ウェルビーイングの現状

さて、今回の話題は日本の官公庁も最近になってよく取り上げている「ウェルビーイング」についてです。

「ウェルビーイング」(well-being)とは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念で、「幸福」と翻訳されることも多い言葉です。

ウェルビーイングに関する調査として有名なものの一つが、ギャラップ社(アメリカ)の調査で、140を超える国や地域で行われる幸福度についての大規模な調査です。
同調査は国連の持続的な開発ソリューションネットワーク(SDSN)が発表する世界幸福度ランキングでも活用されています。

では、「ウェルビーイング」が注目される背景には何があるのでしょうか。
概ね4つの項目についてまとめてみました。

【価値観の多様化】
ダイバーシティという言葉に代表されるように、価値観に関しては加速度的に多様化しています。
性別や国籍、文化など、さまざまなバックグラウンドを持つ人が集まり、ともに仕事をするようになりました。
こうしたことから、特に企業経営においては、従業員の多様性を尊重することの重要性が高まっています。
多様性を尊重することでさまざまなビジネスアイデアが生まれたり、コミュニケーションが活発になったりする側面が大いにあるからです。
企業が従業員の多様性を受け入れ、異なる価値観やバックグラウンドを持つ人材がその能力をフルに発揮するための環境を整備することは、従業員の幸福感を増し、ひいては企業の競争力を高め、イノベーションにもつながります。

【働き方改革の推進】
2019年4月からスタートした働き方改革。
残業時間の上限規制や、産業医の機能強化、同一労働・同一賃金の適用などを定めるものです。
企業は、多様な価値観やライフスタイルを持つ従業員が働きやすい環境を整備する必要があります。
また、昨今の人材採用は競争が激しくなり、マーケティング戦略を明確にすることの重要さが増しています。
テレワークや副業が可能であるなど、魅力的な労働環境を整備することは、優秀な人材を確保することにもつながります。
企業は、どのような働き方であれば従業員の幸福度が増してやりがいを感じるのかといった観点で、制度や仕組みを検討する必要があります。

【新型コロナウイルス感染症の拡大】
2020年に起こった新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちの社会や仕事を大きく変えるトリガーになりました。
自分や家族の幸福について、あらためて考えさせられた人も多かったのではないでしょうか。
新型コロナウイルス感染予防対策として急速に普及したテレワークは業務効率化につながりましたが、同時に新たな問題点や従業員のストレスも増加しました。
コミュニケーションが断絶した中での業務により不安や孤独感を感じ、メンタルの不調を訴える従業員もいます。
そのため、従業員やその家族が健康でやりがいを持って仕事をするための考え方として「ウェルビーイング」に対する注目が高まっているのです。

【SDGsでの言及】
SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が近年よく聞かれるようになりました。
SDGsとは、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際的な目標のことで、2015年9月の国連サミットで採択されました。
SDGsでは17のゴールと169のターゲットが定められています。
この目標の一つには「GOOD HEALTH AND WELL-BEING」があり、ウェルビーイングが注目されていることがわかります。

以上4つの背景がある中で、日本のウェルビーイングの動きがわかる調査結果の発表が昨年末にありましたので紹介します。
Global Wellbeing Initiativeというところが実施した2021年7-9月期における日本のウェルビーイング実感についての調査です。
2021年4-6月期と比較すると、ウェルビーイング実感が高い人たちの割合は、32%と5ポイント上昇しました。
これはリーマンショック前の水準と同等に戻ったことになります。
また、ウェルビーイング実感が低い人たちの割合は、1ポイント下降して10%となりました。
前回調査からの変化は小さく、また、ウェルビーイング実感のデータが測定され始めた2006年の同スコアと比較すると、6%であった水準には戻っていません。

この調査結果をみると、日本のウェルビーイング実感は国や企業の努力で確実に高くなってきています。
ただし、実感が低い方が1 割おられることには注意が必要で、コロナ禍等による雇用面や経済面で、二重三重のより厳しい状況に陥っている人たちがいることに注目し、きめ細かく社会全体で対応していくことが肝要だと思われます。

これからも、誰ひとり取り残さないSDGsの精神を受け継ぐためにも、ウェルビーイングの低い実感を持つ方全てをウェルビーイングの実感が高い人たちへと変えていく活動を継続していく必要があります。
今後ともQOLジャパンは、日本のウェルビーイング活動を通してより一層ウェルビーイングの実感が高まることを願っています。