それって年のせい?

さて、読者の皆さんの中には加齢とともに、少し気になる症状はありませんか?
今回は健康寿命を削らないでをテーマとした第4弾として「年のせい」と片付けられがちな「歩行」と「排尿」についてスポットを当ててみようと思います。

先ずは日常生活に欠かせない「歩行」についてです。
歩くということは人として基本動作です。
買い物に行く、公園を散歩する、友人と出かける、などといった日常生活で歩く動作はとても重要です。
しかし高齢になると、この歩くという機能が衰えてきます。
「歳だから歩けなくなるのは仕方がない」と思われる方もいますが、果たして本当にそうなのか掘り下げてみましょう。

1 歩行が苦になる高齢者はどれくらいいるのでしょうか。
厚生労働省の令和4年の国民生活基礎調査によると、日常生活における歩行において、道を歩いたり階段を上ることが難しいといった苦労がありますか?との質問に、苦労するあるいは歩行できないと答えた方は23.1%でした。
つまり全人口の4人に一人が歩くのに苦労していることになり、しかもこの割合は年々多くなってきています。
歩くのに介助が必要な方の割合は、60歳代では6%であるのに対し、85歳以上では38%にもなります。
加齢に伴って歩けない高齢者が増えるのは当然といえば当然かもしれませんが、諦めるのはまだまだ先の話で早過ぎますね。

2 歩くと足がしびれて長く歩くことが出来ない症状について
高齢者が歩けなくなる原因は様々です。
加齢に伴って下肢の筋肉が減少するとサルコペニアと呼ばれる病態となり歩けなくなることがあります。
この病態については、現代医学では本人が頑張って訓練をして筋肉をつけていくしか治療方法はありません。
脳卒中や骨折などで歩けなくなることもあるでしょうが、これもリハビリを行って訓練していくしかありません。
しかし高齢者の歩行障害の中には、歩けるけれども長く歩くと足がしびれたり、痛くなったりして短い距離しか歩行ができない間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれる歩行障害があります。
これには2つのタイプがあり、ひとつは下肢の動脈硬化に伴う血管性間欠性跛行と呼ばれるもので、これは血行を良くする治療により改善されることがあります。
もう一つは腰の神経が圧迫されて起こる神経性間欠性跛行です。
これは高齢者に多い腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)という疾患でよくみられる病態です。
その特徴は歩き続けていると徐々に下肢がしびれて痛くなってきて、腰をかがめてしゃがむと改善し、また歩くと悪化するという繰り返しになります。
2つ目で触れた腰部脊柱管狭窄症については、治療することで症状が改善される可能性があります。
薬剤を使用した保存的療法(人体を傷付けず、つまり出血させずに治療する方法の総称)や、薬剤で改善しない場合においては手術を行うことがあります。
まずは整形外科に受診をした上で、最良の治療法で改善を図っていただければと思います。

続いては、これもよく耳にする「排尿」についてです。
尿が近い・尿もれ・尿が出にくいといったことで、「これって年のせいだろうか」、「このまま様子をみていてよいのだろうか」との思いが湧いてきます。
しかし、本人も家族も、気になりながらも排尿の困りごとなどは話題にしづらく、ついつい後回しになってしまうことがあります。
これらの排尿の悩みは、症状のあらわれ方や背景が人によって異なり、ひとことでなかなか説明できるものではありません。
同じ「尿もれ」といった症状でも、急に強い尿意を感じてトイレまで我慢できずにもれる場合や咳や、くしゃみをしたときや重いものを持ったときなどで体に力が入った拍子にもれてしまう場合、また、足腰が弱ってトイレに行くまでに時間がかかってしまい間に合わずにもれる場合など起こり方は様々です。
「尿が出にくい」と感じる場面でも、出始めるまでに時間がかかってしまったり、出る勢いが弱かったり、残尿感があったり、途中で止まってしまうなど、人によって異なります。
このように、排尿の困りごとは人によってあらわれ方が異なります。

また、高齢者にとっては強い味方となるおむつですが、おむつを使うようになる背景にも、さまざまな理由があります。
排尿の困りごとが続く中で、「失敗してしまわないかが不安で」といった理由から、おむつや尿とりパッドを使うようになる方もいます。
更にトイレの場所が分からない慣れない場所への外出を控えたり、そもそも外出そのものを控えるようになる方もいます。
おむつを使うことで安心できる一方で、本当は使わずに済むならそうしたいとか、このまま続けていけばよいのかどうかが分からない、といった複雑な気持ちを抱えることもあります。
おむつの使用は、排尿の状態だけではなく、生活環境や体力、夜間の不安など、様々な要因が重なって選ばれることがあります。
そのため「使っている=もう仕方がない」といった方程式で決めつける必要はありません。
生活環境の改善を行うことで、おむつの使用を制限出来る道が開けてくる可能性もあるのですから、その可能性を信じてみればどうでしょう。

では、排尿に関わる様々な症状が起こるとき、体の中ではどのような変化が起きているのでしょうか。
年齢を重ねると、排尿に関して少しずつ変化が起こってくる場合がままあります。
○尿をためる膀胱の働き
○尿を出すときの筋肉や神経の働き
○尿の通り道(前立腺を含む)の状態
○日常の生活機能(トイレへの移動にかかる時間や、認知機能の低下)
こうした変化が重なり合うことで「急に尿意を感じて間に合わない」「出したいのに出にくい」「トイレに到着する前にもれてしまう」といった困りごとが生じます。
同じような症状に見えても、どの要素の影響が強いかは人によって異なります。
排尿トラブルを「年のせい」とあきらめていると、徐々に生活機能の低下を招き、外出を控えるようになるなど、生活の幅が少しずつ狭くなってしまうこともあります。
早めに現状を評価して適切な対策を行うことで排尿の不安が軽くなり、生活機能の維持につながる場合もありますので、諦めずに家族や医療機関など周囲の援助を受けつつQOLを向上を図っていただきたいと思います。

自分にとってネガティブに感じる事案は、ついついあれこれ理由を考えた挙げ句、「年のせい」にしてしまうことが多いといえます。
もうここまで来れば改善へのエネルギーを使うより、流れのままに「年のせい」にしてしまおういった意識が強く滲み出て来ているのではないでしょうか。
また、周囲の方々も、本人が「年のせい」と言っているのであれば、波風を立てずにそっとしておいてあげようといった気持ちを持って見守っているのでしょう。
ただ、人生100年時代と言われている今、フレイル(高齢者で、健康と要介護の中間の状態で将来、介護が必要になるリスクが高い状態のこと)に足を踏み入れてしまえば、健康寿命の維持が出来ないで元気に生活をすることが難しくなります。
ただし、フレイルは適切な運動や栄養、社会参加などの支援で改善が期待できる段階と言われています。
精神的に一番安易な「年のせい」へと逃げ込むようなことをせず、健康寿命を少しでも延ばせることへの意欲を継続して、健康体での人生100年へ挑戦するメンタルを持っていただきたいと切に願っています。(ま)