健康経営とウェルビーイング
さて、今回の話題は「健康経営とウェルビーイング」についてのお話です。
48.3歳がもっとも幸福度が小さい?
世界各国のデータから幸福度と年齢の関係を調べた研究で、幸福度はU字型の曲線で推移し、48歳前後が幸福の底になることが分かったそうです。
少し前に読んだ日本経済新聞の記事では、内閣府の「満足度・生活の質に関する調査報告書2024」でも、40歳以上のミドル層の生活満足度の低さが明らかになっている、と書いてありました。
ミドル層は、「家計と資産」「子育てのしやすさ」などの満足度が低下する傾向にあるようで、現在48歳前後の方は日本では就職氷河期世代と重複することも影響しているのではないかということです。
この当時の就職事情とは逆に、近年では人手不足を背景に売り手市場となり、大手企業では初任給を30万円以上に引き上げたり、福利厚生の一環として社員が大学時代に借りた奨学金を代わりに返済する企業などもあり、良いこととはいえ、なんともやるせない気持ちになったりもします。
就職事情や働き方についての環境はここ数年で大きく変わりました。
そこで今回は、近年とくに注目されている「健康経営」について、取り上げてみたいと思います。
「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。
健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つです。(経済産業省HPより)
経済産業省では、この「健康経営」に係る各種顕彰制度として、平成26年度(2014年度)からこの「健康経営銘柄」の選定を行っており、平成28年度(2016年度)に「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。
健康というと厚生労働省の管轄かな?と思ってしまいますが、この認定制度は経済産業省が創設したんですね。
「健康経営優良法人認定制度」は、従業員数の多い大規模な企業等を対象とした「大規模法人部門」と、中小規模の企業等を対象とした「中小規模法人部門」の2つの部門を設けていますが、その認定数は年を追うごとに増加し、2024年には大規模法人部門2,988法人、中小規模法人部門16,733法人が認定されています。
特に最近では、中小企業の申請数が顕著に伸びており、2025年の申請社数は初めて2万社を超え、過去5年で3.3倍まで増えているほどで、すごく人気のある認定制度となっています。
やはり、現在は少子高齢化の影響で人手不足がますます進み、人材の確保や企業価値の向上のため、働きやすい環境を整備する動きが広がっているからでしょうか。従業員の健康に配慮した経営を行うことによって、生産性も従業員のエンゲージメントも向上できるのですから当たり前と言えば当たり前かも知れませんね。
実は、私にとって大変残念な想い出があります。会社員(現役)時代のことですが、この健康経営優良法人認定制度への申請を役員に打診したことがあったのですが、当時は経営トップのコミットメントも期待できず、社内での関心が高まらないままお蔵入りとなりました。
今ではそのようなことは考えられないと思いますが、苦い想い出です。
この健康経営優良法人の認定を受けることで、健康経営優良法人ロゴマークを企業のPRなどに使用できるほか、国や公共団体・公法人等によるさまざまなインセンティブがあります。例えば補助金申請時に加点等の優遇措置が受けられたり、融資で優遇利率が適用されたりするしくみもあります。
さらに、実際に健康経営を実践されている企業等では、以下のような大変有益な効果を実感されています!
●従業員の健康意識が向上し職場風土が改善した!
●これまで人材不足で人繰りに困っていたけど、健康経営の実践 により従業員の満足度が高まり離職率が下がった!
●従業員の生産性が上がり業績向上につながった!
●企業のブランド価値が向上し自社事業の推進につながった!
