新幹線通勤、時代も変わった!
さて、今回は、JR東海が今年1月から大規模な「新幹線通勤」の制度を本格導入した話題です。
具体的には、東海道新幹線の全区間(東京━新大阪間の約550キロメートル)で、新幹線を使った通勤を認めるものです。
すでに昨年10月から人事部で先行的に試行しており、今年1月からは全社で実施する運びとなりました。
現状では長距離通勤を原則300キロメートル以内としていて、東京駅からであれば豊橋駅までとなっていました。
これが新大阪駅まで一気に広がることになります。
対象は運行や保全に関わる現業部門以外で、オフィス勤務などの非現業部門の約6000人です。
この制度を利用すれば”単身赴任が解消”されるうえに、勤務地に制約のあった社員がエリアを跨いで異動することも可能になります。
それだけではありません。
JR東海の場合、現行では通勤時の執務は不可とされていましたが、これからは、新幹線通勤など”移動時における車内での執務”が週7.5時間までカウントされることになります。
更に在宅勤務においても、現状は自宅のみに認められていますが、これにカフェなど職務に集中できる環境が加わることで、在宅勤務の多様化が一層広がることとなります。
例えば、週5日勤務のうち週4日を新幹線通勤、週1日を自由な場所で在宅勤務とすることも可能となるわけです。
今回の制度改正については、リモートワークは場所を問わず働けるといったメリットがある反面、コミュニケーションなどでリアルな対面での勤務状況と異なることでのデメリットも指摘されています。
各企業が『リモートか対面か』の選択に悩む中、JR東海ではリモートだけに頼らず、新幹線通勤による対面の機会を確保しながら、柔軟な働き方を実現したいと説明しています。
つまりは、時間や場所を選ばない柔軟な働き方を取り入れることによって、人材確保や生産性向上ばかりでなく、社員のエンゲージメント(働きがい)を高めたい、ということだろうと考えられます。
こういった考え方は、社員目線での社員のQOLの向上に大変役立つものだと思いますので、益々広がりを見せてほしいものです。
では、このJR東海が導入したスマートワークと呼ばれる制度の概要についてご紹介しましょう。
コアタイムは、11~14時から7~22時の任意選択となりました。
通勤時の執務は認められていなかったですが、新幹線の通勤時では週7.5時間まで可能となりました。
在宅勤務は、改正前では自宅で育児介護社員にのみ週7.5時間での運用でしたが、改正後は育児介護社員については週15時間と倍増され、その他の社員も7.5時間認められることとなりました。
また、画期的なことでは、在宅勤務場所の範囲が、自宅以外にカフェなど職務に集中できる環境であれば可能となりました。
長距離通勤の範囲は、原則300㎞内が東京から大阪までと大きく広がりました。
あわせて、部下の成長を促進し信頼関係の構築や会社全体の強化を図る目的で、1on1ミーティングが新設されました。
ここまではJR東海が導入した新幹線通勤についてお話しをしましたが、過去から今に至るまで、JR東海にも負けないくらい、新幹線通勤を導入している企業も少しずつ増えて来ています。
例えば、ヤフー(現LINEヤフー)のほか、メルカリやZOZO、NTTをはじめ、主要IT企業の一部で新幹線通勤が開始されています。
企業の考え方とすれば、働き方や居住地の自由度が増すことで、従業員の福利厚生の充実を図ろうとしてきたことが伺えます。
ヤフーはコロナ禍以前の2016年から、通勤時間が往復2時間以上かかる従業員を対象に、新幹線通勤を認めています。
交通費の上限は月額15万円となっています。
同社は2014年「どこでもオフィス」という人事制度を取り入れ、リモートワークをいち早く採用して来ました。
ただ毎月のリモートワークの回数制限が5回以内と決められており、新幹線通勤のケースでは、最低でも月20日出勤のうち月15日以上の出社が必要なため、導入当時においては利用者が少なかったと思われます。
その潮目が変わったのは2020年です。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、回数制限をなくし、フルリモートワークに踏み切りました。
その後、従業員の約9割がリモートワークに従事することになり、業務にもさして影響がなかったとして、2022年4月にどこでもオフィスの制度を拡充しました。
では、今ご紹介したヤフー以外で、主要IT企業の新幹線通勤の取り組みについて、個別にご紹介をしましょう。
【メルカリ】
・オフィス出社orリモート勤務の選択可能
・日本全国どこでも居住可能
・交通費は月上限15万円
【note】
・フルリモート勤務可能
・交通費は月上限15万円
【NTT】
・原則リモートワークだが、出社も想定したハイブリッド
・出社は出張扱いのため、交通費支給
・交通費は月上限なし
【ZOZO】
・開発部門はフルリモート
・ビジネス部門は週2日出社+3日リモートのハイブリッドワーク
・交通費は月上限15万円
【MIXI】
・基本リモートだが、出社回数は各部署ごとに決定
・全国居住可能だが、12~15時のコアタイムに出社できる場所に限定
・交通費は月上限15万円
以上が、主要IT企業の新幹線通勤の取り組みの具体例となっています。
今回は新幹線通勤にスポットを当てた形になりましたが、労働環境全体としての変化はコロナ禍を契機として急速に進みました。
コロナ禍により、結果として働き方のニーズが多様化してきている点が後押しされ、より一層の働き方改革が必要とされて来たことが企業側を動かしたと言えるでしょう。
現在、日本では共働き世帯および単身世帯(世帯主が一人の世帯)の割合が増加傾向にあります。
1990年代の中頃に共働き世帯の数が専業主婦世帯の数を逆転して以来、共働き世帯の数と専業主婦世帯の数は年々その差を広げています。
また、未婚率の増加や核家族化の影響を受け、単身世帯も増加しつつあるのが現状です。
そして近年、共働き世帯や単身世帯の増加に伴い、家事や育児・介護などと仕事を両立できる柔軟な働き方へのニーズが高まっているのです。
そうしたニーズに対応するためには、労働における時間的制約の緩和や、フルタイム以外の労働に対する処遇改善、場所にとらわれないテレワークの導入など、働き方改革の促進が必要となって来るでしょう。
働き方改革と関係性が深い概念として、私どもQOLジャパンが常日頃から発信している「ウェルビーイング(well-being)」という考え方があります。
ウェルビーイングとは、「肉体的・精神的・社会的に満たされた状態」を指す概念のことです。
従来は社会福祉や医療などの現場で用いられていましたが、近年では企業の在り方や働き方を考えるうえでも重要な概念として注目を集めています。
日本は深刻な労働力不足に直面しており、多様な働き方への対応や、人材が定着しやすい環境づくりが企業に求められています。
そうしたなかで、従業員のウェルビーイングを重視する企業が年々増えてきているのです。
人々の価値観やライフスタイルは急速に多様化しています。
「肉体的・精神的・社会的に満たされた状態」を目指すウェルビーイングの取り組みと、「働く人々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会」を目指す働き方改革は、相互に深く関係していると言えるでしょう。
今後、ウェルビーイングが世間で広く認知され理解度が高まることで、ウェルビーイングを重視する考え方が主流となり、大きな社会構造の変化となるかも知れません。(ま)