命を守るハザードマップを活用しよう

さて、今回はハザードマップの活用についてのお話しです。

ハザードマップとは、自然災害による被害を予測し、その被害範囲を地図化したものです。
今風に言えば、自然災害の被害範囲を見える化したものです。
防災マップ、被害予測図、被害想定図、アボイド(回避)マップ、リスクマップなどの名称で作成されている場合もあります。
ハザードマップは土地の成因あるいは地形や地盤の特徴をもとに、被害想定区域、避難経路や避難場所、防災関係施設の位置などの防災地理情報が地図上に図示されています。
被害予想地図を利用することにより、災害発生時に住民などは迅速・的確に避難を行うことができ、また二次災害発生予想箇所を避けることができるため、災害による被害の低減にあたり非常に有効であるといえます。
しかしながら、既存のハザードマップの作成に用いられた地形や土地条件などの基礎情報のみでは災害に対する予想外の事態への対策が難しいことは否めません。
そのため、日本では、ハザードマップで指定された避難場所が自然災害に遭う事例が存在することもあります。
近頃では、非常に強い台風が日本付近まで勢力を維持したまま近づいて上陸したり、線状降水帯の発生が数多く見られて各地に大雨を降らせて、山間部では土石流や土砂崩れで尊い命が奪われたり、家屋などに被害が生じています。
平野部では河川の氾濫や堤防の決壊を引き起こして家屋への浸水をまねいたり、耕作地に大きな被害が出ています。
被害者の方々のインタビューでは、何十年も住んでいるけどこんな経験は始めてといった言葉がよく聞かれます。
正に、100年に1度のことが毎年のように日本全国で起こっています。
これからは、最近の被害状況をデータ化していただき、それを基に想定外のことが起こらないように新たなハザードマップの作成や従来のハザードマップの大幅な見直し・アップデートが必要になることは必至と言えるでしょう。
日本では、ハザードマップの作成は1990年代より防災面でのソフト対策として作成が進められていますが、自然災害相手だけに発生地点や発生規模などの特定にまで及ばないものも多く、また予測を超える災害発生の際には必ずしも対応できない可能性もあります。
掲載情報の取捨選択、見やすさ、情報が硬直化する危険性などの問題も合わせて試行錯誤が続いているのが現状です。

ハザードマップに関してのことといえば、2000年の有珠山噴火の際に、ハザードマップに従い住民・観光客や行政が避難した結果、人的被害が防がれたことで注目されました。

また、2011年3月11日に発生した東日本大震災の際、100年に1度の大災害に耐えられるとされていた構造物ですら災害を防ぐことができなかった結果を受けて、国や地方自治体は構造物で被害を防ぐよりも、人命を最優先に確保する避難対策としてのハザードマップ に注目しています。
そして新たなハザードマップの作成、ならびに従来のハザードマップを大幅に見直して、ハザードマップの策定過程において地域住民も参画してもらうことで、地域特性の反映や、住民への周知、利活用の促進、さらには地域の防災力の向上を見込んでいます。

では、具体的にはどのような種類の災害に対してのハザードマップがあるのかを見ていきましょう。

◯河川浸水洪水(破堤等の河川氾濫・水害・治水)
主に河川の氾濫を想定した「洪水ハザードマップ」を言うことが多いです。
この地図は、下記の浸水想定区域図に、地方自治体が、避難場所等を書き加えたものです。
水防法に基づいて、堤防が決壊した際の浸水想定区域およびその際の水深を示した「浸水想定区域図」が作成されています。
「水防法及び土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律の一部を改正する法律」によって、浸水想定区域の指定対象河川の拡大及び浸水想定区域における警戒避難体制の充実等がはかられました。
(浸水想定区域の指定対象河川を主要な中小河川まで拡大して、特別警戒水位の到達情報を周知等すること。浸水想定区域内の主として高齢者等が利用する施設への洪水予報等の伝達及び地下施設における避難のための計画の作成等により、警戒避難体制を充実しました)
大量の雨水が下水設備の処理容量を超えたため発生する内水氾濫(※)による洪水の予想範囲を表示しました。
※内水氾濫:市街地などに短時間で局地的な大雨が降ると、下水道や排水路が水をさばききれなくなり、溢れだした雨水が建物や土地、道路などを水浸しにすること。

