台風に備えよう!
私はこの季節になるとあることを思い出します。
それは学生時代に、旅行先だった与論島で出会った「台風」のことです。
「台風」は、与論島の北にある沖永良部島の付近を、中心気圧906hPa(ヘクトパスカル)で通過して、テント泊では危険だと避難していた民宿の屋根が屋根ごとそっくり吹き飛んで、その時生まれて始めて身近に「死」の恐怖を感じる経験をしたことです。
今回の話題は、私が台風銀座と呼ばれる南西諸島で遭遇した屋根も簡単に吹き飛ばすほどの凄まじいエネルギーの持ち主である「台風」について、その特徴を見ていくと共に、「台風」にどう対処して被害を最小限に食い止めるかをお伝えしていこうと思います。
そして、最近の「台風」について、過去からのセオリーが通用しなくなってきていることにも少し触れてみたいと思います。
では、今回の主役である「台風」のプロフィールをみていきましょう。
熱帯地方や亜熱帯地方の海洋上に発生・発達する低気圧である熱帯低気圧のうち、北西太平洋にあって最大風速が約17m/s以上となったものを「台風」といいます。
「台風」のほかにハリケーンやサイクロン、タイフーンと呼ばれる熱帯低気圧がありますが、「台風」は日本だけで用いられている名称で、その基準も日本独自で、最大風速が秒速17.2メートル以上の熱帯低気圧のことをいいます。
別名で呼ばれるこれらの熱帯低気圧は発生する場所で呼び名が異なるだけで、国際基準によって最大風速が秒速32.7メートル以上に達した熱帯低気圧の呼び名となっています。
では、「台風」となる熱帯低気圧の仕組みを見ていきましょう。
水蒸気から雲ができるときには、熱を出してまわりの空気を温める性質があります。
大量の雲が出来てまわりの空気を温めると、温かい空気は軽いのでその下では気圧が下がります。
気圧が下がるとまわりの空気が大量の水蒸気とともに集まって、ぶつかって上昇するため、新たな雲を作ります。
すると、また熱を出して気圧が下がってというように、どんどん雲の集まりも低気圧も発達していきます。
このような仕組みで発達する低気圧が熱帯低気圧で、中でも発達したものが「台風」というわけです。
この仕組みのキーポイントは、水蒸気から雲が出来る時に出る熱なので、水蒸気の量が多いほど熱帯低気圧は発達しやすくなります。
また、海の温度が高いほど大量の水蒸気が蒸発して空気中の水蒸気が増えるため、海の温度が高いほど熱帯低気圧は発達しやすいといえます。
そのため、熱帯低気圧は温かい熱帯の海上で発生して発達します。
逆にあまり温かくない海の上や陸上では、空気中の水蒸気が補給されにくくなることで水蒸気の量が減るため熱帯低気圧は弱まります。
次に、「台風」の激しい活動について見てみましょう。
「台風」の近くには発達した積乱雲が集まっていて大雨となります。
また、中心に近いほど風が強く暴風となります。
特に「台風」が進む右手側では、「台風」のまわりの反時計回りに回っている渦のスピードに「台風」が進むスピードが加わることで、風が一層強まります。
例えば、「台風」が北東に進んでいる場合は、「台風」の南東側で特に風が強まります。
さらに、暴風によって波も高まります。
高い波はうねりとなって遠くへも伝わるため「台風」が近づくだいぶ前から波が高くなることがあります。
また、高潮が発生して大きな被害が出ることもあります。
「台風」から離はなれた場所でも、「台風」の東側では温かく湿った南よりの風が吹き続けるため、前線や山の近くなどの上昇気流の発生しやすい場所では雲が発生し続け大雨となる恐れがあります。
次に、「台風」の進路について見てみましょう。
「台風」の進路は、貿易風(低緯度で東から西に吹く風)と偏西風(中緯度で西から東に吹く風で別名ジェット気流)とその間にある太平洋高気圧のバランスによって決まります。
低緯度で発生した「台風」は、貿易風により、西に進みます。
「台風」は進むための自前のエンジンを持たないため、太平洋高気圧の風の力を借りて高気圧の縁に沿うように進みます。
夏から秋には、太平洋高気圧が日本まで広がるので、台風もそのまわりを回るようにして進行方向を変えて北上し、中緯度に達すると今度は偏西風により東に進むようになります。
次に、注意すべきところをお伝えしましょう。
「台風」は温帯低気圧にかわっても、油断は禁物だということです。
温帯低気圧は、大規模な温かい空気と冷たい空気の境目である前線の近くで発達する低気圧です。
発達する温帯低気圧は、全体としてみると前線の南側の温かい空気が上昇し、前線の北側の冷たい空気が下降するつくりになっ ています。
つまり、横の拡がりが1000km以上に及ぶ大規模な地球規模の対流現象のようなものだと考えてください。
上昇気流のあるところでは雲ができるので、低気圧や前線の東側で雲が多く発生します。
「台風」が温帯低気圧にかわるとは、発達する仕組みがかわるという意味です。
