怠ける脳
さて、今回は「脳」の面白い話しです。
今回の話題は二部構成になっています。
最初は、和文化デザイン思考講師で、株式会社京都デザインファクトリー代表取締役の成願義夫さんがおっしゃっていた興味深いことについて。
ふたつめは、成願義夫さんの言葉を受けてスピンオフしたテーマとして、「怠ける脳」のお話しです。
成願義夫さんがおっしゃったことで、人の脳は基本的に楽をしようとする性質がありますという、驚きと興味を引く発言を目に留めることがありました。
人の脳が持つ基本的な性質のため、人の脳はは未知のものに出会うと先ず過去の記憶に置き換えようとするそうです。
その結果、大人になった人間が毎日見聞きする情報のほとんどが過去の記憶に置き換えられている現実があるのだとか。
これはパソコンのキャッシュ機能(後述します)と同様で、物事を瞬時に判断するための高速化機能と言えるのだそうです。
実は、この機能がなければ車の運転はできないのです。
一般的にキャッシュ機能とは、パソコンのブラウザが一度表示したWebページのデータを保存しておいて、次に同じページを表示する際に、一度目に表示した時よりも素早く表示してくれる仕組みのことです。
このキャッシュ機能を利用することで、サーバーでのファイルの作成を省いたり、ブラウザからサーバーへのデータ通信が不要になったりします。
脳にもこの仕組みが備わっているので、車を運転している際の危険回避などがモタモタせずに瞬時にできる訳なのです。
しかし、この人の脳のキャッシュ機能はうまく出来ているんだなあと関心ばかりしてはいられないそうで、例えば、成願義夫さんの苗字の「成願(ジョウガン)」を「成瀬(ナルセ)」と読み間違える人が多いことの原因でもあるそうです。
読者の方の中にも、もしかすると読み間違えをした方がおられるかも知れませんが、両者の違いは漢字が異なっていて違いは明確なのですが、当事者がよく見るか、よく見ていないかという単純な行動の差だけで間違えが発生するのだそうです。
つまり過去の記憶に置き換えるか、置き換えないかの差ということです。
成願義夫さんは、人生においてはこの些細なことの積み重ねが結構大きいとおっしゃっています。
よく見る人、よく物事を観察する人には常に「気づき」があって、そこから真実を知る可能性が高まるのだそうです。
あらゆる問題解決方法の根幹にあるのは「気づき」と言うことですね。
最後に、成願義夫さんから年配の方への忠告をご紹介しましょう!
できるだけ脳のキャッシュ機能に頼らずに毎日を生きましょう。
脳は「気づき」によっても活性化されます。
実は今見ているものは、人生で全て初めて見るものばかりなのです。
なぜならば、全てのものごとは必ずうつろうからです。
この成願義夫さんのお話しは大変示唆に富んでいて、日々の生活をのんべんだらりと過すことへの警鐘と受け止めることが出来るのではないでしょうか。
さて、ここで最初の成願義夫さんのお話しはおしまいです。
ここからは、ひとつ目の成願さんのお話しのスピンオフとして「怠ける脳」のお話しをすることにしましょう。
読者の皆さんの中には、やらなければいけないことに手がつかず、ついついスマホに手が伸びてしまったという経験をしたことはありませんか?
しかし、この先延ばしの行動は、「意志が弱いから」と考えている方がおいでかも知れませんが、そうではありません。
実は余り知られてはいないのですが、人間の脳は省エネ設計で組み立てられているため、新しい行動を避ける性質を持っています。
やらなければいけないことがあるのに、どうにもやる気が起きないタイミングを経験したことってありますよね。
そのあと切羽つまってから「あのとき、なんでやらなかったんだろう…」
と後悔することもままあるでしょう。
こんなことがあった時には自分のことが嫌になってしまいそうですが、実はやる気が出なくてついつい先延ばししてしまうのは、あなたの意志が弱いからではありません。
そもそも元から備わっている脳の仕組みによるところの、ごく自然な反応のためなのです。
皆さんは、脳という臓器にこんな「いいイメージ」を持っていませんか?
「からだのいろいろなところに指令を出す、リーダー的な存在」
「心臓と同じように、寝ているときも、ずっと動いている働きもの」
確かに脳の役割としてはその通りなのですが、脳に対するこのイメージには、1つ大きな勘違いがあります。
脳は働きものどころか「超」がつくほどの「怠けもの」なのです。
ではなぜ、脳は怠けものになったのでしょうか?