◯土砂災害
土石流の発生渓流、がけ崩れの危険地などを表示しました。
土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律に基づき、都道府県知事による土砂災害警戒区域の指定が行われ、これを地図上に平面的に図示した「土砂災害警戒区域図」が作成されます。
「水防法及び土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律の一部を改正する法律」により、災害時要援護者(災害弱者)の利用する施設への対応(これら施設への土砂災害情報の伝達方法を市町村地域防災計画に規定)や、土砂災害ハザードマップの配布が義務化(土砂災害情報等の伝達方法、避難場所などの周知の徹底)がされました。

◯地震災害
液状化現象が発生する範囲、大規模な火災が発生する範囲などを表示

◯火山防災
火口が出現する地点(範囲)や、溶岩流・火砕流・火砕サージ(火山灰と空気の混ざった高熱の爆風)の到達範囲、火山灰の降下する範囲、泥流の到達範囲など(火山災害予測図参照)を表示火山ハザードマップの利用には、特有の注意点があります。
地図に示される火山の諸現象は、一瞬(短時間)で発生するものではなく、時間とともに変化しながら発生します。
また新たに出来る可能性のある火口の位置も予測であり、従って泥流等の流下範囲も予測になります。

◯津波浸水・高潮
浸水地域、高波時通行止め箇所などを表示

このほか、特定の災害を対象とせず、避難経路や避難場所、防災機関等の情報を表した地図を「防災マップ」と呼ぶことがあります。

自然災害はいつどこで発生するか分かりません。
最近の日本で起きた災害についてピックアップしてみました。
直近の地震では、2024年1月に石川県能登半島で震度7を観測した 能登半島地震があります。
また、豪雨災害では先月に同じく能登半島で地震の傷が癒えていない被災地を豪雨が襲いました。
2021年7月の静岡県熱海市伊豆山地区の逢初川で発生した大規模な土砂災害では、住宅131棟が被害を受け、小規模なものも含めて10回以上の土石流が繰り返し発生しました。
更に、「異常気象分析検討会」の専門家は「今年の暑さも昨年と同様、異常気象といって差し支えない」と、繰り返される猛暑の夏を異常な状態だとおっしゃっています。
10年前になりますが、2014年9月27日11:52に長野県と岐阜県の県境に位置する御嶽山が、登山客が山頂に多数居る時間に突然噴火して多くの登山客が巻き込まれました。
噴火警戒レベル1の段階の火山が突如噴火したことで、日本における戦後最悪の火山災害をもたらしました。
ここに紹介した自然災害はほんの一部に過ぎません。日本においては毎年のように大雨や台風、地震による被害は発生しています。
私も学生時代、鹿児島県の与論島で猛烈な台風に遭遇し、宿泊していた民宿の屋根がそっくりそのまま吹き飛ばされ、命の危険を感じた経験があります。

読者の皆さんも、いつ自分自身が被害者となりうるかはわかりません。
また、自然の驚異は私たちの想定外のことをいとも簡単に起こしてしまうことがあります。
最近では竜巻注意情報や線状降水帯による大雨の予測の情報が出されるようになり注意喚起ということからすれば10年前とは格段の進歩と言えますが、高齢化が進む中でいざ避難となれば、避難するタイミングによってはそれ自体がリスクを上げてしまうことに繋がる恐れもあります。
今後はハザードマップを参考にしていただきながら想像力を発揮していただき、色々なケースにおける自身の避難のあり方をシミュレーションしていただければ幸いです。
自分だけでなく家族や近隣住民と情報共有しながら、大切な命と財産を守るため、これからは少しでもリスクの低減ができるバイブルとしてのハザードマップの活用をお薦めしたいと思います。(ま)