書店のダイバーシティ
さて、今回は「読書の秋」にちなんでの話題です。
やっと残暑から解放され、秋らしい日の中で読書を楽しみたいとお考えの読者の皆さんもお出でになると思っています。
そういう方々には、少々気掛かりな記事を日本経済新聞の中で見つけました。
かつては商店街や駅前など街の至るところにあった書店・本屋さん。
最近では1日1店舗以上のペースで街から消えている状況だというのです。
20年前と比べれば、なんとその数は半減してしまった現実があるのです。
今後、日本の人口が1億人を切ると予測されている2050年代には、現在の店舗数から7割減の約3,000店まで減るという可能性があるとの指摘がされています。
近所に書店がないために、本の購入が難しくなる方々所謂「読書難民」が全国的に増えかねない状況が見え隠れしています。
書店・本屋の減る理由としてよく言われるのは、世間の活字離れが止まらいことが挙げられています。
文化庁の「国語に関する世論調査」では、2008年度から5年ごとの調査結果の中で、1ヶ月に読む本の冊数の変化が報告されています。
2008年度、2013年度、2018年度と大きな変化がなく、読まない方の割合は40%後半で推移していました。
しかし、2023年度になるとその数が60%前半へと急増しました。
それでは、実際に読書量そのものがどう変化しているのか、そしてその原因とは何なのかを見ていきましょう。
まず、読書量の変化について、直近の調査によると減っていると答えた方は69.1%にも上っています。
調査の中で読書量が減っている理由が挙げられていますので、ご紹介しましょう。
なお、調査は複数回答可となっています。
・情報機器(スマホなど)で時間が取られる 43.6%
・仕事や勉強が忙しい 38.9%
・視力など健康上の理由 31.2%
・テレビの方が魅力的 19.8%
・読書の必要性を感じない 8.5%
・魅力的な本が減っている 7.7%
・近所に本屋や図書館がない 6.0%
また、年代別に見ると、10~20代は読書量減少の要因として「スマホ・タブレット端末など」を挙げた人が最も多くなっていますが、30~40代では「仕事・勉強」が最多となっています。
この結果を見ると、まだまだ忙しく働き過ぎと言われる日本社会の現役労働者や受験戦争に翻弄されている子どもたちの生活の縮図が見えているということでしょうか。
そして 50代以上になると視力低下など健康問題を挙げる人が増え、70歳以上ではトップになっています。
また、経済産業省のHPを覗いてみると出版業界の動向についての考察がありましたので併せてご紹介します。
第3次産業活動指数から「出版業」指数および「新聞業」指数の推移を見ると、近年下落傾向にあることが分かります。
特に、スマートフォンの登場により、出版業も新聞業も2008年以降に急落しています。
指数的には下落傾向は止まることなく進行し、急落し出した2008年と2022年を比べると、出版業では半減してしまっています。
次に、出版業の内訳の推移を見ると、週刊誌や月刊誌は、休・廃刊の増加に伴い大幅に下落している一方で、書籍は比較的緩やかに下落しています。
また、出版市場の推移を見ると、紙出版は年々縮小傾向にあるものの、それを補うが如く電子出版の方が伸びて来ており、市場規模全体としては世の中で「活字離れ」と言われているほど落ちてはおらず、横ばいに推移していると言えます。
では、現在に至っては出版業界を支えていると言われている電子出版市場の内訳を見てみることにしましょう。
電子出版市場では、その約8割をコミックが占めていますが、2020年以降でみるとさらに占有率が拡大して、2022年には全体の約9割をコミックが占めています。
この背景として、コロナ禍の巣ごもり需要の影響が考えられます。
また、コミック市場推定販売金額の推移を見てみると、2019年を境に電子コミックが紙コミックの販売金額を抜き、コミック市場における紙から電子への移行が進んでいることが読み取れます。
これまでの経過から考えると、書店の減少は定期的に週刊誌や月刊誌を購入していた読者層が、週刊誌や月刊誌の休・廃刊の増加などにより、段々と購入行動から外れていってしまうことで、これらのジャンルの販売が芳しくなくなると共に、コミックも紙から電子出版へ取って代わられてしまったため、これらが販売・収益の中心を成していた中小書店の経営をもろに圧迫し、閉店へ追い込まれてしまったのが原因かと考えられます。
一方、全店舗の坪数計は減少しているものの、1店舗あたり坪数は増加しており、中小書店と大手書店で明暗を分ける状況にあるようです。
また、最近では無人書店など新たな形態の書店も登場してきています。
デジタル化の進展などにより、EC(電子商取引)で本を購入することが当たり前となり、電子書籍の市場は8年で4倍に拡大しました。
紙出版や書店数の減少などが縮小傾向にあるものの、電子出版市場は、本の朗読を聞けるオーディオブックなどの新たなサービスもあり、今後も拡大することが予想されます。
また、無料で図書を貸し出ししている公立の図書館も増加傾向にあります。
このような状況を踏まえて、住民との絆を強める地域密着の姿勢で生き残りを目指す書店は少なくありません。
書店と言うだけではなく、その中で新しい価値を打ち出す書店が支持を集めつつあります。
一部をご紹介したいと思います。
福井県敦賀市の敦賀駅前には、全国初の公設民営の書店があります。
自治体が公費を投入して民間書店が経営を担う形のもので、週末には親子向けの読み聞かせ会などが開催され、ここで行われるイベントの4~5割は地域住民が企画したものとなっています。
正に地域密着の、地域に根ざした、地域が求めている書店像が具現化している好例だと言えます。
また、コインランドリーなどを併設して地域住民の生活を支える書店や、書籍の品揃えを見直し、特定のジャンルに特化したものとしたりする大型チェーン店とは趣向の異なる「独立系書店」が増加傾向にあります。
私も、偶に有名な全国展開をしているコーヒーショップとコラボレーションしている書店へ行って、大好きなコーヒーを飲みながら、書店に置いている書籍をゆったりとした雰囲気の中で読んで楽しんでいます。
今後書店自体が生き残っていくためには、いかに情報発信をして集客していくかが求められると考えられます。
書店での本との偶然の出会いはオンラインショップではなかなか経験ができません。
これから色々な創意・工夫をしながら、リアル書店の逆風に立ち向かう力にも大いに期待したいと思います。(ま)