最新の「たんぱく質」にまつわる話題あれこれ

さて、今回の話題は「たんぱく質」についてのお話です。

食物中に含まれる身体に必須の成分のうち、たんぱく質・脂質・炭水化物の総称を「エネルギー産生栄養素」と言います。
いずれも、人間の身体になくてはならない栄養素のうち、エネルギー(カロリー)源となる重要な栄養素で、以前は、たんぱく質・脂質・炭水化物の三つのことは三大栄養素と言っていました。

今回は、特にその中から「たんぱく質」を中心に話をすすめて参りたいと思います。
「蛋白質、タンパク質、たんぱく質」と言葉の使い分けはいろいろですが、使い方はどれでもよく、日本医学会では「蛋白質」を推奨し、文部科学省は学術用語として「タンパク質」を標準とし、新聞などでは「たんぱく質」が多く採用されているそうです。

ご存知のように、私たちの体の60%~70%は水分ですが、実はその次に多いのが約20%近くを占めるたんぱく質です。
たんぱく質は、筋肉の原料になることはよく知られていますが、筋肉だけではなく皮膚や毛髪・爪・臓器・血管に至るまで全て、たんぱく質から構成されています。
また、目で見ることはできませんが、体を正常に動かし、健康を維持するために欠かせないホルモンや酵素、抗体もたんぱく質でできています。
カルシウムのかたまりと思われている骨でさえ、実は骨の体積の50%はたんぱく質の一種であるコラーゲンでできています。

ですので美容面でも、たんぱく質が不足するとコラーゲンも不足し、シワやたるみ・肌荒れなどのスキントラブルの原因となりますし、たんぱく質は消化吸収の際に熱となって消費される割合がとても高く、脂肪になりにくいことからダイエットにも適しているのです。

その他にも、感情に関わる神経伝達物質の原料はアミノ酸ですので、たんぱく質が不足するとメンタルにも影響します。
幸せホルモンとも呼ばれる、喜びや意欲を引き出すドーパミン、驚きや興奮をもたらすノルアドレナリン、気持ちを落ち着かせるセロトニンなどの原料は必須アミノ酸ですので、食事でたんぱく質を取らなければバランスが崩れてしまいます。

このように、ヒトの体はたんぱく質なしには存在できません。たんぱく質はヒトが健康に楽しく生きるために必要な、命の源ともいえる栄養素なのです。

今この瞬間にも、私たちの体をつくっている最小単位「細胞」では、ものすごい勢いでたんぱく質がつくり続けられています。
そして、そのたんぱく質には寿命があり、数分から数ヶ月でどんどん失われていき、2~3%が毎日新しいものに入れ替わっていきます。
私たちは、毎日食事によってたんぱく質を補給し続けなければ体を維持することができません。
たんぱく質は、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などに含まれる栄養素で、アミノ酸に分解されたのちに吸収され、血流にのって体のあちこちに運ばれてさまざまな働きをします。

厚生労働省が定めた日本人の食事摂取基準によると、1日に必要なたんぱく質の推奨量は18~64歳の男性で65g、成人女性で50gですが、驚くべきことに、近頃行われた調査では日本人の摂取量は減少傾向にあるようです。

先日読んだ日本経済新聞で、“ 食品やグルメ情報に事欠かない日本、ところが実は栄養不足に陥っている実態が明らかになってきた “ という記事がありました。

東京大学の篠崎助教授らの研究グループが、2023年に行った「習慣的な栄養素摂取量」の大規模調査では、たんぱく質の摂取が目標量に届いていないほか、カルシウムやマグネシウム、ビタミンA、B1、Cなどのほとんどの栄養素で、「必要とされる摂取量」を下回る日本人が一定数いる実態が明らかになったという内容でした。
驚くべきことに、栄養不足は顕著で必要量にすら届いておらず、カルシウムは男女とも全ての年代で、食物繊維や鉄は女性で特に不足割合が大きく、たんぱく質については目標量に届かない人の割合が成人男性で最も高く、現役世代の男性の4人に1人はたんぱく質不足に陥っているとの調査結果となっています。