それは、脳が異常なほど「燃費の悪い」臓器だからなのです。
脳の重さは成人で約1400グラムで、からだ全体のわずか2%ほどしかありません。
ところが、安静にしているときでも、からだ全体で1日に必要なエネルギーの約20パーセントを消費するといわれています。
つまり、脳がフル稼働しすぎると直ぐにからだ全体がスタミナ切れを起こしてしまい、いざというときに動けなくなる危険があるのです。
全ての生き物は、敵に襲われたときなどに備えて、いざというときのためにエネルギーを蓄えておきます。
自然界で生き残るためには、省エネが合理的です。
私たちの脳も同じで、なにかあったときに動けなくなると困るので、通常時はなるべく働こうとしません。
結果として、脳は新しくなにかをはじめたり、仕事にとりかかったりすることを面倒に感じる、怠けものになってしまったのです。
すぐに面倒になるのは、人間の脳がもともと持つ性質といえます。
人間にとって、やる気が出ないのが自然な状態なのです。
今日からは、やる気が出ないことや先延ばししてしまうことで罪悪感を抱いだいたり、自分を責めたりするのはやめて、全て脳の仕組みのせいにしてしまいましょう。
それでも日々やらないといけない仕事や用事が、私たちを追いたてます。
「やる気が出ないからといっても、人間である以上やっぱり向上心を持たないとダメだ」と考える人もいるでしょう。
確かに、「成長したい」「よりよく生きたい」と願うのも、人間が持つ自然な感情です。
実際、そう願い、やる気を出して、目標を達成する人もいます。
やる気に満ちあふれた人は、他の人と違う特別な脳を生まれつき持っているのかというと、全くそんなことはありません。
あなたの脳と同じです。
それでは、なぜ、すぐにやる気が出せる人と、いつまでも先延ばしする人がいるのでしょうか。
そのカギを握るのが、「ドーパミン」という脳内物質です。
「ドーパミン」という言葉は、読者の皆さんはどこかで一度は耳にしたことがあるかもしれません。
専門的にはこの「ドーパミン」は、「神経伝達物質」といって、喜びや達成感を味わったときや、また「うまくいきそう!」と期待したときに分泌される物質です。
「『できた!』という感覚と結びつきやすい物質」と考えてください。
この「ドーパミン」が分泌されると、脳は「もう一度、あの感覚を味わいたい」と、更に「ドーパミン」が出る行動を繰り返すようになります。
アスリートが毎日ハードなトレーニングに耐えられるのも、この脳の働きがあるからです。
アスリートだけでなく、あなたの周りのうまくいっている人、例えばコツコツ勉強して希望の大学に入った学生も、前倒しで仕事を進めて常に余裕を持っているビジネスパーソンも、本人は特に意識していないかもしれませんが、例外なく「ドーパミン」の仕組みをうまく利用しています。
では、どうすれば「ドーパミン」が分泌されるのでしょうか?
一番簡単に「ドーパミン」を出す方法は、「小さく行動する」ことです。
ほんの少しでいいので、実際にからだを動かすと、「ドーパミン」が出始めます。
行動というと大げさに聞こえますが、本当に小さなことで構いません。
ビジネスパーソンの場合、企画書を今日中に完成したいと思っていても、どうしてもやる気が出ないときは、例えばイスに座ることを最初の目標にしてみてください。
とりあえず企画書のことは置いておいて、まずはイスに座ることだけを考えるのです。
それくらいなら、簡単にできそうな気がしてきませんか?
イスに座ることができたら、すかさず「私って、えらい!すごい!」と言って自分を誉めてください。
誉めることで、さらに脳内に「ドーパミン」が出ます。
イスに座れたら、次はパソコンの電源を入れて「えらい!」と誉めます。
パソコンが立ちあがれば、パスワードを入力、ログインして「すごい!」と自分を誉めます。
このように、先ずはできそうな小さな行動をやってみると、わざわざ「やる気を出そう」なんて考えなくても、自然と次の行動をしてしまいます。
こうすれば、企画書に向きあうハードルが、ぐっと下がります。
この現象を「作業興奮」といいます。
面倒だと思っていた掃除を一旦始めると、つい部屋の模様替えまでやってしまった経験のある人がいるかもしれませんが、正しくこの行動が「作業興奮」の状況のことを指します。
多くの人が誤解していることですが、人間の脳は【やる気が出る➡行動する】といったパターンではなく、【行動する➡やる気が出る】といった順番が正解なのです。
やる気が出るのを待っていようといっても、そんなタイミングは絶対にやってはきません。
やる気が勝手に湧き上がってくるというのは幻想なのです。
やらないといけないことがあるのに、でもどうしてもやる気が出ないときは、まずは少しだけ動くことを意識してみてください。
脳は怠け者ですが、いざ「ドーパミン」という物質の分泌のスイッチが入れば、やる気満々に変身するある意味では面白い面を秘めている臓器と言えます。
脳の指向が理解できれば、今までは物事をいつまでも先延ばしする人だった自分が、すぐにやる気が出せる人へと大きく舵を切ることができます。
自分を変えるためには、「ドーパミン」の分泌をうまく利用していくのが大切なんですね。
小さな行動の積み重ねで「ドーパミン」をドバドバ分泌させて、QOLの向上に繋げていただければ幸いです。(ま)


