化学物質をよく知ろう!

さて、今回の話題は、環境、特に人を含む生態系への懸念が指摘されている有機フッ素化合物(PFAS:ピーファス)にまつわるお話しです。
こういった話題は余り好まれない題材ですが、私たちや子や孫たちの命に関わることですし、将来の地球環境に大きく影響を及ぼすことですので、頭の片隅で結構ですからしっかりと収めておいてくだされば幸いです。

さて、この有機フッ素化合物(PFAS:ピーファス)とはあまり聞き慣れないものですが、果たしてその中身はどのようなものなのか見ていくといたしましょう。

PFASの中でも、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)は、幅広い用途で使用されてきました。
これらの物質は、難分解性、生物蓄積性、人や生物への高毒性、長距離移動性という性質があるため、国内で規制やリスク管理に関する取り組みが進められています。 
私たちの身の回りには、プラスチックや塗料、薬品、合成繊維、農薬など人工的に作られた製品が数多く使われていて、健康で快適な生活を送るためには、欠かせないものとなっています。
しかし、 これらの化学物質には、使い方を間違えると人や生態系へ悪影響を及ぼすものもあります。
そのため、 法律や条例などで使用が禁止されたり、制限されたりしていますし、環境基準や排出基準が定められたりしている化学物質もあります。

今スポットライトを当てているこれらの物質は、炭素(C)とフッ素(F)が結合した部分を持つ有機フッ素化合物で、このC-F結合が化学的に安定なため通常の環境中では中々分解されにくいという特徴があります。

特にPFOS、PFOA は、耐熱性や耐薬品性に優れた界面活性剤で、PFOSは主に半導体製造や金属メッキの薬剤、泡消火剤、殺蟻剤など、PFOA は主にフッ素樹脂製造の助剤、繊維、医療、食品包装紙など、それぞれ様々な分野で1950年ごろから約半世紀にわたって利用されてきました。
身近なところでは、防水スプレーやレインコートなどさまざまな生活用品に幅広く活用されてきました。
これらの物質による環境汚染が2000年頃にアメリカの研究者により明らかになり始め、日本各地でも調査が行われるようになると、沖縄や東京多摩地区、大阪などの地域で水の汚染が起きていることが分かりました。
その後も各地で調査が続き、2022年の環境省の発表では、国内16都府県の111地点の河川、地下水で暫定目標値(1リットル中、50ナノグラム以下)を超える数値が検出されています。

PFASは分解しにくい性質があるため、「永遠の化学物質」と呼ばれ、自然環境中に長く残留します。
そして、残留したPFASが土壌に入っていくと地下水に浸透し、水道水にまで汚染を広げていくといわれているのです。
一番有名なデータは、1990年代にアメリカの化学メーカーであるデュポン社の工場があった汚染事例において、地域の住民7万人ほどのPFAS摂取量と健康影響を調査した結果です。
PFASは、動脈硬化にもつながる血液中のコレステロール値の高さや、腎臓がん、精巣がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎、妊娠高血圧症との間に関連性が高いという結論が発表されました。
関連性が高いというのは、必ずその病気になるというものではありませんが、発症する確率、リスクが上昇しているということです。

また、母体の血液中PFAS濃度が高かった場合、生まれてきた子どもの体重が低下する傾向にあるといわれています。
アメリカやヨーロッパで行われた調査では、子どもの免疫力に影響が出るともいわれており、ワクチンを打ったあとに血液中に抗体ができづらいという事例もあるようです。
他にも肝臓への影響もあるという研究結果も出ています。

一昨年の5月に国がPFOSとPFOAを要監視項目に指定し、指針値(暫定)が設定されました。
要監視項目というは、「人の健康の保護に関連する物質であるが、公共用水域等における検出状況等からみて、ただちに環境基準とはせず、引き続き知見の集積に努めるべきもの」という定義がされています。

残留性有機汚染物質(POPs)に関しては、ストックホルム条約(POPs条約)において、環境中での残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念されるポリ塩化ビフェニル(PCB)、DDT等の残留性有機汚染物質の製造及び使用の廃絶、排出の削減、これらの物質を含む廃棄物等の適正処理等が規定されています。
国際的に協調してPOPsの廃絶、削減等を行う必要から、2001年5月「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」が採択(各国代表者が集まって話し合い、国際条約の内容に合意し、調印すること)されました。
このストックホルム条約は、その後2004年5月17日に締約国数が50ケ国となったことにより条約が発効しました。
そして、2018年12月現在、151ヶ国及び欧州連合(EU)が署名(条約の内容が確定したとき、国家の代表者が条約の趣旨や内容を公式に確認し、基本的な同意を表明することを指し、その証拠として「記名」をします)しており、2020年3月時点で、加盟国は我が国を含む181ヶ国及びEU、パレスチナ自治区が締結(条約に拘束されることについて、国家の合意を確定すること。
日本の場合は国権の最高機関である国会の承認がそれに当たります)国となっています。

国際的な多国間の条約においてよく出てくる用語として、採択・署名・締結といった専門性の高い言葉を出してしまいましたが、結論から言えば、ストックホルム条約(POPs条約)は、科学的なエビデンス(内容の根拠や裏付け)を積み上げていって、いくつかの段階を経て多くの国家・地域が、国家や地域の枠組みにとどまらない地球規模での人の健康を害する可能性が指摘されている化学物質を特定して、利用については全く使用しないで廃絶へと持っていったり、健康被害のない程度の濃度に押さえたりすることの必要性の理解が万国共通事項となっている内容の条約だということです。

ここに挙げた化学物質は、人の生活に大変便利な面を持っています。
それ故に、これだけの便利さを失いたくないと考えてしまいがちです。
マイクロプラスチックの海洋汚染も、同様の考え方に基づくといえます。
今や日常生活に欠かせなくなっているペットボトルやビニール袋も、人の浅はかなポイ捨てによって長い時間をかけて自然界の中で分解され、マイクロプラスチックへと変化していきます。
マイクロプラスチックの海洋汚染も、PFASの規制と同様により良い地球環境を守るため、私たちが日々日常の中でできることに辛抱強く取り組むことが求められているといえます。

先にも言いましたが、人間が作り出した化学物質は、扱い方によっては社会全体にとって大変有意義なものになる反面、ネガティブな面に蓋をするような扱い方をしてしまうと、今を生きているありとあらゆる生あるものへの影響だけでなく、その子孫までもが生きる権利を脅かされる可能性を秘めていると言えます。
読者の皆さんには、これらの物質が自分自身だけではなく、地球環境全体への影響があること、そして未来へも多大な影響をもたらしてしまうことに十分な理解を持っていただき、well-beingを叶えるためのにも、正しい化学物質の在り方・利用の仕方を社会だけでなく、個人としてもPFASを通して考える機会としていただければ幸いです。(ま)