その他にも、臨床栄養学が専門の藤田医科大学の飯塚教授の話によると、「栄養不足を自覚するのは難しく、栄養不足が原因で起こる手足のしびれや動悸、疲れやすさなどは気づきにくい」と書いてありました。
栄養が足りているかを手軽に知る方法には、「肉、魚、卵、乳製品、大豆、緑黄色野菜、果物、芋、海藻、油」の10品目中、1日に何品目食べているかをチェックすることがおすすめらしく、“ 理想は1日8品目 “ とのことです。
また、食べる頻度が少ない食品は「海藻やいも、果物」で、様々な食品をバランス良く食事に取り入れることで、色々な栄養素が取れること、食べる機会が多い肉より、魚や大豆製品を選ぶとよいこと、などが記事として紹介されていました。

食品業界や外食業界などでは今、効率的な栄養摂取をうたう新たな製品や、健康に配慮した新ブランドが続々と発表され販売が開始されています。
それでは、そのいくつかをご紹介したいと思いますが、皆さんはいくつご存知でしょうか?

まず最初は、食品業界で主食として広がっている「完全栄養食」の話です。
例えば、味の素のワンオールや日清の完全メシなどといった新製品がたくさん登場してきています。
厚生労働省は、たんぱく質や脂質、炭水化物(糖質、食物繊維)、ビタミン、ミネラルなど、日本人に必要な33種類の栄養素を定めていますが、完全栄養食とはこの栄養素などを効率的に摂取できるとうたう商品を指します。
健康志向とタイムパフォーマンス意識の高まりで、食品メーカーだけではなく美容業界に至るまで、各社がこぞって今、このような需要にもとづいた「オールインワン(複数の要素や機能を一つにまとめた製品)」への参入を強めています。

食品業界ではその他にも、カネカの不凍素材(不凍たんぱく質・不凍多糖)を添加した味が落ちない冷凍食品や、高たんぱくを謳ったニチレイのエブリオンミールなどの家庭用冷凍食品など、付加価値の高い新ブランドが続々と登場しています。

挙げればきりがないのですが、山口県にあるペプチドリップ(株)という会社が製造販売している無添加の味わいだし(微粉末)は、魚を「丸ごと食べる」という趣旨の元、消化器官に負担をかけず、吸収の早いペプチド化された良質なたんぱく質として人気です。「栄養スープ」として手軽な栄養素補給に最適です。

また外食業界では、つい先月末に発表された吉野家の「オーストリッチ丼(ダチョウ丼)」を販売するというニュースが注目を集めました。
使用するダチョウの肉は赤みで鶏のささみのように脂肪が少なく、たんぱく質や鉄分が多く含まれています。
ダチョウは飼育効率が高く食料不足対策としても期待されています。

ところで皆さんは、「プロテインクライシス」という言葉を聞かれたことはありますでしょうか。
これは、2030年頃にはプロテイン(たんぱく質)の需給バランスが崩れ始めるという予測のことで、世界中でたんぱく質不足が起こることを危惧する言葉です。
世界の人口は現在約81億人ですが、2058年頃には100億人に到達することが予想され、食生活の変化(肉食化)や気候変動による食料不足も相まって、「たんぱく質危機」が訪れると言われています。
そこで、代替たんぱく質として期待されているのが、代替肉、昆虫食、藻類などですが、ダチョウも飼育効率が高く、牛に比べてメタンガスの排出量は半分以下で環境にもやさしく、食料不足に備え、一役買えるのではないか、と発表されたわけです。

たんぱく質の世界って本当に奥深いと思いませんか。
今回の話題は、すべて食べることについての話題になってしまいましたね!
たんぱく質は食べないと摂取できないので、当然と言えば当然かも知れません。

では最後に、専門的な話になりますが、最先端のたんぱく質研究について、最新の情報を少し取り上げて終わりたいと思います。

2023年9月、米アルファベット傘下のグーグル・ディープマインドは、たんぱく質の立体構造を予測するAIを応用して、ヒトの遺伝子の小さな変異が病気の原因になる可能性(疾患リスク)を予測する新型AI「アルファミスセンス」を開発しました。
前年の2022年には、2億種以上のたんぱく質の構造予測データを公開しており、ここ数年でたんぱく質研究に歴史的な革新を起こしています。
そして今、この新型AIの開発によって、遺伝子変異が原因の病気の解明や治療法の開発が加速度的にすすむことが期待されています。
この成果はノーベル賞もののすごい発見なんです。ぜひ期待しましょう!

食欲の秋、食欲を左右するのもたんぱく質と言われています。
QOLと食は、切っても切れない最も重要な要素です。QOLを高める条件とも言えます。
ぜひ、美味しい食事を心ゆくまで(腹八分目を心掛けて)楽しんでください。
きっと幸せな気持ちになること請け合いです。(ふ)

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