ここが一番間違えやすいですが、雨や風などが弱まるという意味では決してありません。
天気図を見れば一目瞭然ですが、気団同士のぶつかりあうところに発生する温帯低気圧と異なり、「台風」は単独で動く積乱雲の塊と言っていい低気圧のため、前線を伴うことがありません。
「台風」から温帯低気圧にかわった後に、雨や風などが強まる場合も当然出て来ますので、「台風」が温帯低気圧にかわっても油断は禁物です。
それでは、ここからは9月から10月にかけて日本列島へ近づいて、大きな被害をもたらす「台風」にスポットを当てて、被害を最小限に食い止めるために私たちが出来ることを考えていきたいと思います。
気象庁のHPに、「台風への備え5箇条」なるものを見つけましたので紹介しますね。
①家の外の備えを行いましょう(大雨が降る前、風が強くなる前に済ませましょう)
⭕窓や雨戸はしっかりと鍵をかけ、必要に応じて補強しましょう
⭕側溝や排水口は掃除して水はけを良くしておきましょう
⭕風で飛ばされそうな物は飛ばないように固定したり、屋内へ格納しましょう
②家の中の備えを行いましょう
⭕非常用備品を確認しましょう(懐中電灯、携帯用ラジオ(乾電池式)、救急用品など)
⭕室内からの安全対策をしましょう(窓ガラスに飛散防止フィルムやテープなどを貼ったり、カーテンやブラインドを下ろすなど)
⭕水の確保をしましょう(断水に備えて飲料水を確保したり、浴槽に水を張って生活用水を確保するなど)
⭕非常用食品を準備しましょう(乾パンやクラッカー、レトルト食品、缶詰など)
③避難場所の確認を行いましょう
⭕学校や公民館など、避難場所として指定されている場所への避難経路を確認しましょう
⭕日頃から家族で避難場所や連絡方法などを話し合っておきましょう
⭕避難するときは持ち物を最小限にして、両手が使えるようにしましょう
④気象台が発表する「台風情報」や「警報・注意報」など情報の入手を行いましょう
⭕気象台では、台風の影響が考えられる場合や雨などにより重大な被害が発生する恐れがあるときには、「台風情報」や「警報・注意報」を発表しますので、テレビやラジオ、気象台ホームページから最新の情報を入手しましょう
⑤台風接近中は不要な外出は控え、危険な場所へは近づかないこと!
⭕雨で増水した小川や側溝は境界が見えにくくなり、転落事故などが発生するリスクが高まります
⭕大雨のため、山崩れ・がけ崩れも起こりやすくなりますので、日頃は安全と思われている場所でも油断せず、危険な場所へはむやみに近づかないようにしましょう
⭕台風が接近し暴風となると、風により物が飛ばされたり、飛んできた物にぶつかったり、車が転倒したりする恐れがありますし、風に煽られてドアや扉に手や指を挟まれるなどの被害も発生しますので、不要な外出は避け台風が過ぎ去るのを待ちましょう
⭕海上や海岸付近では台風接近前から波が高くなり、台風が通過した後もしばらくは波が高いことが多いですので、 台風接近時は海上や海岸付近に高波を見に行くなど危険な事はやめましょう
最後に最近の「台風」の特徴に触れておきましょう。
どうやら、日本付近では温暖化の影響で海面の水温が上昇し、水蒸気を供給し続けるため「台風」の勢力が弱まらないまま日本本土まで北上するようになってきているという傾向は確かに見られます。
しかし、気象学者の研究段階では今も議論が続いています。
というのも、たった1つの「台風」だけを見て『温暖化のせいだ』とは言い切れないからで、今後はもっと長期的なデータの蓄積と分析が必要だと言うことです。
その中でも、まだ記憶に新しい9月上旬に九州から関東へ日本列島を横断した台風15号は、異例の「台風」だったと言えます。
各地に記録的短時間大雨情報が発表されたり、あちこちに線状降水帯が発生したり、また竜巻とみられる激しい突風も吹き荒れて、大きな被害をもたらしました。
しかし、四国や紀伊半島へ上陸した段階では、中心気圧が1000hPa、最大瞬間風速は25mとなっていて、いわば「台風」としてはギリギリの勢力で東進していました。
その後も同じような勢力での東進が予想されていましたが、紀伊半島の東に出た頃から発達をしはじめたため、房総半島に達した夕方頃にはなんと中心気圧が992hPa、最大瞬間風速35mという勢力に発達していました。
この原因と考えられることは、日本の南海上の海水温が31℃以上もあって多量の水蒸気が供給されたため、前述した「台風」発達の仕組みそのままに、弱まるどころかより強い「台風」へと発達したと考える方が正しいのかも知れません。
もしそうであれば、太平洋側の陸地沿いを進む「台風」としては、今までのセオリーでは考えられない異例の発達を成し遂げたといえます。
今後は、日本の南海上の海水温が台風を発達させる若しくは勢力を維持できる温度であれば、今回の台風の動向は異例ではなく恒例となってしまい、私たちのQOLにもネガティヴな影響を与えてしまうことは十分に想像に難くないでしょう。(ま)


