行動変容と習慣化を学べる二冊の本

さて、今回の話題は、「これならできそうと思えた、行動変容と習慣化を学べる二冊の本」についてのお話です。

「やったほうがいい」と分かっているのに、なかなか始められない。
「続けよう」と思っていても、日々の忙しさの中で後回しになってしまう。

そんな経験はありませんか。

でも、それは意志が弱いからではありません。行動を変え、それを習慣として続けていくには、気合いや根性だけではなく、続けやすくするための考え方や工夫が必要です。
今年になって、私たちの活動をこれからどのように深めていけばよいのかを考えていた頃、大変ありがたいことに、行動変容や習慣化について考える上で、とても腑に落ちる二冊の本に出会いました。

行動変容とは、習慣化とは

行動変容とは、人の意識や考え方の変化にともなって、行動や習慣が変わり、それが定着していく一連のプロセスを表す言葉です。
もともとは医療や健康づくりの分野で使われてきた言葉ですが、最近では健康管理だけではなく、社会を良くするための取組み、ビジネスシーンなど、人に影響を与え、行動を促すさまざまな場面で用いられています。

今回は、毎日の暮らしの中で無理なくできる「行動変容」と「習慣化」の考え方を、この二冊の書籍を通してご紹介したいと思います。

一冊目は、文眞堂さんから出版されている瓜生原葉子さんの著書で、「ソーシャルマーケティング 行動変容で社会的価値を共創する」という専門書です。

現在、同志社大学で教鞭を執っておられる瓜生原教授とは、ひょんなことでご縁ができました。ご専門は、ソーシャルマーケティング、行動変容マネジメント、移植医療の社会的価値の普及と社会基盤の確立などです。
最近では対話イベントの企画者としても活躍されています。

そして二冊目は、言語学者の堀田秀吾さんの著書で、「科学的に証明されたすごい習慣大百科」です。
この本には、ハーバード、スタンフォード、オックスフォードなど、世界的に著名な大学での研究をベースに、エビデンスに基づく、人生が変わるテクニックが112個紹介されています。
「続かないのはあなたが悪いわけじゃない」というまえがきで始まる本書には、気合いや精神論は一切ありません。代わりに、世界中の心理学、行動経済学、脳科学などの研究をベースに、「もっとラクに、もっと自然に、習慣化できる方法」が分かりやすく紹介されています。

例えば、プロローグで紹介されている「習慣化に意思力はいらない 習慣化の3つの原理を知る」では、1.まず動く(体が先、脳が後)、2.すでに備わっている習慣にくっつける(ハビット・スタッキング)、3.環境を利用する(ナッジ)の3つの習慣化の原理が紹介されています。

ここ数年来、新語として「言語化」がブームとなっていますが、さすが言語学者の堀田秀吾さんだけあって、本書は、仕事、勉強、コミュニケーション、メンタル、健康、くらしなど、さまざまな分野で役立つ112個もの習慣化テクニックが、本当に分かりやすく言語化された、まさに「科学的・実践的な大図鑑」といえる一冊です。

完璧じゃなくて良い。
できる日だけ、できる範囲で。
このように言っていただくと本当に、「これならできそう」                            「ちょっとやってみようかな」と思えるから不思議です。

行動変容ステージモデルとは

行動変容についての話にはよく、「行動変容ステージモデル」という専門用語が登場します。
瓜生原さんの本を読んでみると、その中で「トランスセオリティカルモデル・行動変容ステージモデル」について、大変詳しく述べられていますので、ここで少し抜粋して紹介させていただきたいと思います。

行動変容の実効性を高めるためには、学際的な行動科学理論を適切に用いることが大切であると言われています。
トランスセオリティカルモデルは、Prochaska(1979)によって創り出されたモデルです。
その後、Prochaska and DiClemente(1983)は、禁煙の行動変容はステージを通過しながら進むことを明らかにし、「行動変容ステージモデル」を提唱しました。
本モデルでは、人間が行動を変容する際には、
「無関心期」: 6カ月以内に行動を起こそうと思っていない。
「関心期」: 6カ月以内に行動を起こそうと思っているが実際には行動していない。
「準備期」: 1カ月以内に行動を起こそうとの意図があり、それに向けて何らかの行動を起こしている。
「実行期」: 行動を起こして6カ月未満である。
「維持期」: 行動を変えて6カ月以上である。
「完結期」: 元に戻る気持ちはなく自己効力感が100%ある。
といった、6つのステ-ジを段階的に経るという考えを基盤にしたものです。

現在の行動変容ステージモデルでは、人が行動を変える場合は、「無関心期」⇒「関心期」⇒「準備期」⇒「実行期」⇒「維持期」の5つのステージを通ると紹介されますが、当初は6つのステージモデルだったんですね!

