ポジシェアって何?

さて、今回の話題は、まだ然程聞き慣れない言葉の「ポジティブ・シェアリング」のお話しです。

「ポジティブ・シェアリング(ポジシェア)」は、日々の生活で溜まってしまうこころや体の疲れとの上手なつきあい方(セルフケア)をご紹介するコンテンツです。
自分に合った方法やできそうなことを見つけて、友達や家族に教えたり、一緒に試したりします。
そんな、前向き(ポジティブ)なつながりをみんなで広げていく(シェアする)ことを目的としているのが「ポジティブ・シェアリング」です。

ストレスをたくさん抱えすぎることなく、生き生きと仕事に取り組むためには、働く方一人ひとりが自らのストレスの状況に気づき、その状況に応じて対処(セルフケア)をすることが大切です。

こうした観点から、厚生労働省が取り組む「ポジティブ・シェアリング」では、自分に適したセルフケアを見つけるきっかけとなるよう、日々の生活で溜まってしまう、心や体の疲れとの上手なつきあい方についての工夫やアイデアを紹介しています。
また、厚生労働省では、こうしたアイデアを職場の同僚やご家族、友人の間にも広めて欲しいという思いを込め「ポジティブ・シェアリング」という名称にしています。

それでは、一般社団法人日本産業カウンセラー協会が運営する厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト『こころの耳』」に掲載の内容をご紹介しながら、「ポジティブ・シェアリング」とは何なのかを覗いてみたいと思います。

まず、人間の心を育てるストロークの説明から見てみましょう。
赤ちゃんは生まれた時から親や周囲の人によって、抱っこされ、ほおずりされて育ちます。
「かわいいね」と声を掛けられ、笑顔を向けられ、たくさんの愛情あふれる関わりを受けます。
そこから、「私はOK、あなたもOK」という人生の基本的な構え方を体感的に身につけていきま す。
OKとは、「自分はここに存在していい」という自尊感情の原点であって、「私は明日に向かって生きていける」という自信の基になるものです。
このような関わりを「ストローク」といいます。
肌の触れ合いやほほ笑み、愛情ある関わりなど、ストロークは「あなたという存在を認めていますよ」という存在認知のメッセージです。
自分という人間(人格)を形成するための心の栄養素でもあるのです。
人は生まれた時から死ぬまで、「心の栄養」であるストロークを求めます。
抱っこのような肌の触れ合いを通しての身体的ストロークに始まり、成長するにつれ、ほほ笑みや相手を気づかう態度などの精神的なストロークが増えてきます。

ストロークにもさまざまな種類があります。
褒められたり、労われたり、笑顔であいさつされたりすることで心が快くなるのが、「肯定的ストローク」です。
その中で、「あの難しい契約をまとめあげるとは、〇〇さんはよくやった」など、相手の行為や行動に対してのストロークを条件付きストロークと言い、相手は「次も頑張ろう」というモチベーションを助長します。
反面、伝え方を間違うと「難しい契約をまとめられなければ、〇〇さんは
ダメだ」と逆のメッセージと受け取られてしまって、相手を追い込んでしまうことになりかねません。
人が求めているのは、「あなたのことが好き」、「君はうちのチームになくてはならない存在だ」 など、相手の存在に対して送られる無条件の肯定的ストロークです。
人は無条件の肯定的ストロークを受けることによって自尊感情が高まり、前向きに生きていけるという自信を得ることが出来ます。

反対に、叱責されたり、にらまれたり、舌打ちされたりすることで心が不快になるのが、「否定的ストローク」です。
その中で、「こんなケアレスミスをしたらダメだよ」など、相手の行為や行動に対する条件付きストロークは、適切に伝えれば、「ケアレスミスさえしなければ、君はOK」というメッセージと受け取られ、相手は、「次からは気を付けよう」と考える教育的なストロークになります。
また、「あなたのことは嫌いだ」、「君の代わりはいくらでもいる」など相手の存在を否定するような、否定的無条件ストロークを受けると、自尊感情が低下し、それが続けば心身の不調を生じることにもなりかねません。

