腸の蠕動(ぜんどう)運動が低下すると、便が大腸にとどまる時間が長くなります。
そこで水分がさらに吸収されることで、硬くなってしまった便が排泄されにくくなってしまうのがこの便秘の特徴です。
では、がんや便秘に繋がるディスバイオーシスとならないため、どのようにして腸のバランスを保てばいいのでしょうか。
現在、『プロバイオティクス』と『プレバイオティクス』という2つの手法があります。
まず、プロバイオティクスとは、生きた良質な菌を直接摂取することを意味します。
ヨーグルトや納豆、麹のように乳酸菌やビフィズス菌を含む食物の摂取がこれに当たります。
腸内環境を良くしてくれる善玉菌の兵隊を送り込むって感じです。
しかし、これらの菌をただ摂取すればいいというものではありません。
基本的には生きた菌を口から取ったとしても、その多くは胃酸で死んでしまい、腸内には定着せずに流れて便として体外に出てしまいます。
口から摂取した菌が腸で増えるわけではないので一度の摂取では意味がなく、生きて腸まで届く菌を、一定量、定期的に摂取することでその効果が実感できるといいます。
やはり、続けていくことが大切なことだといえます。
一方、プレバイオティクスは、腸内にいる善玉菌の餌となる成分を摂取するという考えです。
これは、善玉菌の兵隊に食糧を届けるって感じです。
〝餌〟とは具体的には野菜類や果物、海藻や豆類、穀物などに多く含まれる食物繊維やオリゴ糖のことです。
食物繊維やオリゴ糖は、小腸で吸収されず大腸まで届き、善玉菌の餌となり分解されて短鎖脂肪酸になります。
短鎖脂肪酸が腸内を弱酸性に保つことによって、善玉菌の活動が活発になってきます。
最近の研究では、腸内環境は食物だけでなく、精神的な影響を受けることも分かってきています。
お腹が痛い、調子が悪いと言う人のお腹を内視鏡やエコーなどで調べても何の異常も見られないことがあります。
これは『過敏性腸症候群』というもので、大腸に炎症や潰瘍などがないにも関わらず、下痢や便秘などの症状が数か月以上にわたって続く病気です。
原因ははっきりとは分かっていませんが、ストレスが症状を悪化させる要因の一つと考えられています。
脳がストレスや不安を感じると自律神経が乱れ、それにともない腸の動きも変化します。
これにより、腸が刺激に対して敏感に反応してしまう『知覚過敏』の状態になり、下痢や便秘を繰り返してしまうようになるのです。
そしてまた、お腹の不調が心配だとか、不安を生んでしまうと、脳がその信号をキャッチして、腸の知覚過敏状態がさらに続いてしまうという悪循環に陥ってしまいます。
症状がひどくなると鬱(うつ)病を併発することもあるので、治療は腸と心の両方からのアプローチが必要となるといえます。
緊張すると、お腹が痛くなる過敏性腸症候群というのは、多かれ少なかれ誰もが「ああ、あの時がそうだったのかな。」ときっと経験していると思います。
この『過敏性腸症候群』は、ストレス社会の広がりと共に近年増加傾向となっています。
このように脳と腸のそれぞれが信号を出し合っている関係を『脳腸相関』と呼んで、最近特に注目を浴びています。
ストレス社会が、現代人の腸に大きな負担をかけているのは間違いないでしょう。
最近「腸活」が騒がれるようになった背景に、日本人のライフスタイルの欧米化があります。
古来、日本人は、発酵食品を多く摂取し、穀物や野菜中心の食事を続けてきました。
ところが、近年は肉や脂を含む食事が多くなり、発酵食品や食物繊維の摂取が不足するようになってしまいました。
食生活の改善や運動、睡眠、ストレス発散に目を向けて腸が整うならば、それはそれでいいことです。
しかし、毎日の生活の中で困った症状のある時は、早めに専門家に相談することが得策でしょう。
今や子どもから高齢者まで、腸に悩みを抱える人は多くなっています。
『プロバイオティクス』と『プレバイオティクス』を日常生活に取り入れることでQOLの向上へつながる道筋が見えてくると共に、健やかな大腸維持で読者の皆さんへwell-beingをもたらしてくれることでしょう。(ま)