人生の質を高める選択と集中とは
さて、今回の話題は「人生における選択と集中」についてのお話です。
いよいよ4月となりました。
3月の卒業式を終え、桜の便りが各地から届く季節となりました。
4月からは入学式や入社式、また新年度が始まる中で、新たな生活を始められる方も多いと思います。
この季節になると、私は今も語り継がれている、あるスピーチを思い出してしまいます。
それは、ご存知の方も多いと思いますが、2005年にスティーブ・ジョブズ氏が行った米スタンフォード大学の卒業式でのスピーチです。
スティーブ・ジョブズとは、現在、時価総額世界一のApple(アップル)を創業された方です。
人々に感銘を与えたこの伝説のスピーチは、「点と点をつなぐ」「愛と敗北について」「死について」という “人生で得た3つのストーリー “ と、締めで語られた「ハングリーであれ、愚か者であれ」という言葉が有名です。
私は、このスピーチ全文を日本語訳で読んで、あまりの内容の深さ、素晴らしさに感動し、その後の人生観が変わるほど大きな影響を受けました。
人生を考えるとき、私は今でも当時50歳のジョブズが、膵臓がんに侵されながらも手術によって一命を取り留め、自らの生い立ちや闘病生活を織り交ぜながら人生観を余すところなく語った、この名スピーチが忘れられません。
残念ながらその6年後、ジョブズはまたしても膵臓がんにより、2011年10月5日に56歳で亡くなられていますが、この時のスピーチは今でも多くの人々の記憶にきざまれています。
ジョブズは17歳の頃から毎朝、「もし今日が人生最後の日だとしたら、今からやろうとしていたことをするだろうか」と、鏡に映る自分にそう問いかけていたそうです。
今回は、このスピーチの中から、3つ目の「死について」、語られた内容を少し抜粋して紹介したいと思います。
●死について:「1年前、私は膵臓がんと診断されました。・・人生で死にもっとも近づいたひとときでした。・・」
「誰も死にたくない。天国に行きたいと思っている人間でさえ、死んでそこにたどり着きたいとは思わないでしょう。死は我々全員の行き先です。死から逃れた人間は一人もいない。それは、あるべき姿なのです。死はたぶん、生命の最高の発明です。それは生物を進化させる担い手。古いものを取り去り、新しいものを生み出す。今、あなた方は新しい存在ですが、いずれは年老いて、消えゆくのです。深刻な話で申し訳ないですが、真実です」
「あなた方の時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。ドグマにとらわれてはいけない。それは他人の考えに従って生きることと同じです。他人の考えに溺れるあまり、あなた方の内なる声がかき消されないように。そして何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。
あなた方の心や直感は、自分が本当は何をしたいのかもう知っているはず。ほかのことは二の次で構わないのです。・・」
「ハングリーであれ。愚か者であれ。私自身、いつもそうありたいと思っています。そして今、卒業して新たな人生を踏み出すあなた方にもそうあってほしい。ハングリーであれ。愚か者であれ」・・「ありがとうございました」
いかがですか?
「何でもやってみたかったこと、今からでも良いのでやってみようかな!」そう思いませんでしたか?