そして、行動の促進には、各ステージにおいて適切な介入(効果的な働きかけ)を行うことが非常に重要とされています。例えば、
「無関心期」は、行動を変化させる意思がなく、問題をも否定している段階であるため、行動を変える必要性を感じさせ、メリットを意識させること。
「関心期」は、問題や変化の必要性に気づき、行動変化を考え始める段階であるため、不安や障害となることをすべて挙げて解決法を考える。できそうなことや身近なことに結びつけ、ポジティブイメージが有用であること。
「準備期」は、意思決定をし、行動のための準備を始める段階であるため、行動変容を行う際の誘因および報酬に着目する。また、行動変容を周囲に宣言することも効果的であること。
「実行期」は、行動を変えたが習慣になっていない段階であるため、小さな目標の設定と達成により自己効力感を高めること。周りからのサポートを活用したり、継続しやすい環境作りをすることで「維持期」に移行できること。
などが、具体的な介入事例となります。

このように、介入のあり方はそれぞれステージごとに異なり、ステージ分類に基づいた働きかけを行うことによって、行動変容をより実現しやすくすることができるのです。
当初は、禁煙の研究から導かれた「行動変容ステージモデル」ですが、その後も、過度なアルコール摂取の防止、食事や体重制限、暴力の停止、高齢者の運動促進など、さまざまな行動に応用され、現在に至っています。

瓜生原さんの本に出会ったことで、本当に多くの学びを得ることができました。そして、なぜ、「いま」ソーシャルマーケティングなのか、が少し自分事として受け止められたような気がします。
文中に記載のあった、「必要なのは、市民一人ひとりが自ら行動を起こし、その行動の連鎖が社会全体へと広がり、ソーシャルグッドを実現することです。行動変容を科学的に、そして戦略的にデザインする枠組みとして、ソーシャルマーケティングがいまこそ、求められているのではないでしょうか」

この言葉をかみしめてみると、なぜか、瓜生原さんと直接、対話をしているような不思議な感覚さえ覚えました。
それは、ソーシャルグッドを目指している私たち、そして、「市民の一人として、これからもやってみようかな」と思えた瞬間でもありました。

QOL(生活の質)を向上させる小さな一歩

行動変容や習慣化は、「特別な人」「頑張れる人だけのもの」ではありません。しかし、QOL(生活の質)が低下している時は、無理に行動変容を迫られるとかえってストレスや疲弊をまねき、逆効果になるリスクが高いため慎重な選択が必要です。

身体や心に不調を抱えているとき、暮らしの変化に戸惑っているとき、社会とのつながりが少なくなったと感じるとき、など精神的、身体的に余裕がない状態で新しいことを始めると、失敗した際に自己肯定感が下がり、さらに気持ちが沈んでしまうこともあります。

まずは、負担の軽減のために、十分な休養、睡眠、栄養をしっかりとり、自分を責めずに、今できる小さな一歩を見つけることができるよう、少しずつ心と体のエネルギーを回復させることが先決です。
                                                        今できることを、少しだけ。
できる日に、できる範囲で。

痛みがある方なら、できる範囲で体をほぐす。
気持ちが沈んでいる方なら、朝にカーテンを開ける。
社会的なつながりが減った方なら、誰かに短い挨拶をする。

行動変容と習慣化は、自分を責めるためのものではありません。これからの自分を少し楽にし、よりよく生きるための小さな工夫なのだと思います。
自分は何を望み、何に幸せを感じるのか。
そのことを見つめながら踏み出す小さな一歩が、QOLを少しずつ高め、Well-beingにつながるきっかけになるのではないでしょうか。(ふ)