特に、人材不足の企業においては、従業員の Well-being 度(心身の健康・幸福度)が高まって、離職率が下がることは大変ありがたい効果です。
このように人気の認定制度ですが、申請に向けた情報収集に当たっては注意も必要です。
経済産業省のHPには下記のような注意喚起も出ています。
※経済産業省からの委託と称する健康経営セミナーなどへの勧誘にご注意ください。
健康経営優良法人に認定されると補助金や助成金が受けられるとの内容で、経済産業省から業務委託を受けていると称して、健康経営セミナーへの勧誘やコンサルティングを持ち掛ける事業者が存在するとの情報が寄せられています。
経済産業省では、個別事業者を対象とした健康経営に関する営業電話について、一切関与していません。また、健康経営優良法人認定制度は、認定を受けることで直接的に金銭を享受できる制度ではありませんのでご注意下さい。
健康経営優良法人認定制度に関する情報は、令和5年度の健康経営制度運営補助事業者である日本経済新聞社が運営する健康経営ポータルサイト「ACTION!健康経営」に掲載されていますの で、下記よりご確認下さい。
●健康経営ポータルサイト「ACTION!健康経営」:https://kenko-keiei.jp/
※「健康経営」は、特定非営利活動法人 健康経営研究会の登録商標です。
といった内容です。
それだけ注目されていることの裏返しかも知れませんね。
現代の働き方において、健康経営とWell-being(ウェルビーイング)は重要なキーワードとして注目を集めています。
一昔前までの企業文化は、慣例的な働き方や組織重視の働き方によって、個々の従業員の健康や幸福に目を向けることは少ない傾向にありました。
しかし、コロナ禍を経て、国内総生産(GDP)では捉えられない人々の幸福度や満足度が改めて見直されるようになりました。
企業の取り組みも、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業成長につなげる「人的資本経営」を推進する上で、個人の主観的な幸福感を意味する「ウェルビーイング」の重要性はますます高まっています。
今後、少子高齢化の急速な進展によって、健康経営の取り組みはさらに進化し、より多様な価値観やライフスタイルに対応する形で広がっていくことが予想されます。
総務省が1月31日に公表した2024年の就業者数は、6781万人と前年から34万人増え、比較可能な1953年以降で最多となりました。
女性やシニア層の就労が広がったことが要因ですが、残念ながら、人手不足はまだまだ解消されておりません。
研究機関の推計によると、2040年時点の就業者数は最も低いシナリオですと5768万人まで落ち込むとのデータもあるくらいです。
2025年は、団塊の世代(1947~49年生まれ)がすべて75歳超の後期高齢者となり、バブル入社の世代(1987~93年頃)も55~61歳になります。
就業人口のボリュームゾーンであった人々が次々と退職年齢となれば、今後はますます労働力不足が進むでしょう。
シニア層の年齢別の就業率は、加齢とともに下がってきます。
総務省の労働力調査(2024年11月)では、55~59歳の就業率は88.1%ですが、60~64歳では76.3%、65~69歳は55.2%、70~74歳は36.0%、75歳以上になると12.2%となってしまいます。
シニアが希望すれば、生涯現役でイキイキと働き続けることのできる社会が理想ですが、現状はまだまだ、シニアの希望する働き方で就業先を探すのは困難な状況にあります。
就業機会を増やすためにも、例えば、最近注目されているスポットワーク(短時間や単発で働く働き方)での就業機会を増やすことは非常に有効な試みといえるでしょう。
2024年11月12日、ISO(国際標準化機構)では、国際的な枠組みを示す国際規格ISO 25554:2024「高齢化社会 -地域や企業等でウェルビーイングを推進するためのガイドライン」が発効されました。
この国際規格によって、世界的にも高齢化が進む社会において、地域や企業などの組織がウェルビーイングを推進するための枠組みと実践方法が初めて示されることとなったわけですが、発案から採択に至るまでの標準化への議論が日本主導で行われてきたことは大変意義深いことで驚きました。
これはすごいことです。
健康経営とウェルビーイングの実現は、企業にとっても従業員にとっても、Win-Winの関係を築く重要な要素です。
従業員が健康で充実した生活を送れるように支援することは、個々のQOLを向上させるだけでなく、企業の持続可能な成長にとって不可欠です。
ウェルビーイングの概念はSDGs(持続可能な開発目標)とも関連しています。
「3. すべての人に健康と福祉を」や「8. 働きがいも経済成長も」といった目標に含まれています。
そのためには私たち一人ひとりも、より良い人生に向かって、心身の健康と幸福に意識を向けることが大切です。誰もが「ウェルビーイング」を追求することで、「誰ひとり取り残さない」、より良い社会を築いていけるのではないでしょうか。(ふ)