もしよろしければ、ぜひ一度、スピーチの全文を読み直してみられてはいかがでしょうか。おすすめです。
さて、日本の企業では、1990年代半ば頃から広まった「選択と集中」戦略が今でもよく話題になります。
選択と集中とは、1980年代に経営学者のピーター・ドラッカーによって提唱された経営戦略です。企業の競争戦略上、得意とする、あるいは、得意としたい事業分野を絞り込み、そこに経営資源を集中することを指します。
これまで日本の企業の多くは、継続的な成長のために、単一事業に頼るのはリスクが高いという考えから、多くの企業が多角化を進めてきた経緯があります。当時は終身雇用が一般的で、リストラによる余剰人員対策の必要もありました。
しかし、どの事業においても競争に勝つためには、相応の経営資源、ノウハウの蓄積、迅速な意思決定を必要とします。
一方で、多くの事業を抱え込むほど、一つの事業に投入できる経営資源は限られてしまい、多角化はグローバル化の中で競争優位性を高める上では中途半端にならざるを得ませんでした。
そのようなことから近年では、グローバル競争で生き残るため、不振事業の売却や企業統合が進められ、得意分野に経営資源を集中する「選択と集中」を行う企業が増えています。
とくに最近は、海外のアクティビスト(物言う株主)が、古い体質の日本企業に対して、企業価値の向上や株主利益の最大化を求めて提案が活発化していることも影響しているかもしれません。
ではここで、これら企業の戦略と、本日のテーマである「人生における選択と集中」について、考えてみることといたしましょう。
これは、とんでもなく難しいテーマです。
企業の選択と集中とは違い、何が自分の人生にとって良い選択で、何が悪い選択になるのか。それは一面だけを見るだけではわかりません。
その選択をしたおかげで一時は良くない状況となっても、その後の結果としてたどり着く幸運もあります。
先ほど取り上げさせていただいた、スティーブ・ジョブズが行った米スタンフォード大学卒業式でのスピーチでは、「点と点をつなぐ」「愛と敗北について」という内容で、以下のようなことが語られています。
●点と点をつなぐ:「将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎ合わせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。
だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない」
また30歳の時、友人と創業したアップルから突然解雇されたことに対しても、
●愛と敗北について:「これは本当にしんどい出来事でした。・・しかしその時は気づきませんでしたが、アップルから追い出されたことは、人生でもっとも幸運な出来事だったのです。・・アップルを追われなかったら、今の私は無かったでしょう。非常に苦い薬でしたが、私にはそういうつらい経験が必要だったのでしょう。最悪のできごとに見舞われても、信念を失わないこと。自分の仕事を愛してやまなかったからこそ、前進し続けられたのです。皆さんも大好きなことを見つけてください」
この場を想像して、実際の卒業式を思い浮かべて聴いてみますと、これから社会に羽ばたいていく学生にとって、本当に示唆に富んだ名スピーチだったのではないでしょうか。
皆さんは、人生における選択は何回くらいあるかご存知ですか?
ケンブリッジ大学での研究によると、人は1日に約35,000回の選択をしていると考えられています。これは小さな決断「何を食べるか」「どの服を着るか」などから、大きな人生の選択「どの仕事を選ぶか」「どこに住むか」などが含まれます。
また、その他にも例えば、コーネル大学での研究では、食事に関する選択だけでも、1日に平均226.7回の決断をしているとされます。
単純計算すると、80年間の人生では約10億回以上の選択をしていることになります。今の自分は、これまでに選んできた無数の選択の結果です。
ただ、過去の選択の積み重ねが今の自分をつくっているのは事実ですが、重要なのは、今からの選択が未来をつくるということです。
企業が「選択と集中」に失敗すると、市場での競争力を失い、業績悪化や倒産のリスクが生じます。
しかし個人の場合は、仮に選択が間違っていたとしても、キャリアの見直しや生活習慣を見直すことで人生の方向転換が可能です。
また、企業は市場競争の中で利益を追求するのに対し、個人は、自分軸の価値観や幸福感・満足度を軸に選択するという点で大きな違いがあります。
判断の基準は、何を大切にしたいか、何を優先するか決めることが重要です。
そして同時に、変化に対応する力、社会の変化や不測の事態へも柔軟に適応していくことが成功のカギとなります。
どのように優先順位を決めるか。これは、いろいろな人の生き方から学ぶと良いかもしれません。
しかし一方で、一般的に言われる「決断疲れ」にも気をつけたいものです。
選択肢が多すぎると迷いやストレスが生じるため、「何を選ばないか」ということも大切です。
要は、何が自分に合っているか、幸福感・満足度をものさしにして、身近なことから始めてみられてはいかがでしょうか。例えば、
●今から健康的な生活習慣を選べば、数年後の自分の健康は変わる
●今から時間の使い方を選べば、生きがいが広がる
●今から人間関係を選べば、心の安定を得られる
などが良いかもしれません。また、断捨離や終活も「選択と集中」の考え方に基づくものと言えるでしょう。
「人生における選択と集中」は、QOL(人生の質)を向上させるために、好きなこと、価値ある重要なことに時間・労力を集中させることです。
“ あなた方の時間は限られています。“
皆さんもぜひ、無理のない「選択と集中」の考え方を持つことで、より充実した人生を送ってみられませんか。(ふ)