健康寿命再考
さて、今回の話題は、QOLジャパンの目標でもある健康寿命について、以前このメルマガでも触れましたが、最新の統計も交えて再考してみたいと思います。
厚生労働省によると、健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことをいいます。
厚生労働省が2022年の日本人の「健康寿命」を発表しましたが、それによると、「健康寿命」男性72.57歳・女性75.45歳となっています。
なお、「平均寿命」は男性81.05歳・女性87.09歳となっていて、「健康寿命」と「平均寿命」にはそれぞれ約8.5歳、約11.6歳程の差があります。
「健康寿命」と「平均寿命」の差は、日常生活に制限のある「不健康な期間」を意味していて、国は健康寿命の延伸、即ち、健康寿命と平均寿命との差を縮小することが重要だとしています。
最近気になることは、75歳(後期高齢者)を待たずに亡くなられる有名人が多いことです。
平均寿命は男性、女性ともに80歳代にもかかわらず、人生100年時代と言われるいま、75歳前というのはいかにも早すぎます。
「Dr.スランプ」や「ドラゴンボール」で知られる漫画家の鳥山明さんが、68歳で亡くなったことが報じられ、世界のアニメファン達が悲しみに包まれました。
死因は急性硬膜下血腫でした。
また、同じ日に国民的アニメ「ちびまる子ちゃん」でまる子を演じる声優のTARAKOさんが63歳で急死したことも伝えられアニメ界の相次ぐ訃報に驚きを隠せませんでした。
男女とも、平均寿命が80歳代であるにも関わらず、70歳代の有名人の死のニュースも昨年来、多いように感じます。
八代亜紀さん(歌手、73歳=膠原病・急速進行性間質性肺炎)、坂本龍一さん(ミュージシャン、71歳=直腸がん・肺転移)、谷村新司さん(ミュージシャン、74歳=急性腸炎)、伊集院静さん(作家、73歳=肝内胆管がん)、門田博光さん(元プロ野球選手、74歳=糖尿病・脳梗塞)、大橋純子さん(歌手、73歳=食道がん)、もんたよしのりさん(ミュージシャン、72歳=大動脈解離)らが亡くなり、皆さん後期高齢者へ入ろうかという75歳前のことです。
鳥山さん、TARAKOさんのように70歳代を待たず世を去った方もいます。
北別府学さん(元プロ野球選手、65歳=成人T細胞白血病)、寺尾常史さん(元大相撲・寺尾、60歳=うっ血性心不全)、長岡末広さん(同・朝潮、67歳=小腸がん)、KANさん(歌手、61歳=メッケル憩室がん)…。
このように列記すると、有名人ほど早死にするように思えます。
しかし、それは印象にすぎないでしょう。
有名人は訃報が大きく取り扱われますが、突出して多いというデータはありません。
一方、印象が生まれる余地がない日本人全体の統計から、75歳以前の死亡者数を見てみると、確実に増えています。
なぜなら、現在75歳前の世代というのは、日本の人口が最も多い「団塊世代」(1947~49年生まれ)とそれに続く世代だからです。
厚労省の「簡易生命表」によれば、男女共80歳を越えている平均寿命を待たずに多くの人が亡くなっています。
そして、平均寿命より重要なのは健康寿命(男性72.57歳、女性が75.45歳=2022年調べ)です。
健康寿命は平均寿命よりはるかに早く来るのです。
厳しい現実を述べると、平均寿命まで生きる人は約半数で、健康寿命を境に多くの人が亡くなります。
もっと現実的に言うならば、男性は約4分の1が75歳までに亡くなり平均寿命の81.05歳には半数が亡くなります。
女性も85歳までに約3分の1が亡くなり、平均寿命の87.09歳までに半数が亡くなります。
このように見てくると、後期高齢者になる75歳前後にハードルがあることがわかります。
それでは75歳を待たずに亡くなる人がなぜ増えているのでしょうか。
無事通過するには、生活を若い頃と大きく変える〝65歳以前の努力〟が必要だと言われ始めています。
「75歳」を無事通過するためには、その10年前、いわゆる高齢者と呼ばれるようになる65歳、あるいはそれ以前からの努力が必要です。
食生活、運動生活などを若い頃と大きく変える必要があります。
人は年を取ってから初めて「残りの人生、精いっぱい生きよう」という思いを持ちます。
しかし、現実には年を取ってからでは遅いのです。
才能ある人ほど生き方を変えようとしないで、若いときと同じように生きようとするのです。
前にも言いましたが、我が国の高齢化が急速に進む中、国民一人ひとりの生活の質を維持し、社会保障制度を持続可能なものとするためには、平均寿命の伸びを上回る健康寿命の延伸、即ち、健康寿命と平均寿命との差を縮小することが重要です。
なぜなら、元気なうち、いわゆる健康である間はまだまだ働きたい人がたくさんいることがそれを物語っているからです。
令和6年の内閣府が出した高齢社会白書の中の就業率に目をやれば、男性の場合、就業者の割合は、60~64歳のグループで84.4%、65~69歳のグループでは61.6%となっていて、65歳を過ぎても多くの人が就業しています。
また、女性の就業者の割合は男性よりも少ないものの、60~64歳で63.8%、65~69歳で43.1%となっています。
さらに、70~74歳では、男性の就業者の割合は42.6%、女性の就業者の割合は26.4%となっていて、働けるうちは働こうといった人が結構おられることが読み取れます。
特に男性の場合、健康寿命の平均値付近の人のうち4割強の方が働いていることに驚かされるばかりです。
この内閣府の調査の中で特に注目をしたいことは、経済的な暮らし向きについて「心配がない」(「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」と「家計にあまりゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」の合計)と感じている人の割合は68.5%となっています。
これは裏返して言えば、働く目的は経済的な暮らし向きの向上を満たすためだけでなく、働くことで人生の目的を見失うことなく暮らしていきたいといった気持ちを表わしているからではないかと感じます。
また、現在収入のある仕事をしている60歳以上の人については、約4割の人が「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答しており、70歳くらいまで、またはそれ以上との回答と合計すれば、約9割の人が人生の終盤を迎える高齢期においても高い就業意欲を持っている様子がうかがえます。
高い就業意欲は、社会において自分を役立てていきたい、これまで培ったスキルを埋もれさせることなく次代へ引き継いでいきたいといった、高齢者の切なる叫びとも取れます。
この意欲を朽ちさせることなく有意義に社会に役立てていく仕組みが今求められています。
この仕組みを確立するとともに、健康寿命を出来るだけ延ばす工夫を考え、その健康で得られる充足感や目的達成感を高齢者に享受していただくことで、高齢期の人のQOL向上へ直結出来ればと願うばかりです。(ま)