後半人生の設計変更しませんか

さて、今回は人生の設計変更に関わる話題です。

少子高齢化が進み、2070年には15~64歳の生産年齢人口が約52%まで低下する見込みとなる中、大企業を中心にシニア世代を活用する動きが広がっています。
一定の年齢に到達すると管理職などの役職から外す「役職定年制度」の廃止や、定年退職の年齢引き上げが目立ちます。
年齢を重ねても働く意欲を持つ人は多く、企業にも経験豊富なシニアの登用はメリットがありますが、人件費高騰や働く側の人生設計変更などの課題もあります。

大和ハウス工業は、社員が60歳になると管理職から外して給与を減額する役職定年制度を令和4年4月に廃止しました。
現在は約250人が管理職を継続しています。
「人手不足を補うことが第一。企業の存続は人にかかっており、先輩社員に応援してもらいたい」と、制度廃止について同社の社長はこう語っています。
経験や知識、高度な専門資格を持つシニア社員の流出を抑止し、転職市場のキャリア採用で競争力を強化するなどの狙いがあるといいます。
厚生労働省によると、国内の人口は2020年の1億2615万人から、70年には8700万人まで減少する見込みです。
65歳以上の人口割合は20年の28.6%から一貫して上昇し、70年には38.7%に達する形となります。
生産年齢人口の割合は、1990年代前半に70%まで迫りましたが、その後は低下傾向となり、2070年には52.1%まで下がるとみられています。
高年齢者雇用安定法は、65歳までの雇用確保を企業に義務付けています。
定年を法律上の最低年齢の60歳としているケースが多く、その場合は新たに雇用契約する「再雇用」や、そのまま働く「勤務延長」などが採用されています。
令和3年には改正法が施行され、70歳までの就業機会の確保も努力義務となっています。

大和ハウスと同様の動きは他社にも広がっており、NECとダイキン工業は、いずれも56歳としていた役職定年制度を廃止しています。
大阪ガスも社員の定年を現在の60歳から65歳まで段階的に引き上げることに伴い、役職定年を7年度から廃止します。
定年延長に関しては、三井住友銀行が2年に定年年齢を60歳から65歳まで延長するとともに、「プライベートや副業との両立を視野」(同社)に、週3日勤務を前提とする柔軟な雇用形態を導入しました。
また、明治安田生命保険は、内勤職の定年を70歳に引き上げる方針となっています。

リクルートが昨年全国の60~74歳の6千人を対象にした調査では、7割超が「70代以上まで働きたい」と回答しています。
働く理由(複数回答)を聞いてみると、「生計の維持」が最多の41.9%で、「健康維持」(38.0%)、「小遣い確保」(34.7%)、「社会とのつながりを得る」(32.5%)と続いています。

今後、会社員の〝生涯現役〟の傾向が強まれば、人生設計にも影響がありそうだと言えるでしょう。
例えば、今までは住宅ローンは比較的若いころに借り入れて返済していき、最終的に残額を退職金で支払うといったイメージでした。
大手銀行の担当者は「今後、年齢が比較的高い人でも住宅ローンを利用する動きが強まるかもしれない」と話しています。

一方、意欲はあっても若い社員と同じようには働けないケースも珍しくありません。
再雇用などで65歳以上の正社員がいる飲食チェーンの管理職は「高齢になるほど、体力的に毎日、定時に出勤できないという人が出て来ます。
そのため、シニア社員は労働時間に応じた給与体系にしています」と実情を明かしています。

また、中小企業では定年にこだわらない雇用形態も出て来ています。
シニア社員の活用について、中小企業には大企業と異なる事情があります。
若者の確保が困難な場合もあり、高い技術を持つシニア世代の活用に積極的なケースが多く見受けられます。
このため中小企業では定年にこだわらない雇用形態を採用する企業も珍しくないと言えます。

大阪商工会議所が7月に中小企業を対象に初めて実施した調査では、約6割が定年の延長などの対応は行わないと回答しました。
大阪商工会議所人材開発部の部長は「中小企業は慢性的に人手不足であって、大企業のように明確に定年制度を設けていない場合もあります。
健康なうちは年齢にあまり関係なく働いてほしいと考える経営者もいます」とその背景を説明しています。
調査は大阪府内に拠点を置く企業を対象に「自社での高齢社員の活用についての対応」を尋ね、中小企業44社から回答を得ました(複数回答)。
26社(59%)が「変更なし」と回答しています。
「定年の延長」は12社(27%)、「再雇用年齢の引き上げ」は9社(20%)、「役職定年の延長・廃止」は3社(7%)という結果になりました。
ただ、中小企業側から高齢者への求人がある職種は管理や警備などであって、体力的な問題から需要と供給が合わないミスマッチも起きていると言います。
また、中小企業には辛いと言える人件費の増大という経営における問題もあります。
生活雑貨の平安伸銅工業(大阪市西区)は60歳定年で希望者は全員再雇用し、65歳までパートタイム契約、それ以降は相談により対応としています。
現在は定年延長制度の導入予定はないということで、社長は「高齢社員をそれまでと同条件で雇用し続けることは経営上のリスクになると考えた」と明かしています。

役職定年制度を廃止したり定年を延長(廃止)したりする企業が増えている背景には、人手不足や優秀な人材の確保が難しくなっていることがあります。
企業がシニア人材を活用するメリットとしては、人手が確保できることのほかに、採用や育成にかかるコストを削減できることが挙げられます。
一方でデメリットもあります。
賃金の高い社員を雇い続けることになるため、人件費が高騰していくことがあります。
組織自体の高齢化が進むことにもなり、時代の流れに沿った柔軟な対応が難しくなるケースが想定されています。
組織体制の新陳代謝が鈍化することで、若手社員のモチベーションが低下する懸念も出てくるでしょう。

1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は、令和5年には1.20と過去最低を更新する一方、平均寿命は延びています。
今後、少子高齢化が抑制されることは考え難く、人手不足問題の解決は容易ではありません。
7年4月からは65歳までの雇用確保が義務化が待ち受けています。
シニア社員の方々は、新制度のメリットとデメリットをよく理解して対応する必要があるでしょう。
人生100年時代を迎えて、前半生の仕事を定年退職し、後半生のしっかりとした設計図をどのように描いていくのか。
社会の動きが激しさを増す中で、自身の後半生にマッチした最善の設計図を描き直す作業が必要となりそうです。
そのためにも、退職前後で慌てて設計変更をすることなく、50代に至るまでに人生のwell-beingを叶えるための設計変更作業に取り掛かっていただければ幸いです。
そして何より健康寿命を延ばすことにより、設計変更した人生の設計図を活かし、元気に現役を続けていけるよう、日々の健康管理に気遣っていただければと考えています。

QOLジャパンは、個人が考えている後半生の設計図作成における”気づき”がとても大切だと考えています。
そのため、HPなどで色々な方向から見た、タイムリーな情報発信を精力的に行うことで、そこから読者の皆さんに”気づき”が生まれればと期待しているところです。(ま)