未来を担う子どもの貧困問題は深刻です
さて、今回の話題は、こども白書と子どもの貧困問題です。
「こども白書」は、こども基本法に基づく年次報告(法定白書)のことです。
今回(令和6年版)が初回となります。
毎年、我が国におけるこどもをめぐる状況及び政府が講じたこども施策の実施状況について、国会に報告の上、公表するものとなっています。
今回は令和5年度における状況についての報告となります。
これまでの少子化社会対策基本法、子ども・若者育成支援推進法及び子どもの貧困対策の推進に関する法律の規定に基づく年次報告は、この「こども白書」に一本化されました。
白書の構成は次のようになっています。
第1部では、こども大綱に掲げた数値目標や指標を含め、こども・若者を取り巻く状況を各種統計等により概説するとともに、こども基本法制定やこども家庭庁設置までの経緯等を記載しています。
あわせて、政府組織の横断的な取り組みを「特集」として掲載しています。
第2部では、こども大綱の柱建てに沿って、政府全体のこども施策の令和5年度取り組み状況を記載しています。
あわせて、各分野における時事的な施策について、そのポイントや地方自治体・NPO等における取り組み事例を「注目事例」として掲載しています。
さて、それでは今回のこども白書の中身に少し触れて行きましょう。
去年に策定した少子化対策をスピード感を持って実行していくとともに、いじめや自殺対策などの各地の先進事例を全国に広げるなどして、子ども政策を総合的に推進していく姿勢を強調しています。
「こども白書」は、去年4月のこども家庭庁の発足を受けて、少子化や若者対策など、関係する3つの白書を一本化して初めてまとめられ、6月21日に閣議決定されました。
この中では、去年策定した少子化対策の児童手当の拡充や、働いていなくても子どもを保育園などに預けられる「こども誰でも通園制度」の導入といった内容の詳細を紹介し、一連の施策をスピード感を持って実行していくとしています。
また、行政や専門家らが連携して、いじめや自殺対策にあたっている熊本市や長野県の取り組みに加え、いわゆる「ヤングケアラー」の支援として、独自にヘルパーの派遣事業を行っている神戸市のケースなど、各地の先進事例が紹介されています。
いずれも実際に若い世代の意見を聞いて選んだということで、こうした事例を全国に広げるなどし、子ども政策を総合的に推進していく姿勢を強調しています。
さて、もう少し深掘りをして、日本の現状を改めて確認し、将来への方策に触れてみたいと思います。
では、日本における子どもをめぐる状況について、押さえておきましょう。
2022年の出生数は77万759人で統計開始以来最少となり、合計特殊出生率は1.26で過去最低でした。
この統計を見る限り、日本における少子化はドンドンと進んでいます。
そして、今最も注目すべき点は子どもの貧困の問題です。
厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)によると、日本の子どもの貧困率は11.5%となっています。
一見豊かに見える現在の日本でも、子どもの9人に1人が貧困という深刻な社会問題が存在しています。
これは、わずかな収入しか得られない世帯である結果、十分な食事や教育を受けることができない子ども達が多く存在していることを意味するという衝撃的な現状が横たわっています。
2020年に児童養護施設などに入所した子どもたちの9.2%が、親の就労・経済的理由、つまり貧困により施設に入らざるを得なかったのです。
最も多かった入所理由は親の虐待(45.2%)ですが、貧困に追い詰められた親が虐待や育児放棄に至るケースも多々あります。
また、健康上の問題としては、産前の栄養が乏しいと生まれてきた子どもはインシュリンの分泌が弱くなり糖尿病のリスクが高くなるという研究結果や、幼少期の栄養が不足すると50年後に認知症になるリスクが高くなる等、海外では様々な研究結果が出ています。
日本では他の先進国よりも対策が遅れ、高い水準で子どもの貧困が推移していましたが、ここ数年で改善されてきています。
しかし、以前厳しい状況にあるのが、ひとり親家庭の子どもたちです。
厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)によると、ひとり親家庭の貧困率は44.5%と、ひとり親家庭の半数が貧困状態です。
この事実は、先進国の中でも最悪な水準だと言われています。
日本特有の母子世帯における貧困状況の特徴が「無職者の貧困家庭よりも有業者の貧困家庭の方が比率が高い」という事があります。
これは、日本では子育てと就労の両立が難しい社会環境にあり、子どもを育てながら仕事に就けるのはパートや臨時雇用である事が影響していると言われています。
男女共同参画局の「男女共同参画白書 令和5年版」によれば、ひとり親世帯の約89%が母子世帯であることから、ひとり親世帯の貧困問題は主に母子世帯の貧困問題であると言えます。
また、⼦どもの貧困問題は、当事者である⼦どもたちだけでなく社会全体に⼤きな損失を与えます。
⽇本財団の調査によると、貧困状態で育った⼦どもたちが納税者にならない社会保障を受ける側になることで、国の損失は約40兆円以上になると⾔われています。
これはその⼦たちの責任ではありません。
私たち⼤⼈、みんなの責任なのです。
読者の皆さんには、⼦どもの貧困は決して他⼈事ではないことを肝に銘じていただきたいと切望します。
更に、将来に目を向ければ、子どもの貧困の問題は連鎖しやすいということです。
虐待や貧困で施設に入所した子どもたちは、その多くが愛着の形成が不十分であったり、何らかの障がいを先天的または虐待などにより持っている事が多く、学習に意欲が持てず遅れが出る事が多く見られ、勉強の遅れから自分に自信が持てなくなり、進学を諦めてしまう子どもたちも多いのが実態です。
施設の退所者のうち、中学卒が23.4%・高校卒が58.3%・4年制大学の卒業者はたったの4%となっています。
施設を出て就職しても正規の雇用につくのは難しく、貧困は次の世代にもつながっていくのです。
子どもの貧困問題は一朝一夕に片付くものではありませんが、少なくとも現状を大きく改善できなくても、次世代へ連鎖することに何とか歯止めをかけていくことが大切だと思っています。
改善の方策は多方面と連携し合う必要があり、大変な困難を乗り越えなければならないことは理解できますが、将来のある子どもたちに夢をもってもらう方策を提案するのが今を生きる大人の役割でもあります。
是非とも社会が一丸となって取り組んでいければと切に希望しています。
さて、最後に、このコラムを執筆する際に目に留まった記事がありましたので、ご紹介したいと思います。
その記事は、日本を含む5カ国の13~29歳の若者に「自分自身に満足しているか」と自尊感情を尋ねた調査で、「そう思う」と答えた割合が日本では57.4%と、他の4カ国より14ポイント以上低かったことです。
調査は23年11~12月に日本、米国、ドイツ、フランス、スウェーデンを対象にインターネットで実施され、各国約1,000人ずつから回答を得ました。
回答内容では、「自分自身に満足しているか」の質問に「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と答えた割合は、米国73.2%、ドイツ73.9%、フランス75.6%、スウェーデン72.3%でいずれも日本より高い結果が出ました。
ただ、日本も18年の前回調査から比べると12.3ポイント改善しました。
こども家庭庁の担当者は、日本で若者の自尊感情が低い理由や改善した背景は詳しく分からないとしながらも「若者自身や研究者が議論するきっかけになれば」と話しています。
個人的には、これからの日本の若者の更なるポジティブさへの動きに注目したいなと考えています。
今回初めて出された「こども白書」ですが、大人が子どもに良かれと思っていたこと全てが子どものためになっているのかを考える良いきっかけになるかもしれないと考えています。
子ども目線、子どもファーストでどれだけ子ども達に寄り添っていけるかだと言えるでしょう。
やっと日本も多様化に目が向いてきたというところで、子どもの多様化にも注力していければ、子どものQOL向上に大変役立つと共に、子どもたち自身が、自分たちの未来に希望を見いだすことができることに期待したいと思います。(ま)