大切なオートファジーを知ろう

さて今回は、オートファジーという生命維持システムのお話しです。

細胞に不具合が起きると、身体が機能しなくなり、病気になります。
つまり、健康とは細胞が健康ということであり、病気になるのは細胞が病気になっているからということなのです。
オートファジーは、細胞内を正常な状態に保つために、細胞内の物質を分解する、いわばリサイクル業者のような働きのことで、生命維持に欠かせない細胞がもつシステムのことです。
こうした働きは、細胞が自分で自分の中身を分解することから、自食作用、自己貪食(ギリシャ語の「Auto =自己を」「phagy=食べる」より)といわれています。

オートファジーの仕組みですが、実際には細胞の中にパックマンのような膜でできた構造が現れて、タンパク質などのさまざまな物質を包み込んで、それをリサイクル工場まで運びます。
工場では分解酵素の働きでそれらの物質を分解し、分解産物は細胞が再利用して新たな物質を合成しています。
オートファジーという細胞内の物質を分解する働きがあるからこそ、細胞の健康が守られていると言えます。

では、そもそもなぜオートファジーが必要なのでしょうか。
オートファジーの役割のひとつ目は、毎日少しずつ細胞の中身を分解して
細胞の中身の「入れ替え」を行うことです。
私たちは、人間にとって代表的な栄養素のひとつであるタンパク質を食物からとっていますが、全身の細胞では一日に約240gのタンパク質が合成されています。
この量は食べ物からとるタンパク質量のなんと4倍近い量になります。
食物からとったタンパク質だけでは到底足りません。
そこで、オートファジーが細胞の中の古くなったタンパク質をアミノ酸に分解して、新しいタンパク質を作る原料をまかなっているのです。
さらにオートファジーは、タンパク質に限らずほかの高分子や細胞小器官などをも分解して新しいものに作り替えています。
このように、オートファジーは様々な細胞成分を新しくする「入れ替え」を担っています。
まるで、自動車などの部品を毎日少しずつ新品と交換すると長持ちするのと同じように、細胞はオートファジーの仕組みによって何十日かすると新品に生まれ変わっているのです。
細胞内の「入れ替え」を行うときにオートファジーは、細胞内の物質をオートファゴソームという袋で包み込んでランダムに分解しています。
さらに、オートファゴソームは、無作為に回収を行うだけでなく、有害なものが細胞内に入り込んだりして現れるとそれを察知して有害物の排除をしに行きます。
例えば、細胞が病原性細菌やウイルスに感染すると、それらを包み込んで隔離し、リソソーム(細胞内消化の場である細胞小器官)に運んで分解して無害化します。
また、壊れたミトコンドリアからは強い毒性をもつ活性酸素が漏れ出して放置すると危険なため、壊れたミトコンドリアも包み込みます。
オートファゴソームが取り込む有害物は、数多くの種類に及びます。
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は、脳の細胞の中にタンパク質のかたまりができて細胞が死ぬことで起こります。
オートファゴソームは、そのようなかたまりを作るタンパク質を取り込んで分解し、病気を防ぐのです。
オートファジーは当時、飢餓状態にしたラットの肝臓から発見されました。
そのため、飢餓時にはオート(自己を)ファジー(食べる)により、栄養を確保するという役割があると推測されたのです。
そしてその後の研究において、栄養源の確保はすべての生物に共通するオートファジーの最も基本的な役割であることがわかりました。
ヒトのような高等な多細胞生物の場合においては、脂肪細胞のようなエネルギー貯蔵の細胞もありますので多少の飢餓には耐えられるのですが、それでも、オートファジーによる栄養確保は大切で必要であることがわかっています。

では、オートファジーは、私たちの生活にはどのような効果をもたらしてくれているのかをみていきましょう。
先ずは、昔から人類共通の願いである健康長寿です。
老化や寿命の研究が急速に進んだのはここ30 年くらいのことですが、そのきっかけとなったのは、1980年代、線虫の寿命に関する研究です。
それは、線虫がもつ一つの遺伝子を変えるだけで、2~3週間ほどの寿命が約2倍になるという報告でした。
これにより、寿命もプログラムされていることがわかり、これまでは「なんとなく老いていく」とされていた老化や寿命に対して、「寿命は制御できるもの」「長寿は研究対象になり得るもの」という風に、認識が変わっていったのです。
その後、寿命を延ばすメカニズムがいくつも報告されるようになると、次はそれぞれのメカニズムの共通項探しが始まりました。
その共通項の一つが、オートファジーの活性化です。
そうした研究が進む中で、歳をとるとオートファジーの働きが鈍ってくることもわかってきました。
加齢性疾患といわれるように、歳をとるとさまざまな病気になりやすくなります。
加齢性疾患の例としては、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経
変性疾患や加齢黄斑変性(主に加齢に伴って目の網膜の中心部にある黄斑に出血やむくみが現れ、視力が低下する病気)、加齢性の腎臓病、骨粗鬆症などがあります。
オートファジーを低下しないようにしたマウスの実験では、実際に加齢性疾患にかかりにくいという結果が出ています。
加齢による活動低下、パーキンソン病、腎臓病、黄斑変性、骨粗鬆症が、オートファジーを活性化することで抑制されたのです。

