デジタル遺品
さて、今回は、デジタル遺品についての話題です。
最近「終活」という言葉を良く耳にします。
「終活」とは、人が自らの死を意識して、人生の最期を迎えるための様々な準備や、そこに向けた人生の総括を意味する言葉、行動を指します。
「終活」が流行している背景には、医療の発達による高齢化、学費の高負担化に伴う少子化や地方の人の都会への進出に伴う過疎化、核家族化などが挙げられるのではないでしょうか。
この「終活」に関して、日本経済新聞に昔には無かった「デジタル遺品」の記事が掲載されていました。
この記事の中でよくあるケースとして幾つか紹介し、深掘りをしていきたいと思います。
それでは、ひとつめとして「スマホのロックが解除できない」からです。
モバイル社会研究所が2025年1月に行った調査で、96%のシニア層(今回は60歳~84歳が対象)がスマートフォンか従来からのいわゆるガラケーを所持していることが分かりました。
その内訳は89%がスマートフォンで、7%がガラケーとなっています。
これを裏返にしてみれば、もうシニア層でもスマホの利用が定着しているため、多くの遺族がその処置や処分に悩まされている現実があることが分かります。
読者の皆さんもシニア層と同様に、様々なサービスと各種のデータをスマホ内に格納したり、集約していることと思います。
具体的には、「電子マネーなどのアプリ」「登録されている連絡帳の把握」などを立ち上げる場合には必要となってきます。
その中でも最もやっかいなものが指紋や顔などを使った生体認証です。
火葬される前に解除ができればいいのですが、相続対象の財産にまつわる情報もあるため、トラブルを回避するために相続人全員で確認をしたいといったことが出てきます。
このように、デジタル終活の1丁目1番地は「ログインパスワードの共有」が重要なキーとなりますので、対策として有効な手立ては、エンディングノートなどをうまく活用して、スマホのロックを解除するためのログインパスワードを共有していくことをオススメします。
ふたつめは「ネット証券口座で株式等を保有」です。
従来の窓口での株式の取引は手数料もそこそこ掛かりましたが、最近では手数料が掛からないか、桁違いに安く、スマホで手軽に売買が可能なネット証券が人気を集めています。
そんな中、故人が生前ネット証券で株式などの取引をしていたことを遺族が知らないままに亡くなってしまうケースがあります。
そうなれば、株式などの遺産が把握できず、相続税の申告漏れにつながる可能性があるのです。
特に注意を要するのは、(外国為替などの)証拠金取引(自分が持っているお金より大きな取引をする事が可能になる取引)をしていた場合、遺族が多額の債務を負う懸念があります。
専門家は、相続開始から3ヶ月が経過して(資産と負債を全て継ぐ)単純承認をしてしまうと、前述した負債を相続人が負う可能性が高いので、スマホのロック解除のところでも述べたように、ログインIDやパスワードのエンディングノートなどへの記入が重要な対策になるとのことです。
そして、特定の相続人が独断で取引しないように、全ての相続人で情報を適切に開示・共有しながら、相続時におけるトラブル防止につなげることが賢明だと述べています。
次は「ネット銀行に残高」です。
相続人とすれば、銀行預金残高が少ない場合には、遺産の価値としては低いのでそのままにといった気持ちも理解できますが、やはり遺産として遺言又は遺産分割協議の対象財産として法的な処理をきちっと行う必要はあります。
オンライン銀行の口座の有無については、メモでもいいので相続人が見つけやすい方法で引き継ぐとスムースです。
口座があることさえ分かれば、ネット銀行サービス各社は遺族からの問い合わせ窓口を用意しているので、十分連絡は可能です。
故人の死後は、トラブル防止のために本人の口座は凍結されますが、葬儀代など故人の身辺整理にかかる費用は仮払制度というものがありますので、銀行側と手続きの方法などを確認しておくことがいいでしょうね。
次に紹介するのは「パソコンのロック解除ができない」です。
年齢層の高い人は、最近急激に普及が進んだスマホより、以前から使っているパソコンにデジタル遺品全般の手がかりを遺していることが多い傾向にあります。
パソコン内のメモなどに、デジタル遺品のIDやパスワードが個別にたくさん集中して遺されていることがあれば、業者に依頼してロックを解除する方法もありますが、当然高額な費用がかかってしまうこともあります。
それを防止するためには、前述したようにエンディングノートなどへの記入でもって、IDやパスワードを共有・管理していくことが肝要です。
次は「サブスクなどの課金サービス利用」です。
動画や音楽配信サービス、電子書籍・雑誌・新聞の読み放題プラン、学び直しで利用されているオンライン学習講座などで手軽に利用されているサブスクリプション(定額課金)サービスの内容は多岐にわたります。
一般的には、故人の死亡後に契約を解約する際には、相続人と故人との関係が分かる公的書類や死亡診断書の写しなどを先方へ送るなど、相続人にとって手続きが煩雑となるケースが多くあります。
このため、遺族の負担を少しでも減らすためにも、最低限利用中のサービス一覧は共有しておくのが無難ですし、あまり使用していないサービスに関しては生前に整理しておくことが無難だといえます。
課金サービス事業者に連絡をしないまま、クレジットカードや銀行口座を解約すれば、利用料金の滞納となる可能性があるので要注意です。
最後は「携帯電話の解約」です。
利用料金が発生するため、解約をしようとしてしまいがちですが、こと携帯電話に関しては焦って解約することには注意が必要です。
銀行サービスなどのログイン時に、最近多くの金融機関でセキュリティ対策として取り入れられている一定時間ごとに変わる「ワンタイムパスワード」が必要なケースには、金融機関側から送られてくるパスワードを受信するために必須の機器が携帯電話です。
解約後に気づいてしまった場合、金融機関などの処理手続きが不通・遮断されてしまうため、最悪取り返しのつかないことになることが考えられます。
このことからも、解約のタイミングとしては、諸手続が全て完了したあとに行うのが賢明といえます。
また、電話やショートメッセージサービス(SMS)などでしか連絡をしていなかった故人の友人への連絡手段としても残しておくことも必要ですので、最低でも3ヶ月程度は解約せずに継続することが望ましいと思われます。
ここまで6つの具体的な事例を紹介しました。
ここで紹介した事例は、社会全体として個人情報を守るためにIDやパスワードによる個人認証という方法における負の部分といえるでしょう。
遺品のデジタル製品に情報がしまい込まれていて、利用していた本人が亡くなることでログイン方法が適切に家族などに伝わっていない場合におこる諸問題の事例と言えます。
読者の皆さんはもう気づかれていると思いますが、故人と家族などとのデジタル情報の共有をキッチリとすれば問題解決に至るという結論が見え隠れしています。
しかし一方で、社会構造が核家族化や一人暮らしの高齢者の増加といった問題を抱えていますし、故人が認知症に罹ることで、正確な情報を共有できるタイミングを逃してしまう可能性も出て来ます。
デジタル遺品ではありませんが、私は昨年亡くなった母と、生前からマメに終活に向けての情報共有をしていたお陰で、遺産相続がスムーズに完了した経験があります。
こうしたことから、家族間の日々のコミュニケーションの大切さが如何に大事かを感じざるを得ません。
この文章を書いていて、筆者自身の場合は、家族に対してしっかりと正確な情報を共有して行きたいし、行かなければならない義務があると真剣に感じさせられました。
社会全体がこれまでアナログ社会からデジタル社会へ移行してきたにも関わらず、ことデジタル遺品の処理に関しては、エンディングノートなどのアナログ情報が大変役立つことになるとは皮肉なものだと感じてしまいますね。(ま)