「おはよう」と笑顔で声を掛ければ、必ず「おはよう」と笑顔が返ってくる。
それを人は期待しています。
しかし、相手が気づかなかったり、無視されたりすると、途端に不安になることはありませんか。
ストロークが不足する状態が続くと、無意識に否定的なストロークでもかまわないと求めるようになってしまいます。
例えば、いじめられていてもそのグループから抜けられないのは、離れたら誰からもストロークが来なくなり、その孤独感に耐えられないからでもあるのです。

私たちは乳幼児期から現在にいたるまで、周囲のストロークを受けて、心の状態である自我状態を育ててきました。
自我状態の原型は学童期ごろにできあがりますが、その後も発達を続けていきます。
ストロークの受け取り方の積み重ねから、私たちは人生の構え方、生き方、人生観にも大きな影響を受けていると言えます。
人間関係の中で劣等感が強くなったり、独善的になったり、自閉的になりやすくなったりするのもその影響と言えるのではないでしょうか。

自分がどのような人間関係を築きたいのか、人生をどう描きたいのかは、自ら選択できるものです。
また、自分のストロークの授受の方法を意識すれば人間関係も変えることができます。
「あなたを信頼しています」、「あなたならできます」など、無条件肯定的ストロークで相手の存在をしっかりと認めましょう。
そして否定的ストロークも、「同じミスはくり返さないよう、気をつけて」など、相手の行為・行動に対する条件付けを明確にした上で教育的に伝えるように心がけることが望まれます。
ストロークの送り方を変えていくことで、周囲からもあなたに対して同様のストロークが増えて来るでしょう。
職場でも家庭でも、「私もあなたもOK」という健全で協調的な相互信頼の関係が築かれることで、自己実現を可能にしていきます。
人生を自分のありたい方向に舵を切ることができるのは、自分自身です。

ストロークはブーメラン効果と言われます。
「おはよう」、「お疲れさま」、「よく頑張りましたね」などの肯定的ストロークを送るよう心がければ、肯定的ストロークが返ってきやすくなり、「ダメ、ダメ」、「また失敗したの?」、 「・・・(無視)」など、否定的ストロークを送ることが多いと、否定的ストロークが返ってきやすいといった傾向があります。
まず、自分自身のストロークの出し方の傾向に気づいてみましょう。
職場でも家庭でも、ほめる、ねぎらう、感謝する、笑顔を向けるなどといった行動を出し惜しみせず、肯定的な無条件ストロークをしっかりとたくさん送ることに心掛けましょう。
ブーメラン効果で、そこからストロークの輪が広がります。
職場が、家庭が、そして社会全体が、心明るく元気になります。
人は誰でもOKであり、誰もが考える力を持っています。
過去と他人は変わりません。
変わるのは、現在と将来の自分だけです。
自分の運命は自分自身が決め、そしてその決定を変えることができるのも自分自身なのです。

心の持ち様によって、自分自身の人生を自分の思っている方向へと持って行けるというストロークの考え方は、最後は少し哲学的になった感がありますが、肯定的なストロークは即ち自己肯定感を高めることが出来るものではないでしょうか。
そして、この考え方をシェアしていくことにより自分の周辺が言い方向へ向いてくれることに繋がると言えます。
ストレス社会と言われて久しいですが、私たち現代人はストレスを抱え過ぎることなく、生き生きと仕事に取り組むためには、働く方一人ひとりが自らのストレスの状況に気づき、正しい対処(セルフケア)をすることが大切です。
こうした観点から、新コンテンツ「ポジティブ・シェアリング」では、自分に適したセルフケアを見つけるきっかけとなるよう、日々の生活で溜まってしまう、心や体の疲れとの上手なつきあい方について知ることが大切だと述べています。
職場などにおいては、自分と他人との交流パターン(人間関係)に着目することで、人間関係の改善や自律的な生き方・自己実現に役立ちます。
先に紹介した働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトの『こころの耳』のURLを下記に貼り付けておきますので、興味を持たれた方やもう少し知りたい方は、そこから「ポジティブ・シェアリング」を検索していただければと思います。
https://kokoro.mhlw.go.jp/

最後に感想をひと言。
このメルマガの原稿を執筆していて感じたのですが、もしかすると厚生労働省が提唱している「ポジティブ・シェアリング」は、社会構造をより良い方向へと私たちを誘(いざな)ってくれることを目論んでいる壮大な事業ではないのかと思えて来ました。(ま)