続いては、老化防止(アンチエイジング)についてです。
人生100年といわれるようになった今、高齢になってから自立した生活を維持するためにアンチエイジングに興味をもつ人も多くいるでしょう。
ここまで述べてきた通り、健康寿命を延ばすためには、細胞の機能に注目することが非常に重要です。
しかし、細胞の機能を低下させる外部刺激は、紫外線や汚染物質、ストレス、食生活の乱れ、ウイルスなど、私たちの周りにあふれています。
また、40歳を超えると、肌のシミやしわ、白髪などの見た目に加えて、食べすぎていないのに太ってきたり、階段で息が上がったりと、美容・健康の悩みが一気に現れます。
こういった外部刺激や不具合の一つひとつにサプリメントや化粧品で個別に対処するのが、従来のアンチエイジングの方法です。
しかし、このような対処療法的なケアでは外部刺激を完全に排除することは難しく、機能が低下した細胞は依然として残ったままで、本質的な改善にはなりません。
細胞のトータルケアを行うことで、新たなアンチエイジングへのアプローチができる可能性が生まれてきたと言えます。

最後は、免疫力の向上です。
オートファジーは、前述したように細胞内の入れ替えと有害物除去と飢餓時の栄養確保という3つの作用を通して細胞の健康を守っています。
特に有害物除去という機能の発見は、オートファジーの定義を書き換えただけでなく、新しい免疫システムという点でも注目を集めています。
生き物は体内に侵入してきた細菌などの有害物、いわば敵を排除する仕組みをもっています。
それが従来から知られている免疫システムのことで、それには自然免疫と獲得免疫があります。
自然免疫には、敵が血液などの体内に侵入するとマクロファージという細胞がそれらを食べてしまう仕組みがあります。
しかし、敵が各種の細胞の中にまで入り込んでしまうとマクロファージは何もできません。
以前はそうなるとなすすべがないと思われていました。
ところが、オートファゴソームには細胞内で敵を捕捉して分解する能力があることがわかりました。
つまり、生き物はどの細胞も免疫細胞の助けを借りずに有害物を排除できるという、これまで知られていたよりも広範な免疫システムをもっていたことが分かったのです。
細胞外ではマクロファージが担当して、細胞内ではオートファゴソームが担当するといった分業が整っているようです。
一方、獲得免疫とは、特定の敵の情報を長期にわたって記憶でき、敵に対する特異性が高いという特徴をもっています。
この特徴は、B細胞やT細胞が連動して働くことにより機能することが知られています。
B細胞は、特定の敵にだけ結合する抗体と呼ばれるタンパク質を分泌し、それを使って敵を攻撃します。
また、キラーT細胞は特定の敵が感染した細胞を攻撃し、感染細胞ごと排除します。
これらのB細胞やT細胞の機能維持にもオートファジーは働いており、様々な点で免疫力全体にオートファジーは極めて重要です。

それでは、最後に年齢とともに低下するオートファジーを活性化するためには、どうしたらいいのかをみていきましょう。
まず、なんといっても普段の生活習慣を改善することが大事です。
例えば、適度な運動でオートファジーが活性化することが知られています。
なかでもウォーキングなどの有酸素運動は、より効果があるといわれています。
また、高脂肪食をとると肝臓のオートファジーが低下するので、そういった食事は避けたほうがよさそうです。
カロリー制限によりオートファジー活性化を介した寿命延長が起こること
が知られているので、腹八分目を心掛け、食事や間食を避けることもいいでしょう。
夜間の睡眠時にオートファジーが活性化するので、夜しっかり眠ることも大事です。
一方栄養を取ると一時的にオートファジーは抑制されるので、早めの夕食などの食べ方にも注意が必要です。
こうした食生活や運動などによって、オートファジーを活性化させる習慣を早くから身につけていると、健康寿命を延ばすことができるかもしれません。

読者の皆さんも、オートファジーを活性化するためにやるべきことややってはいけないことを理解して、やるべきことを継続することで健康寿命の延伸を図っていきましょう!(ま)